◇SH3131◇座談会 新型コロナウイルス感染症と令和2年度定時株主総会(下) 藤田友敬 三笘 裕 飯田秀総 塚本英巨(2020/05/01)

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座談会
新型コロナウイルス感染症と令和2年度定時株主総会(下)

 

東京大学大学院法学政治学研究科教授〔司会〕 藤田友敬

長島・大野・常松法律事務所/弁護士 三笘 裕

東京大学大学院法学政治学研究科准教授 飯田秀総

アンダーソン・毛利・友常法律事務所/弁護士 塚本英巨

目 次

1 感染リスクを抑える形で株主総会を開催する
 (1)前提:「株主総会運営に係るQ&A」の一般的な性格
 (2)Q1に関して
 (3)Q2、Q3に関して
 (4)Q4に関して
 (5)Q5に関して
                     〔以上(上)掲載〕
2 バーチャル株主総会
 (1)前提:コロナウイルス対策としてのバーチャル株主総会
 (2)完全バーチャル株主総会
 (3)ハイブリッド参加型バーチャル株主総会
 (4)ハイブリッド出席型バーチャル株主総会
3 株主総会の開催時期にかかる論点
 (1)前 提
 (2)単純な延期
 定款の記載(定時株主総会の時期・基準日)との関係
 本来の定時総会のタイミングで決議しなくてはならない事項
 配当の基準日を変更することの問題点
 役員選任との関係
 (3)継続会の利用
 継続会までの期間の問題
 継続会と役員の選任
 (4)別個の株主総会を2回開催する
 いずれが定時株主総会なのか
 第1回の会議を定時株主総会と扱う場合の問題:計算書類の提出との関係
 第2回の会議を定時株主総会と扱う場合の問題:期末の欠損責任
 計算書類が出ていない段階で決議をすることへの是非
 株主総会を2回開催することの費用

4 むすび
                     〔以上(下)掲載〕

 

※本座談会は、オンライン会合の形式により、2020年4月22日に収録されたものであるが、その後に公表された情報も【補足情報】等の形で取り込み、記事として取りまとめている。

 

2 バーチャル株主総会

(1) 前提:コロナウイルス対策としてのバーチャル株主総会

藤田 次にバーチャル株主総会の話に移りたいと思います。ちょうど本年2月末に、経済産業省から「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(2020年2月26日。以下、「実施ガイド」という)が出されたこともあり、雑誌の特集等で、今回の新型コロナウイルス感染症拡大防止策との関係でバーチャル株主総会に着目した記事をよく見かけるのですが、まず確認として、そもそも新型コロナウイルスの感染症対策としてバーチャル株主総会――実施ガイドの言葉を使うなら「ハイブリッド型バーチャル株主総会」――を志向する会社というのは、かなりの数あるのでしょうか。特に、実施ガイドにいう「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」をやろうという会社はあるのでしょうか。実務の感覚を教えていただければと思います。塚本さんは、ポータルに詳細な記事を書いておられますが(SH3087 事実上の「バーチャルオンリー型株主総会」を志向した「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」の開催のポイント 塚本英巨(2020/04/02))、あそこでは主としてハイブリッド出席型バーチャル株主総会を念頭に置いていましたよね。

塚本 そうです。

藤田 実際に、今年ハイブリッド出席型バーチャル株主総会をやろうという会社はそれなりにあるのでしょうか。

塚本 出席型はそれほど多くない印象でして、今年増えそうだなと感じていますのは参加型です。ただ、その参加型も、リアルタイムで参加して会場の進行と同時並行でコメントを受け付けるということまでするわけではなく、動画配信にとどまる会社が多そうです。さらに出席型まで行うというのは、会社としてはハードルが高いようです。

藤田 今塚本さんがおっしゃったのは、あまり積極的な参加ができないタイプですね。株主総会を録画しておいて後で流すというサービスは、一部の会社が随分前からやっています。そういうレベルの株主サービスとしての動画配信が増えるという程度ですか。

