ウイリス・タワーズワトソン、経営者の報酬・指名委員会の体制および
運用にかかる実態調査結果
岩田合同法律事務所
弁護士 伊 藤 菜々子
企業向けコンサルティングのウイリス・タワーズワトソンは、7日、報酬・指名委員会の体制と運用の実態について、調査結果を公表した。調査結果の詳細は同社HPに掲載されているが[1]、以下、概要について解説する。
調査は、指名委員会等設置会社のほか、任意の諮問委員会を設置する監査役会設置会社及び監査等委員会設置会社の計700社の上場企業を対象として、コーポレートガバナンス報告書の記載事項の集計と、対象企業に調査票を送付し平成28年7月末から9月中旬までに得られた任意回答(164社)により実施された。
調査結果は、①委員会の構成と、②委員会の運営実態の2つのテーマに分かれている。①委員会の構成については、任意の諮問委員会を設置している企業(指名委員会等設置会社を除く。)の80%以上が報酬・指名の両委員会を設置し、委員長を社外取締役としている企業が、報酬・指名委員会ともに約45%、残りの約半数は委員長を社内取締役としていた。委員会の人数については、報酬・指名両委員会とも平均約4.5名で、3~5名で構成する企業が約80%を占めている。中には6名以上とする企業も約15%みられるが、2名の企業は約1%にとどまる。委員に占める社外取締役の割合は、報酬・指名両委員会とも社外取締役が委員の過半数を占めている企業が約50%(半数を含めると70%弱)あるが、半数未満又は含まれない企業も約35%あった。
②委員会の運営実態については、取締役の諮問機関として設置している企業が約88%、代表取締役の諮問機関としている企業が約12%である。開催回数は、両委員会とも平均年3.6回であり、年間6回以上開催している企業も15%ほどある一方、1~2回の開催にとどまる企業も約40%あった。主な審議事項としては、報酬委員会では「報酬水準や報酬構成の妥当性」、「インセンティブ制度の仕組みの妥当性」、「社外取締役の報酬制度、役員個人別の実際支給額の妥当性」を上げる企業が多くみられ、「役員退任後の顧問・相談役の報酬」や「子会社役員の報酬」を上げる企業は少数にとどまった。指名委員会では「指名・選任候補者案についての審議」、「社外取締役の氏名・選任候補者案についての審議」、「選任基準の策定」といった項目を挙げる企業が多く、「CEOの後継・育成計画」や「社外取締役の選解任の判断」を上げる企業も半数程度みられた。
任意の報酬・指名委員会は、独立社外取締役の適切な関与の方法として、年々増加傾向にあり、平成28年11月11日時点における上場企業の設置状況は以下の通りである。
〔任意の委員会の設置状況〕
コーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」という)では、機関設計にあたっては必要に応じて任意の仕組みを活用することが求められ(原則4-10)、これを受けた補充原則4-10①では、以下のとおり任意の諮問委員会の活用を例示として挙げている。
補充原則4-10① |
また日本取締役協会による経営者報酬ガイドライン(第四版)においても、すべての公開企業において、独立取締役を過半数の構成員とした報酬委員会を設置することが推奨されている。
任意の諮問委員会は、会社法上の機関ではないため、自由に設計することが可能である。そのため、設計は各社の実情に応じた工夫が求められているが、CGコードでは、任意の諮問委員会を設置する場合は、独立社外取締役を主要な構成員とすること(独立社外取締役が過半数を占めるか、議長が独立社外取締役である場合は、独立社外取締役が主要な構成員であると評価されることが多い。)、さらに独立社外取締役から「適切な関与・助言」が得られるよう配慮することが言及されている。
この点を踏まえると、任意の諮問委員会を設置するという形式的な対応をとることでは足りず、委員会の機能を十分に発揮するための仕組みづくり、すなわち委員会の権限や運営方法をどのように設計するかが重要であり、今後はこの点にも関心が集まるものと思われる。今回の調査結果は、任意の諮問委員会を設置・運営する際の実務の参考になると思われるため紹介した。
以 上