総務省、電気通信事業分野における経済安全保障の確保の在り方報告書案を公表
アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁護士 藤 田 将 貴
弁護士 鈴 木 潤
弁護士 西 山 洋 祐
1 はじめに
情報通信分野においては、IP化・ブロードバンド化やモバイル化、仮想化・クラウド化等の進展や事業者間の競争構造の多様化・複雑化の進展、情報通信産業の国際競争力の低下等、市場環境が大きく変化している。こうした変化に迅速かつ柔軟に対応し、国民生活の向上や経済活性化を図ることを目的に、2023 年8月に総務大臣から情報通信審議会(以下「審議会」という。)に対し、「市場環境の変化に対応した通信政策の在り方」について諮問がされた[1]。これを受けて、審議会は、電気通信事業政策部会の下に通信政策特別委員会を設置し、具体的な検討を進め、2024年2月9日、「市場環境の変化に対応した通信政策の在り方第一次答申」[2](以下「第一次答申」という。)において、早期に結論を得られた事項に関して提言を取りまとめた。他方、第一次答申において残された論点のうち、「電気通信事業分野における経済安全保障の確保の在り方」の論点については、2024年2月から同年10月まで、通信政策特別委員会の経済安全保障ワーキンググループ(以下「本WG」という。)において5回の会合が開催され、事業者・団体等の関係者のヒアリングを行いながら検討が重ねられた。
このような中、本WGは、2024年10月18日、今後の電気通信事業分野における経済安全保障の確保の在り方について、政策の方向性を整理したものとして、「電気通信事業分野における経済安全保障の確保の在り方報告書(案)」(以下「本報告書案」という。)を公表した[3]。
本報告書案は、外資等規制[4]一般についての現状と課題について俯瞰した上で、外資等規制につき、(1)外資総量規制の在り方、(2)個別投資審査の在り方、(3)外国人役員規制の在り方の3つに分類し、それぞれについて「現状と課題」を整理した上で「取組の方向性」を示している。
以下では、各規制の在り方について、「取組の方向性」として示された点を中心に解説する。
この記事はプレミアム向け有料記事です
続きはログインしてご覧ください
(ふじた・まさき)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。2003年早稲田大学法学部卒業。2006年京都大学法科大学院修了。2007年弁護士登録(東京弁護士会)。2016年University of California, Berkeley(LL.M.)修了。2017年ニューヨーク州弁護士登録。大手総合商社法務部への出向経験を有する。国内外の経済安全保障・通商、M&A、事業再生分野を中心に取り扱う。主な著書・論文:『英文M&Aドラフティングの基礎』(共著)(金融財政事情研究会、2023)、「米国の経済制裁の基礎知識と実務対応のポイント」(Business Lawyers(ウェブサイト)、2022)、「経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度を創設する法案の閣議決定」(商事法務ポータル、2024)、「欧州委、経済安全保障を強化するための5つのイニシアチブを公表」(商事法務ポータル、2024)、「米国による懸念国向け半導体関連輸出規制の強化」(商事法務ポータル、2023)、「米財務省 CFIUS2022年次報告書を公表」(商事法務ポータル、2023)、「米財務省、マネーロンダリング防止法および制裁法違反によりバイナンスと合計約43.7億ドルの制裁金支払いで和解」(商事法務ポータル、2023)、「グローバル法務 日本企業が留意すべき個人情報保護、ビジネスと人権、経済安全保障に関する各国の法規制や動向」(共著)会社法務A2Z 2024年2月号ほか多数。
(すずき・じゅん)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所スペシャル・カウンセル。2004年慶應義塾大学法学部卒業。2006年立命館大学法科大学院卒業。2009年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2015年米国ジョージ・ワシントン大学ロースクール(LL.M.)修了。2017年ニューヨーク州弁護士登録。2024年7月まで2年間、外務省総合外交政策局経済安全保障政策室において、経済安全保障推進法、外為法、重要土地等調査法、重要経済安保情報保護活用法等の設計や運用にかかる体制整備等を担当。それ以前は、日系事業会社の本社及び米国グループ会社の法務部において経済安全保障部門の立ち上げに関与した他、グループ全体の経済安全保障に関するコンプライアンス体制の整備、投資案件等の個別案件を担当。
(にしやま・ようすけ)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2012年東京大学法学部卒業。2014年東京大学法科大学院卒業。2015年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2020年The University of Chicago Law School(LL.M.)修了。2022年ニューヨーク州弁護士登録。南北アメリカと欧州を中心に広く国際法務に携わる。かつて駐在していたメキシコ等の中南米各国の案件を多く取り扱う。スペイン語が堪能。また、スペインをはじめとする欧州各国の案件も多く取り扱っており、そのためEUの投資規制、データ保護規制(GDPR)、輸出規制、企業結合規制等にも通じている。主な著書・論文:「グローバル情勢における安全保障上の懸念を踏まえた、外資による投資・買収規制の最新動向[第5回]スペイン」(Business & Law(ウェブサイト)、2023)、「【連載】メキシコ会社法の解説」(Business Lawyers(ウェブサイト)、2021)、「【連載】メキシコ競争法の解説」(Business Lawyers(ウェブサイト)、2021)ほか多数。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。
<連絡先>
〒100-8136 東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング
* 「アンダーソン・毛利・友常法律事務所」は、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業および弁護士法人アンダーソン・毛利・友常法律事務所を含むグループの総称として使用