塚本 録画にとどまらず、ライブ配信を行う会社は増えると思います。

藤田 なるほど。ただハイブリッド参加型バーチャル株主総会参加型でも、ある程度のコミュニケーションはなされる――法的な意味での質問権の行使等ではないとしても――ことが想定されているはずですが、ライブではあるが、コミュニケーションがない一方的な放映という感じですか。

塚本 はい、そういう印象です。中には、総会の1週間前までにコメントを受け付け、その上で、当日は、ライブ配信を行い、また、事前に送られてきているコメントに回答するという形で参加型を行うことを考えている会社もあります。

藤田 「参加」といっても、事前アンケートを踏まえて、それに対する回答を現場の発言に取り込んで、それを一方的に配信するという感じですね。

塚本 はい。

藤田 三笘さんも感触は同じですか。

三笘 興味のある会社さんは一定数いらっしゃるのですけれども、結局、出席型は株主の認証の問題とか、もし通信が途絶したらどうなるんだという話とか、いろいろ考えなければならないことがあるので、今回は検討が間に合わないかなという印象です。そうすると、参加型、あるいは参加型の簡易版として会場の様子をストリーミングで流す、ライブ配信するという企業は一定程度出てくるかもしれません。ここで少し実務的な話をすると、結局、こういうことをやろうとすると自社単独ではできないので、どこかの業者(ベンダー)を使わなければならないということになるのですけれども、みんなが6月の後半に総会をやるときに一斉に対応ができるのかというと、証券代行みたいな人的キャパがある業者(ベンダー)がいればできるのかもしれないですが、少なくとも今年については、そういうわけにはたぶんいかない。だから、やりたいと言っても対応してもらえない会社というのは相当数出てきて、これが何年か経つと、だんだん裾野が広がるのかもしれませんけれども、すぐに爆発的に増えるかというと、そうはならないのではないかと思っています。

藤田 実務的にそんな感触だとすると、あえてハイブリッド型株主総会を試みようとする会社は、それほど多数に上るわけではないということでしょうか。特に、ハイブリッド出席型株主総会を行うのは、ウェブ会議のシステムを開発・販売している会社など、極めて限られているものかもしれません。最近新型コロナウイルス感染症対策との関係で、バーチャル株主総会やたら取り上げられたり、またマスコミも株主総会のバーチャル化という方向での報道をしたがる傾向があったりするのですけれども、株主総会をバーチャル化するということは、今回の対策のメインになるか疑わしいということでしょうね。そうはいっても、この際ですから、バーチャル株主総会についていくつかの点を議論させていただきます。

  1. 【補足情報】
  2.   本座談会収録後、パイプドHD株式会社からハイブリッド出席型バーチャル株主総会を開催する旨のアナウンスメントが出された(http://www.pipedohd.com/news/2020/20200422_01.html)。なお同社はオンライン投票システムを提供し、ウェブ会議のシステムを提供する完全子会社を有している。

(2) 完全バーチャル株主総会

藤田 まずバーチャルオンリー型株主総会は現行法の下では不可能で、リアルの総会会場は設けつつ、現実にはそこに来る人をできるだけ減らすことで、事実上のバーチャルオンリー型に近い運営がどこまでできるかという形の議論をしています。しかし、バーチャルオンリー型株主総会ができないと言っているのは、法的な論拠としては、会社法298条1項1号で総会の場所が取締役会の決定事項になっていて、かつ、招集通知にこれを記載しなくてはならないという、きわめて形式的なものです。これに加えて、完全バーチャルな株主総会を禁止する実質的な理由というのはあるのでしょうか。特に実務のほうで、完全バーチャルな株主総会を認めることに実質的な問題があると思われる理由はありますか。

三笘 私は、そもそも完全バーチャルは別に禁止されているわけではなく、解釈でやれるようにする余地はあると思っているのですが、ただ、前提としては、やっぱりインフラがないと無理で、セキュリティーとか、安定性とか、操作性とか、こういうものを兼ね備えたようなシステム開発がちゃんとできれば、これはあり得ると思います。しかし、セキュリティーが怪しいとか、途中で途切れてしまうかもしれないとか、使い方が難しくて、一定のスキルがある人しか参加できないということになってしまうと、これは株主権の行使に制約をかけてしまうことになるので、やっぱり駄目だろう。このあたりが解決できればバーチャルで何も問題はないと思っています。

