◇SH1728◇社外取締役になる前に読む話(14)――取締役が会社に対して損害賠償責任を負う場合 渡邊 肇(2018/03/28)

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社外取締役になる前に読む話(14)

ーその職務と責任ー

潮見坂綜合法律事務所

弁護士 渡 邊   肇

 

XIV 取締役が会社に対して損害賠償責任を負う場合

ワタナベさんの疑問その9

 社外取締役になって一年経つが、なかなか会社に聞けないことがある。

 社外取締役が会社に対して損害賠償責任を負わなければならない場合というのはあり得るのだろうか。またそのような事態がありうるとすると、社外取締役として何に注意しておいたら良いのだろうか。

 

解説

 一体私はどのような場合に、会社に対して責任を負うことになるのでしょうか、という疑問を会社にぶつけるのはなかなか難しい。この点、会社に代わって解説しよう。

 まず、取締役一般の問題として説明する。

 取締役と会社との間には委任契約が存在する。取締役は、この委任契約上の義務として、会社に対し、善管注意義務(善良な管理者としての注意義務)または忠実義務と呼ばれる義務を負担している。善管注意義務と言われても、そりゃなんですか、ということになりそうであるし、善管注意義務と忠実義務とは何がどう違うのですか、という疑問も湧く。本稿でこの両者の違いを議論する実益はない。どちらも、平たく言えば取締役として果たすべき注意義務ということであり、取締役は、この善管注意義務に違反した場合に、会社に対して責任を負うことになる。いずれにしても、抽象的に義務の内容を議論するより、どのような場合に義務違反が発生するのかを検討した方が遙かに分かりやすい。

 取締役の善管注意義務違反は、以下の場合に発生する。

  1. 1  違法行為に関与した場合
  2. 2  取締役に与えられた裁量権を逸脱した場合
  3. 3  他の取締役の業務執行行為の監視または従業員の監督を怠った場合
  4. 4  内部統制システムの構築を怠った場合

 それぞれの詳細を解説する余裕はないが、上記のうち、1と2はもっぱら、取締役が業務執行を行った場合に発生する可能性がある責任類型であるところ、先回解説したとおり、社外取締役は業務執行を行うことはできないから、社外取締役の責任が発生する原因としては捨象して良い。また、4については、取締役による、1または2の有責行為が認められた場合に、当該有責行為を事前に防止するための社内体制を構築しなかった責任として付随的に認められる可能性があるものだが、社外取締役に対してこの責任が課せられる可能性は相対的に低いと思われるので、これも敢えて捨象する。

 そうすると残るは、3の「他の取締役の業務執行行為の監視または従業員の監督を怠った場合」ということになる。但し、業務執行を行わない社外取締役が自ら所管する業務を行う従業員の監督を行うということ自体あり得ないから、結局社外取締役が会社に対して責任を負う場合とは、突き詰めると、「他の取締役の業務執行行為の監視を怠った場合」以外には殆ど想定しづらいことになる。

 この監視義務の内容について若干解説しよう。

 監視義務とは、他の取締役が会社に損害を与える行為をしないように監視せよという義務であり、より具体的にいえば。他の取締役が上記1または2の行為、すなわち、違法行為または裁量権逸脱行為をしないように監視せよということである。前者についていえば、取締役が遵守すべき法令には基本的に何らの限定はないから、他の取締役が違法行為に関与して会社に損害を与えることがないように監視する必要がある。また後者は、経営判断の原則に基づき、取締役がその裁量権を逸脱しないように監視するということであるが、判例の枠組みによれば、取締役が裁量権を逸脱したとして責任を問われる場合とは、ひとつは、

  1. ⑴ 意思決定が行われた当時の状況下において、当該判断の前提となった事実の認識の過程(情報収集とその分析、検討)に不注意な誤りがあり、合理性を欠いている場合

であり、もうひとつは、

  1. ⑵ 事実認識に基づく判断の推論過程及び内容が著しく不合理なものであった場合

である。要するに、取締役が、経営判断を行うにあたり、事実認識に誤りがあった場合、または判断が著しく不合理であった場合の双方に、当該取締役に、裁量権の逸脱による責任が発生する可能性があるということになる。したがって、取締役は、他の取締役が業務執行にかかる判断を行うにあたり、前提となる事実認識に誤りはないか、その判断自体が著しく不合理でないか、について監視する義務があるということになる。

 以上まとめると、社外取締役であるワタナベさんが責任を負う可能性がある場合とは、

  1. 1. 他の取締役の業務執行行為が法令に違反していないか
  2. 2. 他の取締役が業務執行にかかる判断を行うにあたり、前提となる事実認識に誤りはないか、その判断自体が著しく不合理でないか

について監視する義務を怠ったとき、ということになる。

 次号では、その具体例について検討してみたい。

 

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