実学・企業法務(第127回)
法務目線の業界探訪〔Ⅰ〕食品
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
〔Ⅰ〕食品
4. 事故・事件の例
例2 アクリフーズ「農薬混入事件」 (以下、㈱アクリフーズを「A」という。)
(2) 第三者委員会の提言
【マルハニチロ(親会社)への6つの提言】
- ① 食品企業としてのミッションの再確認と浸透(原点への立ち返り)
- ② 組織改革(リスク情報を隠蔽せず、客観的に評価し迅速に対応できる体制)
- ③ 品質保証機能の強化(環境・品質部門を中心に、各事業部門やグループ各社品質保証担当と連携)
- ④ 危機管理への備え(常日頃から危機に備える組織体制)
- ⑤ 食品防御(犯罪行為に対抗できる強力な監視体制や異物混入防止策)
- ⑥ PBオーナー[1]との関係づくり(回収対象商品にPB商品が含まれることを想定)
【群馬工場への改善要求】
食品防御に対する意識向上、監視体制の徹底、外部からの侵入に対する防止体制、外部からの危険物持ち込みに対する防止体制、洗剤・殺虫剤・塗料の管理、危険物・異物混入防止対策、苦情発生時の対応、早期認知への対応
(3) マルハニチロ(親会社)の対策
危機管理再構築委員会(委員長:社長)を設け、6つの再構築プロジェクトに取り組む。
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1. グループガバナンス
経営理念などグループビジョンの整理/周知徹底、コンプライアンスの浸透/定着活動、グループ経営体制の明確化、危機管理を統括する組織体制の再整備検討 -
2. 危機管理体制
危機的事態発生時の初期体制の整備、責任と権限の明確化、危機的事態の発生を抑制するリスクの分析及び対応策策定、グループ各社との双方向のコミュニケーションを図るなどリスクへの感度を上げる活動 -
3. 品質保証体制
品質保証関連規程の見直しとグループ企業への周知徹底、お客様からの重大お申し出案件の抽出と関係者共有システムの構築、製品品質リスクの調査・分析・強化の定常的な実施、社員教育の実施と専門家教育、緊急時の対応力強化 -
4. 食品安全・フードディフェンス 目標「不審者による意図的な食品汚染を防御する」
外部侵入や異物混入を防止する施設、フードディフェンスルールの策定、フードディフェンスに対する意識醸成、風通しの良い職場環境の整備、上記の継続的な見直し -
5. 労務問題改善
従業員満足度調査、直営工場新人事制度の構築、コミュニケーション・ツールの制定 -
6. ブランドの信頼回復
群馬工場見学会(メディア、お取引先様、お客様)、店頭試食プロモーションによるコミュニケーション、広告・雑誌タイアップによる告知
(4) 群馬工場(事件発生の現場)が取り組む6つの対策
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1. フードディフェンス体制の構築(ハード面)
ICカード入退場管理システム、アクセス制限・鍵管理強化、防犯カメラを5台→169台に増設等 -
2. フードディフェンス体制の構築(ソフト面)
フードディフェンス専任チームを設置し、対策を徹底・改善する。
製造区域内への入室時の持ち物チェック、私物の持ち込み防止 -
3. 人事制度の見直し(全従業員が意欲を持って働ける職場を目ざす)
群馬工場の裁量で地域社員に昇格、標準以上の評価の従業員は評価に応じて時給を上げる -
4. 従業員とのコミュニケーションの充実(工場内の意思疎通を活性化し、風通し良い職場をつくる)
製造現場の一角にデスクとLAN環境を導入し、管理者が現場と向き合いながら仕事する
管理職の携帯電話番号・メールアドレスを公開、内部通報制度の紹介・説明 -
5. 苦情発生時の対応(苦情受付段階から「意図的な混入」も想定して迅速に対応する)
顧客の苦情を受けた段階で、工場の品質管理課が、他に同種苦情がないか確認
複数件発生している場合は、悪意を持った者の「意図的な混入」も想定 -
6. 早期認知への対応(危機発生に備えて日頃からリスクの発見・軽減に取り組む)
「意図的な異物混入」を想定した危害分析とその内部検証を実施
(HACCPの考え方を取り入れたISO22000の実効性を高める。)