◇SH1593◇実学・企業法務(第108回) 齋藤憲道(2018/01/22)

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実学・企業法務(第108回)

第3章 会社全体で一元的に構築する経営管理の仕組み

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

Ⅴ 全社的な取り組みが必要な「特定目的のテーマ」

V-1. 商品・サービスの安全性の確保

 企業は、社会的に有用で安全な商品及びサービス(以下、本項で「商品等」と総称する。)を開発、提供し、消費者・顧客の満足と信頼を獲得する[1]ことによって、社会から必要とされ、同時に、雇用・納税の実施を通じて経済・社会の発展にも貢献する。

 消費者・顧客に提供する商品等の安全性は、購入者の信頼を獲得する上で最も重要なものであり、これを欠く商品等を提供した企業が業績不振に陥る例は多い。

 欠陥商品を提供し続けたとして、経営幹部に刑事罰が科された例もある。

 以下、「取り組みの概要」及び「企業全体の取り組みが必要」であることを説明したうえで、商品等の特性に応じて定められている各種の「法制度」を概観する。

 

1. 取り組みの概要

 商品等の品質は、企業が消費者の信用を得る上で最も大切なものである。多くの企業が社是・社訓に「品質第一」を掲げている。商品が、通常有すべき安全性を欠き、発熱・発煙・発火・爆発・誤作動等して生命・身体・財産を毀損する事故が発生すると、それを販売した企業は、ブランド・イメージが傷つき、信用を失う。

 しかし、欠陥商品であることを隠蔽していたことが被害発生後に発覚し、欠陥問題に加えて企業の隠蔽体質が社会から厳しく非難され、不買運動が起きる等して窮地に追い込まれる企業は、後を絶たない。

  1. (例1) 雪印乳業
  2.   2000年、大阪工場が出荷した低脂肪乳により、1万人超の集団食中毒が発生。
    2001年7月、全社の売上の1/3を失ったが2002年度には黒字化見通しを発表するまで業績回復。
    2002年1月、子会社「雪印食品」において牛肉等の産地等虚偽表示が発覚し、同社は4月に解散。
  3.   雪印のブランドイメージが悪化して、グループ全体の売上が低迷し、多数の工場・子会社を売却、大幅減資に至った。
  4.  
  5. (例2) 三菱自動車
  6.   2002年、大型車のクラッチ系統部品の欠陥が原因で運転手の死亡事故が発生。リコールして国土交通省に届出るべき事案にも係わらず「やみ改修」し、業務上の注意義務を怠った。
  7.   販売不振に陥り、三菱グループ3社が経営支援。社長を含む4名に禁固刑(業務上過失致死罪、執行猶予)。
  8.  
  9. (例3) パロマ
  10.   2006年までの20年間に同種の給湯器で一酸化炭素中毒事故が発生し、21名が死亡。
  11.   社長を含む2名に禁固刑(業務上過失致死傷罪、執行猶予)。
  12.  
  13. (例4) 東洋ゴム工業
  14.   2015年 建築物の地震被害を軽減する免震積層ゴムが建築基準法上の基準に適合しないのにデータ等を改ざんして大臣認定を受け、製造・出荷していたことが発覚し、連結赤字に陥った。
  15.   会長・社長を含む5名の取締役が辞任。

 ISO26000:2010「社会的責任に関する手引」に7つの中核主題[2]が挙げられ、その中の「公正な事業慣行[3]」及び「消費者課題[4]」において、商品の提供者と購入者の関係のあり方が説明されている。特に、「消費者課題」では、「課題2:消費者の安全衛生の保護」が独立の条項として示されている。

  1. (注) 企業・政府との取引については、主に「公正な事業慣行」が該当する。

 2013年に、「ISO 10377(製品安全ガイドライン)」及び「ISO 10393(消費者製品リコールガイドライン)」が発行された。この2つのISO規格に先行して経済産業省から、ほぼ同内容の「製品安全に関する事業者ハンドブック」及び「消費生活用製品リコールハンドブック」が公表されている。

 企業が製品安全・リコールに取り組むときは、これらのガイドラインやハンドブックを参照すると、課題・対策の抽出・整理・構築がスムーズに進む。



[1] 日本経済団体連合会「企業行動憲章」の10原則の中の第1原則。

[2] 〔7つの中核主題〕6.2組織統治、6.3人権、6.4労働慣行、6.5環境、6.6公正な事業慣行、6.7消費者課題、6.8コミュニティへの参画及びコミュニティの発展

[3] 「課題1:汚職防止」、「課題2:責任ある政治的関与」、「課題3:公正な競争」、「課題4:バリューチェーンにおける社会的責任の推進」、「課題5:財産権の尊重」

[4] 「課題1:公正なマーケティング、事実に即した偏りのない情報、及び公正な契約慣行」、「課題2:消費者の安全衛生の保護」、「課題3:持続可能な消費」、「課題4:消費者に対するサービス、支援、並びに苦情及び紛争の解決」、「課題5:消費者データ保護及びプライバシー」、「課題6:必要不可欠なサービスへのアクセス」、「課題7:教育及び意識向上」

 

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