 少し理屈っぽい話をすると、取締役会も株主総会も会議体なのですけれども、取締役会ではテレビ会議や電話会議を通じて会議ができることになっています。取締役会というのは、マルチラテラル、要するに各取締役同士で多角的に議論が交わされる会議体であるのに対して、株主総会というのはバイラテラル、あるいはハブ・アンド・スポーク形の会議体で、株主が言ったことに経営陣が都度答えるという形になっています。ハブ・アンド・スポークのような形の会議体のほうが本来バーチャルにしやすいはずなのですけれども、現実問題としては、参加者が多いことから逆で、取締役会のほうがバーチャル化が進めやすくなっています。もし技術的な障壁を乗り越えられれば、完全バーチャルの株主総会をやっても法律上も何の問題もないと思っています。

藤田 何点か次元の違った問題があって、第1は、技術的なところを乗り越えられなければ駄目だということで、それはもちろんそうでしょう。現在、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会ですら、万一のことを考えるとやりづらいというのでしたら、バーチャルオンリー型株主総会をやる気になれないのは当然です。ただ技術的な点は乗り越えられたとして、あるいは、これを通信の途絶等の場合のセーフハーバーまで手当てするということまで含んだ立法論をするとして、実質論として何か問題はあるでしょうか。

 北村雅史先生が日本私法学会第82回(2018年度)大会のシンポジウムの報告で、「バーチャルオンリー型であれば、株主は取締役と対面して直接説明を聞き、意見、質問を述べる機会がなくなる。これは経営者を株主から隔離するもので、株主総会を通じたガバナンスの実効性が損なわれる」と書かれています。特に今回の新型コロナウイルス感染症対策との関係で、海外では、バーチャル株主総会を解禁する立法をした国もあると聞いていますけれども、こういう実質論がもしあるとすれば、そのような立法には慎重にならざるを得ない。三笘さんなんかは、こういう発想にはあまり実感が湧かないということでしょうか。 

三笘 実感がないというわけではないのですが、そういう場は株主総会じゃなくて株主交流会など、別の場で機会を設ければよいのではないかと思っています。株主総会でやろうとするから決議の取消という法的な問題が出てきて、過剰に安全サイドを見た運用になって余分なコストがかかっているのではないかというのが問題意識です。

藤田 要するに取締役と対面して直接説明を聞き、意見・質問を述べる利益は、株主総会以外の場でもできることにすぎない、株主総会を対面でやることの保護法益としての強さというのは、それほど強くないということですね。

三笘 はい。

藤田 塚本さんも感覚は同じですか。

塚本 はい。基本的に同じでして、現行法の文言上、バーチャルオンリー型が可能かというのは、法務省の見解もありますので難しそうだということではありますが、会社法が、そもそも論として、バーチャルオンリー型を絶対に認めないという前提に立っているとは思っていません。ですので、会社法を改正してバーチャルオンリー型を許容することも可能だと思います。ただ、改正しようとする際に出てくるであろう問題として、デジタルデバイドの問題が考えられます。令和元年会社法改正で株主総会資料の電子提供制度が導入されますが、これについても、デジタルデバイドの問題の関係で、株主の書面交付請求権が認められています。そのため、株主総会についてバーチャルオンリー型を導入しようとする場合には、デジタルデバイドの問題との関係でどのように折り合いをつけるのかというのが、論点になりそうです。

三笘 デジタルデバイドのところについては、少し思うところがありまして、会社法の改正のところでもこの議論が随分あったことは認識しているのですけれども、ただ、今回の新型コロナウイルス問題で、たとえば小学生でもタブレットを使ってオンラインの授業を受けているわけですよね。そういう御時世だという前提で、果たしてデジタルデバイドの議論をそこまで徹底してやらなければいけないのかという点について、私は非常に疑問に思っていまして、考えてみれば、株式の投資自体、会社の情報はほとんどオンラインで出ていて紙では出ていませんので、そもそもコンピューター、インターネットが使えなかったら株式の投資判断もできない状況にあるのです。これは20年、30年前と全然違う状況なので、それにもかかわらず、デジタルデバイドの議論をいまだにあのレベルでやっていることについては、私はいかがなものかなと思っています。

