◇SH1694◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(53)―掛け声だけのコンプライアンスを克服する④ 岩倉秀雄(2018/03/09)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(53)

―掛け声だけのコンプライアンスを克服する④―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、経営者の掛け声だけのコンプライアンスを克服する方法として、経営者にパワー(影響力)を及ぼすことのできる金融機関及び労働組合の役割について述べた。

 今回は、経営者に影響力を及ぼすステークホルダーとして5. コンプライアンス部門ほかの内部組織及び6. 行政の役割について考察する。

                           

【掛け声だけのコンプライアンスを克服する④】

5. コンプライアンス部門ほかの内部組織

 コンプライアンスを軽視する経営トップの率いる組織のコンプライアンス部門は、設置されているとしても権限、人材、資金面で様々な制限を受けており、その上経営者に取り入るイエスマンの取り巻きによりコンプライアンス活動に対する有形・無形の抵抗や妨害を受けている場合が多いので、フラストレーションが溜まっている。

 このような場合には、コンプライアンス部門が単独で内部から経営トップに働きかけて、組織をコンプライアンス経営に方向転換させることは難しい。

 彼等はモチベーションが上がらない方向に追い詰められており、経営トップは「コンプライアンス部門が張り切ってうるさいことを言い出すよりは、おとなしくしていてもらった方が、他部門からクレームがつかないので良い」と思っている可能性があるからである。

 このような場合に、パワーの弱い立場に置かれているコンプライアンス部門ができることは、組織論的には、連合の形成や政治戦略による目的の達成である。

 すなわち、社内外で、コンプライアンスの重要性を理解するものを見つけて連合を組んで経営トップに働きかけるか、経営者よりも強力なパワーを持つ第三者に働きかけて、経営トップがコンプライアンス経営に向かわざるを得ない方向に改善させることである。

 組織間の連合は、一般に、組織間に共通利害と信頼関係がある場合に形成される。

 組織内であれば、サブ組織間で連合が形成されることが想定される。

 たとえば、コンプライアンス経営の重要性を認識している金融機関出身者や労働組合、、監査部門、外部情報に接する機会が多くコンプライアンスの重要性に理解のある広報部門等によって形成されることが想定される。その他に、イエスマンの取り巻きではなくコンプライアンス経営の重要性に理解があれば、経営企画部門や総務部門等も、経営者に近い部門として連合による影響力を発揮しやすいと思われる。

 政治戦略に働きかける対象としては、行政、株主、取締役会、監査役会、社外取締役、監査法人、顧問弁護士、業界団体、コンプライアンスの啓蒙・普及を行っている外部の専門団体等が考えられるが、政治戦略は場合によっては経営者に対する反逆と受け取られる危険があるので、現実には難しく慎重に行う必要がある。

6. 行政

 行政は、権力により全ての組織にコンプライアンス経営を促す強力なパワーを持っている。近年、様々な法改正が行われる一方で、個人情報保護法や公益通報者保護法等、組織の自主的取組みを促す方向への法改訂等も行われている。

 行政が、コンプライアンスを軽視する経営トップに対して法により厳しい処罰を行うようにすれば、経営トップは意思に反してコンプライアンス経営に向かわざるを得ない。

 一方、法強化が行き過ぎると、形式を整えることが目的化してコンプライアンスの取組みに魂が入りにくいというマイナス面が発生する危険もある。

 極端な場合には、最近、様々な大企業で品質問題が発生しているように、掛け声だけのコンプライアンスになり、「ごまかし」が発生する場合がある。

 しかし、過去の環境問題や近年のブラック労働問題のように、組織の自主性に任せていても改善されない場合があることから、規制強化には、法目的達成と罰則のバランスが重要になる。[1]

 筆者は、ハードローの強化かソフトローの強化かを選択する場合には、法目的達成に緊急性があり違法・脱法行為が社会に重大な影響を及ぼす場合はハードローで、それ以外は、実効性を挙げるのに時間はかかるものの、規制のためのコストが少なく社会全体の成熟を促すことにつながるソフトローをベースにすることが、企業活力の維持とコンプライアンスを両立させることができるので、望ましいと考える。

 しかし、その前提として、経営トップがコンプライアンスを重視せざるを得ないように、行政が自らのパワーと役割を踏まえ、教育、PR、NGOの育成等、コンプライアンスの重要性を社会に浸透させるための様々な施策の実施が必要であると考える。

(次回に続く)



[1] 違法行為の影響が業種により異なる場合もある。たとえば、食品業界のように、法令違反が、(消費者の生命・健康に直ちに影響を及ぼすために)消費者・流通の拒絶反応を引き起こし、組織の存続に直ちに大きな影響を与える業界がある一方、土木・建築業界の談合のように、課徴金を課されることが組織内の個人や組織に一定の影響を与えるものの、組織の存続にまでは直ちに影響を与えないために、違法行為がなくなりにくい業界もある。

 

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