経産省、フィンテックに関する初めての総合的な報告・提言
「FinTechビジョン」を取りまとめ
岩田合同法律事務所
弁護士 徳 丸 大 輔
経済産業省(以下「経産省」という。)は、平成29年5月8日、FinTechに関わる実務家や有識者の意見等を踏まえた総合的な報告・提言として「FinTechビジョン」と題する報告書(以下「本報告書」という。)をとりまとめ、公表した。
本報告書は、経産省が2016年(平成28年)7月より開催した「FinTechの課題と今後の方向性に関する検討会合」(FinTech検討会合)において、我が国としての課題認識や目指すべき姿、政策の基本的方向性等について検討を行い、FinTechに関する総合的な報告・提言を行うものとのことである。
本報告書の内容は3つの章で構成されており、それぞれ、FinTechは何を変えるのか、何がその変化の原動力になっているのかなど、世界中が「FinTech」という言葉で捉えようとしている動きを概観し(第1章)、FinTechが我が国の経済・社会にもたらす効果を金融サービスのユーザーたる個人(家計)や企業の目線から考察し、「目指すべきFinTech社会の姿」を示すとともに(第2章)、第2章で示した「目指すべきFinTech社会の姿」を実現するための課題と政策対応を提言するもの(第3章)となっている。
法規制との関係での今後の基本的な方向性の概略は下図のとおりであり、未来投資会議での「新たなチャレンジを促進する制度枠組(「日本版レギュラトリー・サンドボックス」など)の創設に向けた検討[1]、改正割賦販売法[2]に基づく規定・ガイドラインの整備、金融審議会「金融制度ワーキング・グループ」での決済に係る法制度(銀行法、資金決済法、貸金業法)における規制領域をまたがるサービス等に係る環境整備等の検討[3]などの政策対応がされているとのことである。
(出所:経産省「FinTechビジョン概要」[4] 23ページ)
これまで筆者が受けた相談等を踏まえると、FinTechビジネスに関する法務担当者のかかわり方としては、①事業モデルを構築する際の現行規制との適合性検討、②事業モデルに付随する法務リスクの洗い出し・評価、③事業に使用する契約書や規約類の作成、④(現時点ではあまり見られないが)事業遂行上の当事者間のトラブル調整・争訟対応などが考えられるが、特に、現時点では、上記①に関して、FinTechが既存のビジネスと大きく異なるため参考とできる先例に乏しいこと等から検討が困難な場合も多く、本報告書で紹介された規制改革の今後の動向が注目される。
なお、現時点でも、現行規制との適合性を確認するための制度として、金融庁の「FinTech サポート・デスク」[5]、産業競争力強化法9条に基づく「グレーゾーン解消制度」[6]があるが、他方で、本報告書では、まず事業者が、弁護士等を活用して、自ら主体的に評価、判断することが重要との指摘も注記されている。
FinTechの発展に伴い、法務担当者がこれに関わる機会は今後ますます増加していくことが予想されるところ、本報告書は、FinTechの概観を把握する端緒となり、現時点の状況や今後の方向性を理解する上で有益であると思われたことから、紹介する次第である。