◇SH1834◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(70)―企業グループのコンプライアンス③ 岩倉秀雄(2018/05/15)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(70)

―企業グループのコンプライアンス③―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、子会社の規模や経営状況による対応の違いについて述べた。

 経営者の見識が高く事業規模が比較的大きく経営が順調な子会社に対しては親会社は子会社の自主性を尊重し、過度な干渉をせずに理念やビジョン・行動憲章等の共有化や取締役会・監査役によるチェックなど、緩やかな関係を維持しつつ取り組むことが有効である。

 規模が小さく人材も少ない子会社に対しては、タイトな組織間関係を構築し、資源依存関係に基づく制裁・報酬、情報専門性、一体化のパワーを活用するとともに、子会社との接点となる対境担当者が、良好・円滑な人間関係を形成し適切な情報をタイムリーに提供することが必要である。

 今回は、組織間関係論の概念を山倉[1]により確認する。

 なお、組織間関係論の概念を確認した後は、更にグループ会社のコンプライアンスの浸透・定着に応用可能ないくつかのキー概念を確認し、その概念を踏まえて具体的な企業グループのコンプライアンス施策を考察する予定である。

 

【企業グループのコンプライアンス③:組織間関係論の概念】

 山倉[2]は、組織間関係とは、組織と組織のなんらかの形のつながりであり、組織間関係論は、組織間関係がなぜ、いかに、形成・展開されていくのかの分析を課題とするマクロレベルの組織論であるとして、社会を組織の複合体であると捉える。

 組織間関係は、企業と金融機関、企業とサプライヤー、企業と得意先、企業と競争企業、企業と消費者団体・環境団体等のNGO・NPO(筆者追加)のように組織と組織の、カネ・ヒト・モノ・情報を媒介とするつながりであり、いわば組織と組織の取引である[3]ことから、当然、本稿が研究対象としている企業グループの親会社と子会社の関係も含まれる。

 本稿では、組織間関係論の知見を企業グループへのコンプライアンスの浸透にどう活用するのかを考察する範囲にとどまらず、やや広げて詳しく組織間関係論の考え方を整理・確認することとする。

 一般に、組織は組織を取り巻く経営環境との相互関連の中で存在しており、経営環境の変化も他の組織による影響の総体であることから、組織の存続・発展は、絶えず変化する経営環境に適合できるか否かにかかっているが、それは他組織との間にどのような関係を作り上げるのかにかかっているとも言える。

 組織は、単に一方的に経営環境の影響を受けるだけの存在ではなく、組織自身が他の組織との関係を含む経営環境に働きかける主体的な存在である。

 また、組織は、個人にもその総体である社会にも多大な影響を与えるゆえに影響に見合った責任を果たさなければならないが、これはコンプライアンス経営・CSR経営の基本的認識である。

 山倉は「単独の組織が社会の動きを決めてゆくというよりは、組織と組織の結びつきや調整が社会の動きを規定していくと考えられ…(中略)…組織の複合体として社会をとらえることが必要で、組織間関係を明らかにしていくことは、まさに現代社会を分析していくことにつながる。[4]」と述べ、組織間関係を研究することの重要性を指摘しているが、筆者はこの主張に同意し、企業グループのコンプライアンスの浸透・定着の研究に組織間関係論を用いる。

 組織間関係論の研究テーマの設定は、①合弁、業務提携、業界団体等、組織間の共同行動や共同組織の形成をどのように作り上げていくのかを研究するもの、②組織間の資源依存関係を活用してどのように組織間関係を自らに有利な関係とするのかを研究するもの、③組織間の資源・情報の流れをいかにして形成・安定させるのかを研究するもの、④組織間構造の形成とあり方を研究するもの、⑤組織間に形成される組織間文化を研究するもの、⑥組織間のコミュニケーションを研究するもの等、多様な切り口が想定されるが、本稿では、親会社が子会社を企業グループとしていかにコンプライアンスの浸透・定着という一定の方向に向かわせることができるのかについて、「多数の組織をいかにして一定の意思のもとに調整するのか」、「そこではいかなる調整の仕組みが形成されるのか」、言い換えると「組織の集合体においていかなる規則や規範が形成・維持されていくのか」、すなわち「組織化と組織間調整の問題」を中心に考察する。

 より具体的には、組織間の規則・規範の形成や維持に影響を与える要因やそのメカニズム、変化プロセスを考察する。

 具体的なテーマとしては、(1) 組織間パワーの形成と資源依存関係、(2) 組織間パワーとコミュニケーション、(3) 対境担当者、(4) 組織間関係の調整メカニズム、(5) 組織間文化、(6) 組織の組織論等について考察する。

 そのうえで、具体的な企業グループのコンプライアンス施策について、経験を踏まえて考察する。

 

 次回は、組織間パワーの形成と資源依存関係について考察する。



[1] 山倉健嗣『組織間関係――企業間ネットワークの変革に向けて』(有斐閣、1993年)

[2] 山倉・前掲[1] 4頁、22頁

[3] 山倉・前掲[1] 22頁

[4] 山倉・前掲[1] 3頁

 

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