藤田 念のため確認したいのですが、完全バーチャルな株主総会を認める場合も、書面投票用紙は送られてきて、それを送り返すことで議決権行使は可能だという前提なのでしょうか。特に立法論の場合ですけれども。

三笘 それはそうだと思います。

藤田 そうなると株主総会関係類についても、書面交付請求権を行使すれば紙でもらえますので、議決権の行使についてはデジタルデバイドの問題には最低限の対応はできていることになります。質問権を行使したりすることが現場ではできなくなるため、そこにはデジタルデバイドの問題がないわけではないですが。

飯田 学説は伝統的に、物理的に対面して質疑応答することに価値を見出していて、対面であることによる緊張感といった、言葉以外の要素によるコミュニケーションにも意義があると考えてきたように思います。立法論としてバーチャルオンリー総会を認める場合、デジタルデバイドの問題もありますけれども、それに加えて、物理的に対面することが重要だという立場からすると、全株主の同意が必要だという議論もあります。私はそこは全然賛成してないところです。

 機関投資家なら対面で役員と会えるけれども、個人株主ならば会えないというあたりが、物理的な対面を重視する学説の実質論なのかもしれません。けれども、それをあえて株主総会の場でやらなくてはいけないのかというと、それは必須ではないだろうことについて全く三笘さんがおっしゃったとおりだと思います。

塚本 先ほどの物理的に対面することが重要であるという点に関しては、現行法上も、総会において、株主がリアルな総会場に来ることができるようにしておくことを前提に、議長を含む役員の全員が、バーチャルで出席する、テレビ会議や電話会議で出席し、リアルな総会場にはいないということは認められていますし、実際にそのように総会を開催した会社もあります。そのため、役員と対面で議論しないといけない、そこに価値があるという点については、現行法もすでに乗り越えていると考えられます。

藤田 私も感覚は当然皆さんと同じなのですけれども、1点だけ気になっているのは、一種のごまかしができる危険が増えないかということですね。たとえば株主総会で質問権を行使したときに、議長が無視すると、現場に人がいればわかってしまいますし、あるいは総会検査役というのを入れてチェックすることも可能です。バーチャルの場合だと、質問を無視したりしても他の株主は気づかず、証拠も残らないことにならないかという問題があります。リアルの総会を前提とした総会検査役に対応するチェックを、バーチャルとの関係でいかに導入できるかといったことも気になります。技術的にはログがちゃんととれていればよくて、それを閲覧する権利を株主に認めればよいのかもしれないのですけれども、このあたりの技術面に自信がないので、これまであまり積極的なことを言ってこなかったのです。ごまかしができないようなシステムがちゃんと作れて、かつ株主の側からチェックできるようにするという前提を置くと、対面であることそのものの価値が強行法で守らなければいけないような利益だとは、私も思っておりません。

 もっとも最後の点は、論者によって相当意見が分かれるかもしれませんね。さっきチッソ事件の話が出ましたが、一株運動のような活動に積極的な価値があると考える人からすると、バーチャルオンリー型株主総会は容認しがたいでしょうね。令和元年会社法改正における株主提案権の制限に関する国会審議等を見ていると、政治過程においては、そういう声が重視されることもあるかもしれません。

 最後に、今回の新型コロナウイルスの問題が、バーチャル株主総会が進展することへの後押しになる側面はあると思いますか。

三笘 それはあると思います。今まで従前どおりにやるというのが実務の普通の考え方だったのが、どこは削れてどこは守らなければいけないかというのを今回のコロナウイルス問題の中で検討しなくてはならなくなったので、そういう意味では非常によいきっかけになったと思います。

