◇SH1752◇債権法改正後の民法の未来20 譲渡人の地位の変動に伴う将来債権譲渡の効力の限界(3・完) 德田 琢(2018/04/06)

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債権法改正後の民法の未来 20
譲渡人の地位の変動に伴う将来債権譲渡の効力の限界(3・完)

德田法律事務所

弁護士 德 田   琢

 

Ⅴ 今後の参考になる議論

 法制審議会での議論により、問題意識・視点は浮き彫りとなったが、結局、合意形成は困難であることを理由として、明文化が見送られたため、以下、合意形成がなされた結論を提示することはできないものの、当該問題意識・視点を列挙することとしたい。

(一) 承継される「契約上の地位」の意義

 如何なる契約を承継すれば、「契約上の地位を承継した譲受人」に該当することになるのかという問題である。

 具体的には、継続的取引基本契約に基づく売掛債権の譲渡後に事業譲渡等によって事業が譲渡された場合において、事業の譲受人は、「個別契約」上の地位を承継していなくとも「基本契約」上の地位を承継していれば「契約上の地位を承継した譲受人」に該当するのか、「基本契約」上の地位を承継した程度では「契約上の地位を承継した譲受人」には該当しないのか、といった問題である。

 そもそも「基本契約」と言っても、単に、「個別契約」が締結された場合に、共通に適用されるべき内容を規定したものから、「個別契約」の発生を義務付けるものまで、その契約内容は千差万別であることから、「基本契約と個別契約の結び付きの強弱」によって「契約上の地位を承継した譲受人」に該当するか否かを分ける見解もあるところ、その両者の線引きは如何という問題とも言える。[1]

(二) 承継後の契約の変動

 譲受人が契約上の地位を承継した後に、契約関係に変動があった場合に、如何なる変動があれば「契約上の地位を承継した譲受人」に該当しなくなるのかという問題である。

 具体的には、賃貸人の地位を承継した譲受人が、従前の賃貸借契約を合意解約し、新たなもしくは同一の賃借人との間において、賃貸借契約を締結した(締結し直した)場合は如何か、また、継続的商品供給契約上の地位を承継した譲受人が、供給の対象を同種の新商品に変更した場合は如何か、といった問題である。[2]

(三) 倒産時の擬律との整合性

 将来債権の譲渡後に倒産手続が開始された場合には、管財人または再生債務者等の下で発生する債権について、将来債権譲渡の効力を制限する考え方があるところ、仮に、「契約上の地位を承継した第三者に対して、将来債権の譲渡を対抗することができる」旨の規定を設ける場合には、譲渡人の一般承継人または譲渡人自身である管財人または再生債務者等に、全くの第三者である「契約上の地位を承継した第三者」以上に強い立場を与える根拠があるのか、という問題である。[3]

 上記規定を設ける趣旨には、将来債権の流動性の促進を図るという面があるところ、譲渡人に倒産手続が開始された場合に将来債権譲渡の効力を制限するのであれば、当該趣旨を全うし得るのか、という問題もある。

(四) 判例との整合性

 将来発生する不動産賃料債権が差し押さえられた後に、当該不動産が譲渡され、賃貸人たる地位が移転した場合であっても、差押えの効力は不動産の譲受人の下で発生する賃料債権に及ぶとした最判平成10年3月24日民集52巻2号399頁が存在する。

 そもそも当該判例を如何様に理解するのかという問題もあり得るが、当該理解との整合性を図り得るのか、また、究極的には、立法において整合性を図る必要があるのか、といった問題がある。[4]

 

Ⅵ 所感

 「Ⅴ 今後の参考になる議論」のとおり、十分に議論を詰め切れない微妙な問題も残っており、現段階では、立法化は困難であったものと思われる。

 特に、不動産の賃料債権の譲渡に限って、特有の規定を設ける合理性は、必ずしも容易に説明できない。

 この様な特則を設けようとする意見があること自体、「果たして、債権者が交代した後の契約関係から発生する債権にまで、譲渡人の処分権を及ぼしてよいのか」という根本的な問題に立ち返る必要性を感じる。

 また、将来債権の譲渡の実務における利用実態にも着目する必要がある。例えば、「将来の売掛債権の譲渡担保が、既存の融資に対する追加担保としてではなく、新規融資(ニューマネー)に対する担保として利用される実態は、如何程あるのか」、「将来の賃料債権を引き当てとする方法としては、不動産自体を流動化する方法も利用されているところ、それ以外に、将来の賃料債権自体を譲渡する方法が、実務上、如何程に必要か」という点に関する評価は、将来債権の流動性の促進を図るという趣旨の評価にも影響する。

 しかし、一方で、譲渡人の地位の変動に伴う将来債権譲渡の効力の限界について、将来債権の譲受人であるにしても、譲渡人の契約上の地位の譲受人であるにしても、その予測可能性がない状況が続くことが望ましくないことは明らかであり、早期の立法化が望まれることも事実であるので、この度の法制審議会においてなされた議論を参考にしつつ、今後の議論の一層の深化を期待したい。

以上



[1] 部会資料9-2、部会資料37

[2] 第93回議事録6頁以下

[3] 部会資料9-2

[4] 部会資料81B

 

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