◇SH1523◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(30)組織風土改革運動に関する成功と失敗からの教訓② 岩倉秀雄(2017/12/01)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(30)

―組織風土改革運動に関する成功と失敗からの教訓②―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、筆者の「組織風土改革運動」に関する成功と失敗の経験から得られた教訓について述べた。

 組織文化の革新は、経営トップ以下全ての階層が参加してそれぞれの役割を果たす必要があり、(中途半端な取り組みは組織への信頼喪失につながるので)、強力なビジョンを構築するとともに、組織内外へのコミュニケーションを重視した総合戦略を設定し、(特に組織文化に起因する不祥事が発生した場合には)迅速・ドラスティックに実施する必要がある。

 今回から複数回にわたり、筆者が、何をきっかけに、なぜ、どう組織風土改革運動を行ったかについて、具体的に述べる。これから組織風土改革運動を実施する予定の組織があれば、若干でも参考になる点があるかもしれない。

 

【組織風土改革運動に関する成功と失敗からの教訓②】

(1) 組織風土改革運動を行った組織の概要

 1950年設立の「酪農民の経済的・社会的地位の向上と国民の食生活に寄与すること」(定款より)を目的に設立された専門農協の全国連合会。酪農と農協経営の指導、生産資材(飼料等)の生産・供給、生産者の生産物である生乳の全国流通、生乳を処理加工し付加価値を付けて一般市場で販売する乳業事業を主な事業として行う。会員農協数は、307(平成8年事件当時)で売上高は約2,000億円(平成8年、農協プラントとしてはトップ)。

(2) 牛乳不正表示事件

 新設の2牛乳工場で、無調整牛乳に生クリーム、脱脂粉乳を混ぜて調整した還元乳を原料の一部に使用し「成分無調整牛乳」と表示して販売した表示違反事件。

 組織ぐるみの実行とされなかったが、法人は監督不行き届きとして、事件に関与した者とともに、食品衛生法および不正競争防止法違反で刑事処分を受けた。また、公取より景品表示法違反として排除命令を受けた。

(3) 事件の影響

 メディアで、「水増し牛乳」として連日報道され、組織イメージは大きく傷つき、消費者団体の不買運動(地元)も発生、生協・スーパー等から一時、 商品撤去や取引停止が発生し、売上げは大幅にダウン、市乳の売上げは半分以下になった。

 組織は、乳業部門を別会社化し他社との提携で再起を図ったが、提携先が2度の不祥事発生により経営悪化し、結局、更に他組織とともに3者合併の市乳会社を設立した。

(4) 組織風土改革運動の実践の背景と内容

 【組織理念と行動規範策定(筆者の提案主旨)】

  1. ① 酪農民と消費者を裏切ったことを反省し、組織を構成する全員の議論を通じてあるべき組織文化を再構築する。
  2. ② これまでの「酪農民の心を心として」という前会長(中興の祖、カリスマ)の信条を踏まえつつも、より明確な理念と行動規範を作成し、専門農協としてのスタンスを確立する。
  3. ③ 新たな組織理念と行動規範を作成し、組織文化革新運動によって全従業員に浸透させることが、生産者、消費者、取引先等各方面からの信頼回復につながるとともに、これからの組織発展の礎になると筆者は考えた。(生産者と消費者の期待と要請に応える)

(5) 組織理念と行動規範

<組織理念>

 「○○(組織名、以下同じ)は、酪農生産者のロマンと、消費者の安心をつなぐスペシャリストになります」
 

<行動規範>

 1. 組織人である前に、常識ある社会人になろう

 2. 酪農家の心と消費者の目をもって行動しよう 

 3. プロとしての自覚を持ち専門能力を高めよう

 4. 変化をチャンスととらえ前向きに挑戦しよう

 5. 多様な価値観を認め開かれた職場を作ろう     

 

(6) 運動の構成と進め方

 ①運動名:チャレンジ「新生・○○」運動

 ②構 成:運動本部長  :新会長(酪農民、農協の代表理事)

      運動推進委員 :役員(職員・行政・金融機関出身の学識経験者)

      事務局長   :筆者(お客様相談センター長)

      本所運動推進事務局:本所各部の課長クラス

      職場運動推進事務局:各支所・事業部・工場の課長クラス

      職場単位の運動推進事務局:各職場の課長中心

 ※ 本所部長、工場長、支所長、販売事業部長は運動のサポーター

  ③ 運動の趣旨

  1. ・ 失われた社会的信頼を回復するために、○○に働く全ての人が行動する
  2. ・「新生○○のあるべき姿」を協同組合の原点に立ち戻って考え、全役職員が真剣に議論し、議論を基礎として信頼回復プログラムを立案・実践する。

  ④ 運動の組み立て

  1. 【第1ステージ:信頼回復】
  2.  第1ステップ 「事件を考える」
     ⑴ 失った社会的信用とは何だったのか
     ⑵ なぜ、この事件は起こったのか
     ⑶ この事件の背景にある○○の基本的問題は何か
     ⑷ ○○はこの事件から何を学ぶか
  3.  第2ステップ 「新生・○○」を考える
     ⑴ ○○の社会的存在意義とは何か
     ⑵ ○○の事業は社会のニーズに応えているか
     ⑶ 生産者や生活者から見て○○は魅力ある存在となっているか
     ⑷ 総合的に見て一番望まれる新生・○○の姿とはなにか
  4.  第3ステップ 「行動」を考える
     ⑴ ○○が、これまで考えたあるべき姿になるために、どんな行動を起こすべきか
  5.  第4ステップ 行動宣言の採択
     
  6. 【第2ステージ:21世紀の○○のあるべき姿を考える】

 ⑤ 実施期間

  第1ステージ:平成8年6月~平成9年3月

  第2ステージ:平成9年~

(このテーマは次回に続く)

 

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