藤田 塚本さんも、そこは同じような感覚ですか。

塚本 はい、同じです。

藤田 塚本さんが、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会について詳細な論稿を書かれたのも(塚本・商事法務ポータルSH3087)、今年それが実施されるかどうかはともかく、将来的な検討との関係を睨んでのことなのでしょうね。

塚本 はい、おっしゃるとおりです。

(3) ハイブリッド参加型バーチャル株主総会

藤田 さて、ハイブリッド参加型のバーチャル総会をやるのであれば法的にはあまり問題はないのでしょうか。「参加」と言っても、別に法的な意味で株主権を行使するわけではないですから。もちろん三笘さんに言われたキャパシティーの問題がありますが、それ以外は実務的にはあまり問題ないということですかね。

三笘 そうです。実務的には問題はないですけれども、参加型のバーチャル総会というのがどのぐらい増えるのかについては、先行きはよくわからないなと思っていまして、というのは、会社の側で参加型バーチャル総会のシステムを導入することのメリットは何だと言われると、IR的なメリットは確かにあるのですけれども、結局、会場は準備しなくてはいけない上に、システム対応は仕事として増えますので、コストは当然かかるわけです。何のためにやっているのかというのが明確ではないと、参加型バーチャル総会を導入することに二の足を踏む会社も出てくるのかもしれないなと思っています。さらに、一度これを導入してしまうと、去年まではやっていましたけれども、今年はやりませんというわけにはたぶんいかなくなってしまうので、導入のためのインセンティブみたいなのがちょっと足りないかもしれないとは思っています。

藤田 参加型ですら、ちょっと二の足を踏むという感触は塚本さんも同じですか。

塚本 将来的に出席型を導入するとした上でその一歩手前の試みとして参加型を導入してみようという会社もありますが、参加型ですら躊躇する事情として、動画配信をすると、映像記録として残ってしまいますので、ごまかしが利かないということで、そこへの抵抗感も実務的にはありそうです。

藤田 考えすぎかもしれないですが、参加型は、ある意味中途半端な電子化ですよね。バーチャル株主総会などという触れ込みでやってしまいますと、株主はその場で当然議決権行使できるとか思いかねず、「参加型」バーチャル総会だというので会場に行かないことにしたのに、実際には何もできないじゃないかといった不満が出る危険はないでしょうか。それとも、これは株主に対する周知で何とでも対処できる問題なのでしょうか。

塚本 確かにおっしゃるとおりでして、そのような誤解が生じないようにするため、招集通知や同封書類で、参加型の意味についてきちんと説明しておく必要があると思います。この点に関して、会社によっては、参加型の場合には、「質問」という用語は使わずに「コメント」という用語を使うなどして、法的意味での「出席」や「質問」とは異なるものであるということについて、かなり配慮して進めた会社もあります。

(4) ハイブリッド出席型バーチャル株主総会

藤田 次に、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会についても、経産省の実施ガイドで法的問題まで相当詳しく検討されているところ、実施ガイドに詳細に書かれている整理で、基本的に実務的には法的な論点は決着がついたと理解してよろしいですか。出席型の場合ですら、動議など一定の範囲では株主の権利を制限しても問題ない、リアルな総会に参加する機会が保障されているからという整理をしているのですが、実務的には、安心して、それに乗れるという感触でしょうか。ハイブリッド出席バーチャル株主総会型を志向する会社が現状では少ないとすれば、あまり顕在化しないかもしれませんけれども。

三笘 法的な論点の決着については、結論として反対ではないのですけれども、ちょっと微妙な感じがしています。そもそもあそこで妥協しているところというのは、バーチャル出席株主が動議を出せるかという点と、動議に参加できるかという点についてなのですね。動議については、株主総会のリハーサルではいつも練習はするのですけれども、そもそも実務としては、95%以上の会社では動議が出ません。そういう意味では動議対応という非常にイレギュラーな場合について手当てするのに多大なコストがかかるから、そこは大目に見てもよいのではないかと割り切るというのもおかしくはないと思っていますが、理論的にどうかと言われると、最終的に実際に参加できるからいいじゃないかという理由づけでは、動議対応までできるシステムが完成しないと完全バーチャル型には移行できないことになるので、そのロジックに乗ってよいかというのは若干躊躇はあります。

