◇SH1586◇社外取締役になる前に読む話(5)――取締役会での実質的議論への参画⑴ 渡邊 肇(2018/01/17)

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社外取締役になる前に読む話(5)

ーその職務と責任ー

潮見坂綜合法律事務所

弁護士 渡 邊   肇

 

V 取締役会での実質的議論への参画――経営会議等の存在と社外取締役の葛藤(その1)

ワタナベさんの疑問その4

 取締役会に出席して意見を述べ、重要な業務執行に関する決議に関与しているが、当社では取締役会の前に経営会議と称する会議が開催され、決議事項のみならず、報告事項についても、実質的議論は既に終了しており、会社の方針は既に決まっているようである。

 社外取締役は、経営会議での決定に異議を唱えることができるのだろうか。

 また、自分も経営会議に出席して経営の実質的議論に関与したいと思うのだが、それは可能なのだろうか。さらに取締役会において、社外取締役も含めて実質的議論をしてもらうために、経営会議を廃止することも提案したいのだが、それは可能かつ適切なのだろうか。

 

解説

 先回は、取締役の職務について概観し、取締役会で業務執行の決定に関与することが取締役の最大の職務の一つであることについて触れた。

 取締役会は、会社法の規定する唯一の業務執行に関する意思決定機関であるが、複数の取締役を有する会社においては、取締役全員または役付取締役のみで構成される機関(前者は「経営会議」、後者は「常務会」等と呼ばれることが多いと思われる。)が設置され、別途定期的に会議が開催されている場合がある。これらの会議の性格は会社によって異なるが、恐らく会社によっては、取締役会での議題を事前に総て実質的に協議し、取締役会開催前に、事実上の結論を出してしまっている場合もあると思われる。また、取締役会決議事項について、経営会議等で事実上の決議を行ってしまい、当該決議に代表取締役等の業務執行取締役が拘束されるとの扱いをしている会社もあると聞く。

 経営会議等を開催し、そこで実質的な議論および決定を行ってしまっている会社では、極端な場合、会社法を遵守するだけの目的で、いわば形式的に取締役会を開催しているといっても過言ではない場合もある。そのような会社では、それがむしろ当然の成り行きというべきであろうが、取締役会の場で実質的な議論が行われることはむしろ少ないということにもなってしまう。むしろ取締役会での審議をスムーズに行うために(平たくいえば取締役間の根回しのために)経営会議が設置されている会社もないとはいえないと思われる。しかも、社外取締役がこの経営会議等のメンバーになることもまた極めて稀である。少なくとも筆者の知る限り、そのような会社は存在しない。

 その結果、本来であれば取締役会において、社外取締役も含めて実質的な議論が行われるべき議案について、往々にして、会社の方針は既に実質的に決定してしまっているという事態が発生することになる。このような場合、社外取締役としてはどのように対応すべきなのかというのがここでの問題である。

 議論の出発点は、経営会議等が会社法等の法令上の根拠を有する機関なのかどうかという点であるが、会社法は、その名称の如何を問わず、取締役会以外のいかなる会議体、いかなる機関にも業務執行の決定権限を付与していない。換言すれば、経営会議等の会議体は、法律上の根拠なく、各社が任意に設置している機関に過ぎないのであり、必然的にその構成員等に関する法律上の定めもない。法律上の定めがない以上、社外取締役がその構成員になることも法的には可能ということになる(但し、会社の内規等の規定に基づく制約の存在は別問題である。)。

 従って、ワタナベさんが経営会議等に出席したいと望んだ場合、会社は法律上の規定を根拠にこれを拒否することはできないことになる。ワタナベさんが経営会議等の廃止を要求した場合も同様であり、元々法令上の根拠のない会議体なのであるから、その廃止にも、法律上の手続が要請されていないことは当然である。

 では実際、ワタナベさんはどのような点を考慮してこの点についての態度を決めていけば良いのだろうか。次回解説する。

 

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