企業活力を生む経営管理システム
―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
5. 知的財産の管理
(2) 知的財産に関するトラブル・被害の予防
① 社内規程・契約等で基本ルールを定める
1) 職務発明規程を制定する
2015年に特許法が改正されて、従業者等が行った職務発明について、契約等において予め使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めたときは、その特許を受ける権利はその発生時から使用者等に帰属することが明記された[1]。
職務発明規程等にこの旨を規定することにより、従業者との間で職務発明に係る権利の帰属をめぐる紛争を避けることができる。
2) 就業規則・情報管理規程・秘密保持誓約書等でルールを定め、関係者に周知・徹底する。
秘密情報管理義務(服務規程)、退職後の秘密遵守・競業避止義務 等を定める。
3) 取引先と交わす契約の中で、秘密保持義務・管理方法を具体的に定め、それを遵守する。
権利の取扱い方・秘密保持の方法等を、取引開始時に締結する契約で定める。
契約の例:業務提携の検討開始時の秘密保持契約、取引基本契約、業務委託契約、共同開発契約
② 侵害(被害)を早く見つけて、手を打つ
通常、知財権侵害の規模は、放置すると大きくなるので、できるだけ早く侵害行為を見つけて、それを迅速に排除することが重要である。
1) 営業部門が積極的に活動すると、大きな成果を期待できる。
・ 知財権侵害の被害の多くは、市場で発生する。市場に最も近い営業部門が次のような情報を高感度で収集し、社内の技術・知財・制作等の部門と連携して侵害の事実確認・対策を行えば、大きな効果を期待できる。
- -「ライバルが同じ商品を販売・展示している」という市場(消費者・代理店等)からの情報。
- - 当社と取引がない販売店が、当社の商品(実は偽物)の取り扱いを始めた、という情報。
- - 当社が販売していない国で、当社の製品・ソフトが販売されている(又は、品質クレームを受けた。)という情報。
- - 当社製品の「品質クレームが多くなった。」という情報。(実は、ニセ物)
- -「業界で商品の不具合・消費者被害が増えている。」という情報。(ニセ物・粗悪品による健康被害、爆発・発火・発熱・発煙等)
- - 市場で、当社にしか作れない製品(特許、製造ノウハウを当社が保有)が流通しているという情報。
・ 営業部門には、対策を主導する力がある。
侵害品が出回る場所や流通経路が分かる。侵害品の販売者と生産者を調べる力がある。
活動予算(広告・宣伝等)が多い。
侵害防止のための摘発キャンペーンや外部との連携に慣れている。
2) 社員(技術・生産技術・ソフト制作等)が「自社の知財」が侵害されたことを見抜く
- ・ 他者の商品が当社の知財を侵害していることを確認する。
- ・ イベントや学会等で他者が発明者・創作者として登場するのを発見する。
- ・ インターネットで海賊版を発見する。(海賊版検出ツールを使用)
3) 市場・取引先からの通報・相談を通じて、侵害行為(自社の被害)を察知する
・ 消費者、取引先(納入先、仕入先、下請先等)、流通業者、修理業者等から提供される情報を分析する。
③権利侵害を排除する
1) 個々の企業で排除する。(自助)
1 事実を確認する。
1) 侵害した痕跡を残す(裁判を想定し、証拠を確保する管理を行う)
2) 痕跡が残ることを周知して、着手させない
3) 記録を裁判・行政処分の証拠に活用する
4) 自分に権利があること、侵害者に権利がないこと
2 侵害者とその関係者に、侵害行為を止めるよう警告する。
3 行政機関に、取締りを要請する。(差止(輸入、輸出)、在庫の廃棄、製造設備の廃棄)
4 民事訴訟を提起する。(侵害行為の差止、損害賠償、不当利得の返還、信用・名誉回復)
5 和解する。
6 マスコミに被害を説明し、侵害排除の世論を形成する。
7 侵害者の取引先等の影響力ある者を通じて、侵害者を説得する 。
8 警察・検察に取締りを要請する。(被害届を提出、告訴・告発)
2) 団体で侵害行為の排除活動を行う。(個々の企業では限界がある場合に効果)
例 IIPPF(国際知的財産保護フォーラム)
CODA(コンテンツ海外流通促進機構)
3) 国が、企業の知財保護活動の支援や、消費者被害の救済活動の支援を行う。
例 政府模倣品・海賊版対策総合窓口 (経済産業省 製造産業局 模倣品対策室)
営業秘密・知財戦略相談窓口 通称「営業秘密110番」 (工業所有権情報・研修館)
越境消費者センター (国民生活センター)
- (参考) 全国の「警察本部・営業秘密侵害事犯担当(生活環境課等)」及び「消費生活センター(消費者被害相談)」も相談を受け付けている。
[1] 特許法改正35条3項(平成27年(2015年)7月10日改正)。なお、「特許法第35条第6項に基づく発明を奨励するための相当の金銭その他の経済上の利益について定める場合に考慮すべき使用者等と従業者等との間で行われる協議の状況等に関する指針」(平成28年(2016年)4月22日 経済産業省告示第131号)