藤田 完全バーチャル型の株主総会になると、嫌ならリアルな総会会場に行けばいいということは言えなくなりますので、動議等にも対処できるようなシステムが組まれることが大前提になるのでしょうね。それができないなら、動議を出せない株主総会を認めるというのと同じになってしまいますから。

 ハイブリッド出席型だと、そこまで深刻に考えなくてもよいのかもしれないのですが、実施ガイドにもかかわらず、ハイブリッド出席型株主総会には一抹のリスクは感じているという感覚でしょうか。

三笘 実際にリアル総会会場も準備しますよということであれば、このガイドにのっとってやること自体は十分可能だとは思っています。

藤田 そうすると、むしろ実務的により深刻な障害は、現実的なロジスティクスといいますか、ファシリティーのほうだということですか。

三笘 そうですね。

藤田 せめてハイブリッド出席型バーチャル株主総会が定着してくれないと、バーチャル総会の議論というのは盛り上がっていかないなと思っているのですけれども、今回、新型コロナウイルス対策としてこれを実施しようというところがそれほどないということでしたら、今日の議論としてはこれ以上深入りしないで次に移りたいと思います。

3 株主総会の開催時期にかかる論点

(1) 前 提

藤田 最後に、私が一番難しいと思っているのは、株主総会の開催時期に係る論点です。相当、法的な論点があり、異なる見解がいろいろ示されているからです。

 まず大前提として、もし計算書類の監査が全部済んで、通常の日程で定時総会に提出できるのであれば、最初に議論した参加者を減らす形でそれを実施するというのが安全な選択肢として考えられると思います。そして、できるだけそうせよということを強くおっしゃる実務家の方もいらっしゃいます。たとえば倉橋先生が、近時の論文の中で、「実務上の判断としては、総会の延期はよほどの事態でない限り、推奨することができない」(倉橋雄作「新型コロナウイルス感染症と総会開催・運営方針の考え方」商事2227号(2020)13頁)と強調されています。しかし、少なくない会社は6月総会に間に合う形では計算書類を用意できないのではないかという懸念があります。さらに予定どおり開催することが会社法的には難点が少ないからといって、それに間に合わせるために従業員や監査法人に感染リスクにさらすような形で作業を強行させてよいのかという問題があります。そうなると、どうしても計算書類が6月総会には用意できないという事態を想定した対処を検討することが必要になると思います。ちなみに金融庁は、早々に内閣府令を改正し、有価証券報告書の提出時期を9月末まで猶予しています。そこで株主総会において計算書類を提出する時期も遅らせることができないかということが問題となるわけです。

  1. 【補足情報】
  2.   座談会後の4月24日、経済産業大臣の談話として、「企業の決算や株主総会運営の業務に携わる方々の健康や安全にも十分にご配慮を頂く必要がある」とし、「6月末に開催されることが予定されている株主総会につき、その延期や継続会の開催も含め、例年とは異なるスケジュールや方法とすることをご検討頂きたい」とする要請がなされた。

藤田 単純に考えると3つの方法があります。第1は単純に延期して開催する。第2は、2回開催する。すなわち6月に決めなくてはならないことだけ6月に決議し、計算書類を提出するのは2回目の総会にするというやり方です。第3は、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」(令和2年4月15日公表。以下、「連絡協議会見解」という)で示唆されていた継続会の利用です。6月に総会を開いて、その継続会として2回目を開催し、計算書類を提出する。そして両者が一体の定時株主総会と評価されるというやり方ですが。各々について少し立ち入って法的問題を検討したいと思います。

(2) 単純な延期

藤田 まず単純な延期、たとえば6月に予定されていた総会を9月に変更し、それに合わせたスケジュールで招集手続をとり、議決権の行使の基準日も設定し直すというやり方が考えられます。こういうことをするのに、実務的には難点があるのかというのが第1の質問です。このやり方だと、手続は1回で済みます。

