◇SH2592◇企業活力を生む経営管理システム―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―(第37回) 齋藤憲道(2019/06/10)

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企業活力を生む経営管理システム

―高い生産性と高い自己浄化能力を共に実現する―

同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

4.「経営管理システム」の全体像を考える

 自社の経営管理システムを「高い生産性」と「高い自己浄化能力」を持つシステムに作り上げ、それを忠実に運用する企業は、市場で競争力を持つようになる。

 企業全体の経営管理システムのあり方は、次の(1)(5)の観点で検討すると理解しやすいと思われる。前述した、畑で花・野菜を育てるのを例にとって考えてみる。

(1) 事業基盤の管理水準を高める

 良い畑かどうかを判定する基準に相当するのは「マネジメントシステム規格」である。

 この規格は、顧客に提供する製品・サービスの品質を組織として持続的に向上させる仕組みを作ることを目的とし、業務の規程・手順を定め、部門・役職者の責任・権限を明らかにする。

 「マネジメントシステム規格」は企業の事業基盤(畑)で運用される経営管理の品質水準を評価するのに用いられるが、そこで生産された個々の製品等(花・野菜)の品質水準を認証するものではない。

  1. (注) 本項で、事業基盤とは、人材・資金・資産(有形、無形)を配備して、一定の事業分野の販売・製造・設計・開発等の業務を組織的に行う経営活動(それを行う組織を含む)を意味している。
  2. (参考1) マネジメントシステム規格とは、組織が方針及び目標を定め、その目標を達成するためのシステムに関する規格のことである[1]
  3. (参考2) JIS/ISO[2]は、QMS(品質マネジメントシステム)の構成要素を「組織が自らの目標を特定する活動、並びに組織が望む結果を達成するために必要なプロセス及び資源を定める活動から成る。」と説明し、QMSの機能について「密接に関連する利害関係者に価値を提供し、かつ、結果を実現するために必要な、相互に作用するプロセス及び資源をマネジメントする。」としている。

 従って、「マネジメントシステム規格」に適合した工場で生産された製品等であっても、下記の「製品規格」の認証を取得していなければ、その製品等にJIS・ISO等の認証マークを付けることは認められない。

 ただし、一般的に、良い畑には良い花・野菜が育つので、企業の事業基盤(畑)には高品質の経営管理の仕組みが組み込まれている(良い畑である)ことが望ましい。

  1. (注) マネジメントシステム規格(例えば、JIS Q9001<ISO9001>)の認証を取得した事業場で生産される製品について「製品規格」の認証を取得するときは、「全数検査」でない限り、「製品試験」と「品質管理体制審査」の両方に合格することが必要とされるところ、既に品質管理体制が整備している(認証を取得済み)として、制度上、審査を省略又は簡素化する例[3]が多い。

(2) 製品(商品)等が備えなければならない最低限の基準を満たす

 良い花・野菜かどうかを判定する基準に相当するのは「製品規格」である。

 この規格は、製品等に求められる最低限の基準を満たしていることを認証するもので、①全数検査して合格した製品等、及び、②「製品試験」と「品質管理体制審査」の2つの試験に合格した製品等に、認証マークを付すことが認められる。(第2章第2部1. に詳述)

 「製品規格」の認証を取得した工場等から規格外の製品等が出荷された場合は、JIS・ISO等の認証が取り消され得る。

 法令のように、遵守すべき条件が明確で、逸脱することが許されない(罰則がある)業務については、この「製品規格」の認証と同じ管理方法を作りたい。

 100%の遵守が求められる企業規範を、次に例示する。

  1. 1.事業運営に必須の管理(企業の信用に関わる事項)

    1. 1) 生産・販売・在庫の管理・・・業種によって具体的な管理項目・管理方法は異なる
    2. 2) 各工程における品質の管理(製品の輸送・保管、出荷、製造、設計、仕入)
    3. 3) 人の管理、金(カネ)の管理、モノ(機械設備、工具器具備品)の管理、ソフト(書籍・音楽・映画・データ等の著作物)の管理、コンピュータシステムの管理(情報セキュリティ管理を含む)
  2. 2.法令(罰則あり)の完全遵守

    1. 1) 各種の業法が課す事業者の遵守事項(義務)
    2. 2) 材料・製品への含有が規制される物質、毒物・危険物の取り扱い
    3. 3) 表示規制(顧客への説明、景品表示法規制、虚偽表示、誤認混同[4]
    4. 4)「明らかな他者の権利」の不侵害
    5. 5) その他の法規制(関税法の規制、外為法の規制、カルテル・入札談合規制等)

 100%遵守を実践する方法として、可能な限り作業(計測、基準外品の除去、作業記録)を自動化し、人為的操作を無くすことが考えられる。

  1. (注) この場合は、機械的方法と電子的方法が有効と考えられる。ただし、情報漏洩・不正操作・誤操作等を防ぐ必要がある。

(3) 現場の管理を充実する

 企業規範を遵守する管理の仕組みは、企業規範の4つの層の中の、現場に近い3層・4層に重点を置いて、「高い生産性」と「高い自己浄化能力」を実現できるように構築することが重要である。

 この3層と4層の内容は、個々の企業によってかなり異なるので、各企業が自力で検討し、改善する必要がある。

  1. (注) この分野は解説書が少ないので、業界や団体で行われる事例研究等を通じて管理ノウハウを習得し、自社に適用することが期待される。
    なお、近年、様々な官庁が、企業の各種の取り組み事例を紹介しているので、参考にしたい。

(4) 内部の検査・監査等を充実し、内部通報を活かす

 業務管理の仕組みを作っても、企業規範を逸脱する製品や行為が発生する可能性はゼロにはならない。このため、内部の検査・監査等の機能を充実し、逸脱した直後にそれを(できれば自動的に)発見して、直ちに是正する仕組みを作りたい。

 万一、逸脱が放置(又は、隠蔽)された場合は、内部通報制度を活用して、速やかに事実を確認し、迅速に必要な是正措置を講じる体制を整えたい。

(5) 外部の監査等に対応できる仕組みにする

 執行部門の業務に対する外部からの監査・検査等が法令・契約に基づいて行われる場合は、その定型的な部分について、特別な準備をすることなく対応できる管理の仕組みを作りたい。その都度、適宜に対応するのでは、生産性が下がる。

  1. 〔外部からの監査・検査等の例〕
  2.   監査役(会)、会計監査人(公認会計士、監査法人)、行政機関(税務当局、税関、労働、就労許可、各種の業法、下請、安全保障貿易管理他)、第三者認証機関(各種の規格)、第三者調査委員会(不祥事に応じて設置)

[1] 日本工業標準調査会による定義。

[2] JIS Q9000:2105(ISO9000:2015)「2.2.2品質マネジメントシステム」

[3] 例えば、産業標準化法30条3項(旧、工業標準化法19条3項)、日本工業規格への適合性の認証に関する省令(2015年(平成27年)11月20日)2条2項1号

[4] 製品特性のデータ偽装は、取引上の契約違反(→差止・損害賠償)だけでなく、不正競争防止法に違反するとして刑事罰が科される。不正競争防止法2条1項14号は、「商品若しくは役務若しくはその広告若しくは取引に用いる書類若しくは通信にその商品の原産地、品質、内容、製造方法、用途若しくは数量若しくはその役務の質、内容、用途若しくは数量について誤認させるような表示をし、又はその表示をした商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供し、若しくはその表示をして役務を提供する行為」を不正行為とする。

 

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