◇SH1711◇実学・企業法務(第123回)法務目線の業界探訪〔Ⅰ〕食品 齋藤憲道(2018/03/19)

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実学・企業法務(第123回)

法務目線の業界探訪〔Ⅰ〕食品

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

〔Ⅰ〕食品

3. 品質管理、法制度

(2) 食品に関する主な法律

① 食品安全基本法

 ⑴ 制定の経緯

 2001年に日本で BSE(牛海綿状脳症)の発生が確認され、更に、輸入野菜の残量農薬問題や、国内における無登録農薬使用問題等が発覚して、食品安全を川上から川下まで一貫して体系的に行うことの重要性が認識され、2003年に「食品安全基本法[1]」が制定された。

 「食品安全基本法」は、産業振興を担当する官庁から切り離して、内閣府が所管する。

  1. (注) 食品安全委員会(内閣府)がリスク評価を担当し、厚生労働省・農林水産省・消費者庁がリスク管理を担当している。

  ⑵ 食品安全基本法の要点

  1. 1. 食品安全基本法は、全ての飲食物(医薬品医療機器等法の対象を除く)を対象とする。(2条)
  2. 2. 食品の安全確保は、科学的知見に基づいて行う。(5条)
  3. 3. 食品の安全確保には、国内外の一連の「食品供給行程」において、国・地方公共団体・食品関連事業者・消費者が、それぞれ自らの責任・役割を果たすことが必要である。(4~9条)
  4. 4. 食品の安全確保のために、「食品健康影響評価」を行ってリスク管理する。(11条、12条)
  5. 5. 科学的知見に基づき客観的・中立・公正なリスク評価を行うために「食品安全委員会[2]」を内閣府に設置する。(22条、23条)
  6. 6. 食品の安全性を確保する施策には、国民の意見を反映する。その過程の公正性・透明性を確保するため、情報提供、意見陳述の機会付与等してリスクコミュニケーションを行う。(13条)
  7. 7. 食品の安全性を確保するための体制を整備する。(14条~21条)
    緊急の事態への対処・発生防止、関係行政機関の連携、試験研究体制、国の内外の情報の収集・整理・活用、表示制度、教育・学習・広報、環境への影響に配慮

  ⑶ さまざまな法律で食品の安全を確保する仕組みを作り、所管官庁が法令を執行する。

  1. 1.「食品安全基本法」の理念の下で運用される法律の例
    食品衛生法、と畜場法、食鳥検査法、農薬取締法、肥料取締法、家畜伝染病予防法、飼料安全法、水道法、医薬品医療機器等法(旧、薬事法)、農用地土壌汚染防止法、ダイオキシン類対策特別措置法、牛海綿状脳症対策特別措置法
  2. 2. 行政機関の役割の例

    1. a. 内閣府「食品安全委員会」 独立して食品健康影響評価を行う。この結果に基づいて各行政機関が規制等を行う。
    2. b. 厚生労働省 食品中の放射性物質の基準値、牛海綿状脳症(BSE)対策に係る検査の対象月齢や固定危険部位の除去対象等の決定、食品に残留する農薬等の規制、食品添加物の規格基準の設定、遺伝子組換食品の安全性審査、輸入食品監視指導計画に基づく監視・検査等
    3. c. 農林水産省 食品安全リスク管理を実践、農畜水産物・食品・飼料中の有害化学物質や有害微生物の実態調査、トータルダイエットスタディ(日常生活で化学物質をどれだけ摂取しているかを推定)、JAS規格の制定・運用、Codex規格との調整、土壌汚染防止、肥料や農薬の規格・登録・取締、飼料安全基準、防疫業務(植物、家畜)

② 食品衛生法

 食品の安全性確保のために公衆衛生の見地から必要な規制・措置を講じて、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、国民の健康の保護を図ることを目的とする法律である。(1条)

  1. (1) 食品・添加物・器具・容器包装等の取り扱いは、清潔で衛生的に行わなければならない。(5条、15条)
  2. (2) 不衛生食品等は、原則として販売等を禁じる。(6条)
    腐敗(主にたんぱく質に微生物が増殖)、変敗(糖質・脂質等の酸化等)、未熟なもの[3]
    有毒、有害物質が含まれ又は付着したもの(又はその疑いがあるもの)
    病原微生物により汚染され(又はその疑いがあり)、人の健康を損なうおそれがあるもの
    不潔、異物の混入又は添加その他の事由により、人の健康を損なうおそれがあるもの
  3. (3) 食品・食品添加物等の規格基準を定める[4]
    食品(成分規格、製造基準、加工基準、調理基準、保存基準)[5]
    添加物(成分規格、保存基準、製造基準、使用基準)[6]
    器具及び容器包装(材質別規格、用途別規格、製造基準)[7]
    農薬残留基準[8]
  4. (4) 食品等に係る事業を規制する。
    公衆衛生への影響が著しい飲食店等(34業種)の営業には都道府県知事等の許可を要す。(52条)
     都道府県知事が業種毎に定めた施設基準に適合しなければならない。(50条2項、51条)
    飲食店・喫茶店・食肉販売等の営業を行うときは「食品衛生責任者」を置く。(50条2項参照[9]
    都道府県等の職員の中から任命された「食品衛生監視員」が、営業施設等に対し監視指導を行う。(30条1~5項)
    食品等の輸入者は、それを通関する厚生労働省検疫所に輸入届け出を行う義務がある[10]。(27条)


[1] 食品安全基本法は、リスク評価・リスク管理・リスクコミュニケーションを3要素とする「リスクアナリシス」の考え方を基本にしている。

[2] 委員会の下に12専門調査会を設置している。〔内訳〕企画等専門調査会、添加物・農薬・微生物等の危害要因ごとに11専門調査会。即ち、化学物質系(添加物、農薬、動物用医薬品、器具・容器包装、化学物質・汚染物質)、生物系(微生物・ウイルス、プリオン、カビ毒・自然毒等)、新食品等(遺伝子組換え食品等、新開発食品、肥料・飼料等)

[3] 未熟な青梅の種を食すると、シアン中毒症状が現れることが知られている。

[4] 2010年(平成22年)厚生労働省告示第336号

[5] 「食品、添加物等の規格基準」(昭和34年厚生省告示第370号)

[6] 食品衛生法21条「食品添加物公定書」、11条1項「製造基準、使用基準、保存基準」

[7] 食品衛生法18条1項「器具・容器包装・原材料の規格・基準」

[8] 食品衛生法11条3項、厚生省告示第497号

[9] 都道府県は条例で「施設の内外の清潔保持、(略)公衆衛生上講ずべき措置」を条例で定めることができる。これにつき、厚生労働省は技術的助言として「食品等事業者が実施すべき管理運営基準に関する指針(ガイドライン)」の中で「食品衛生責任者」の設置を定めている。なお、全粉乳・食肉製品・食用油脂等の法定品目の製造・加工については「食品衛生管理者」を置かなければならない(食品衛生法48条)。

[10] 厚生労働大臣が任命した食品衛生監視員が、提出された輸入届出書を確認し、違法な輸入物資について積戻し・廃棄を指示する。(食品衛生法30条4項)

 

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