  1. 【参考】
  2.   東日本大震災の際に定時株主総会を延期した上場会社として、下記のような例がある(「震災により開催時期を延期して定時株主総会を招集した事例」資料商事329号(2011)12頁)。
  3.    倉本製作所(12月決算)  サンシティ(12月決算)  やまや(3月決算)
  4.    東洋刃物(3月決算)  ジー・テイスト(3月決算)  山大(3月決算)

 定款の記載(定時株主総会の時期・基準日)との関係

藤田 大前提ですが、6月に開催しなくてはならない理由として掲げられるものにも幾つかあって、1つには定款の記載があります。まず総会の時期そのものが定款に書かれている場合があります。たとえば、「当会社の定時株主総会は、毎年6月にこれを招集する。」、「当会社の定時株主総会は、毎事業年度の終了後3ヵ月以内に招集する。」といった記載です。また、配当についても基準日が定款で書かれることが多い。たとえば、「剰余金の配当は、毎事業年度末日現在の最終の株主名簿に記載又は記録された株主又は登録株式質権者に対して行う。」、「剰余金の配当は、毎年3月末日の最終の株主名簿に記載又は記録された株主又は登録株式質権者に対して行う。」といった記載です。

 定時株主総会を延期することは、このような定款に違反し違法なのではないかという問題があります。この問題につき、法務省は、この種の定款は、「通常、天災その他の事由によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じたときまで、その時期に定時株主総会を開催することを要求する趣旨ではない」としています。また定時総会における議決権行使の基準日や配当に関する基準日についても、「新型コロナウイルス感染症に関連し、当該基準日から3か月以内に定時株主総会を開催できない状況が生じたとき」には、適宜設定し直してよいとしています。実は、東日本大震災当時にも、すでに同旨の見解が示されていましたので、今回突然新しい解釈が示されたわけではありません(法務省「定時株主総会の開催時期に関する定款の定めについて」「定時株主総会の開催時期について」)。

 このような法務省の見解を前提とすると、配当にしても、期末の株主に対してしなくてはならないという法的な要請はないということになりますが、やはり配当の基準日を変えるのは実務的には難しいのかが問題になります。

  1. 【参考】法務省「定時株主総会の開催について」(令和2年2月28日公表、4月30日更新)
  2.   定時株主総会の開催時期に関する定款の定めがある場合でも、通常、天災その他の事由によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じたときまで、その時期に定時株主総会を開催することを要求する趣旨ではないと考えられます。
  3. 【参考】法務省「定時株主総会の開催について」(令和2年2月28日公表、4月30日更新)
  4.   定款で定時株主総会の議決権行使のための基準日が定められている場合において、新型コロナウイルス感染症に関連し、当該基準日から3か月以内に定時株主総会を開催できない状況が生じたときは、会社は、新たに議決権行使のための基準日を定め、当該基準日の2週間前までに当該基準日及び基準日株主が行使することができる権利の内容を公告する必要があります(会社法第124条第3項本文)。
  5. 【参考】法務省「定時株主総会の開催について」(令和2年2月28日公表、4月30日更新)
  6.   特定の日を剰余金の配当の基準日とする定款の定めがある場合でも、今般の新型コロナウイルス感染症に関連し、その特定の日を基準日として剰余金の配当をすることができない状況が生じたときは、定款で定めた剰余金の配当の基準日株主に対する配当はせず、その特定の日と異なる日を剰余金の配当の基準日と定め、当該基準日株主に剰余金の配当をすることもできます。

 本来の定時総会のタイミングで決議しなくてはならない事項

藤田 定時総会の時期や基準日に関する定款の記載にもかかわらず、延期することが法的には可能だとしても、定時総会のタイミングで必ず決議しなくてはならない事項がある場合には、この手法は使えないことになります。実務的には、どうしても本来の定時総会のタイミングで決めなければいけないことというのは、どんなものが考えられるでしょうか。

三笘 6月にやる必要性の高いものとしては、配当を株主総会で決議しなければならない会社については配当議案、それから、取締役の改選期に当たる場合は取締役の選任です。役員の選任については別に9月でもよいではないかという議論はあるかもしれませんが、一応7月から新体制でやるというサイクルでずっと回っているものを、今年だけは9月、10月にずらすというわけには普通いかないので、やはり6月にやりたいというニーズは強いようです。

 配当の基準日を変更することの問題点

藤田 それでは配当議案のほうから検討しましょうか。配当議案の決議のタイミングを遅らせることは、やはり非常に難しいものでしょうか。

塚本 3月末の権利落ちを踏まえて株価が形成されていますので、上場会社には、何とかして6月までに配当決議をしておきたいというかなり強いニーズがあると思います。

藤田 そのニーズが非常に強いとすると、配当決議の時期が動かせない以上、単純延期はできないということになりますね。赤字で配当ができないような会社や、取締役会決議で配当を決定できる会社は別かもしれませんが。

 ところで基準日の前と後で配当の予想を織り込んで株価の差が出るというのは今ご指摘のとおりなのですが、基準日を変更したことで、会社や役員に法的責任が生じるのでしょうか。権利落ちの前後の価格差は、定款記載の基準日を前提に形成されるのですが、法務省の定款の解釈を前提とすると、異常事態が発生すれば基準日が変わり得るというリスクはあるはずで、それが折り込まれていることになるから、リスクが顕在化したからといって法的には責任は生じないような気がします。IR的な観点から、投資家に不満が出るので望ましくないという判断はそれと別にあるのでしょうが。

飯田 配当基準日の変更に関する損害賠償請求リスクはあるかという話ですけれども、具体的な配当請求権が発生する以前はある意味期待権にすぎないものですので、そもそも法的に保護される立場なのかということから疑問があります。他方で、配当をたとえば1株100円払う予定です、という将来情報の不実開示があるかという問題はあるかもしれません。けれども、これも事前に予想できない事態による配当の変更でしょうから、損害賠償責任については解釈論としては否定されるのではないかと思います。

塚本 3月下旬に、今回の新型コロナウイルスの影響で総会がどうなるかわからないということで、東証からも、注意喚起が投資家に対してなされておりますので、本来であれば、それを踏まえて投資行動されるべきところであります。また、6月に総会を開催することができないことについてはやむを得ない事情があるといえますので、配当をしなかったからといって会社や役員の法的責任が生ずることはないと考えられます。他方で、まさにおっしゃったとおりIR的なところですとか、投資家からの批判を受けたくないという経営陣の気持ちもあるのだと思います。

藤田 逆に計算書類も確定しない状態で、配当決議することに対しては、機関投資家等から反発が出る危険があるかなとも思ったのですけれども、そんなことはないですか。

塚本 配当議案や役員選任議案について、決算が確定していない中で、ある意味目をつぶって賛否を判断してほしいというのは、投資家としてもなかなか難しいという意見もあるようです。

  1. 【補足情報】
  2.   本座談会収録後に公表された金融庁=法務省=経済産業省「継続会(会社法317条)について」(令和2年4月28日)は、「機関投資家(株主)は、下記(「第1 趣旨」)に記載のとおり、企業が従業員等の健康や安全を最優先に考えた結果、継続会をはじめ例年とは異なる株主総会運営を行う場合には、形式的・機械的な基準によるのではなく、その実質・趣旨に着目した対応を行うことが強く期待される。」と述べる。上記の点に理解を求めようとする趣旨も含むのであろうか。

藤田 配当は6月に決めないと大変なことになるという感覚は三笘さんも同じですか。

三笘 そうですね。ダイレクトにお金に関わるところなので、できるだけ動かさないほうがよいと思います。もちろん配当が取締役会決議でできる会社については今議論しているような問題はないので、あくまで株主総会で決議しなければならない会社についてということです。

藤田 指名委員会等設置会社をはじめ、取締役会で配当を決められる会社であれば、議決権行使の基準日だけが問題となるので、株主総会を延期することへのハードルは低くなりますね。

  1. 【補足情報】
  2.   指名委員会等設置会社である株式会社東芝は、株主総会の会日を延期することを前提に議決権行使の基準日を5月15日に設定している(www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20200418_1.pdf)。

飯田 実務的な感覚を伺えればと思ったんですけれども、いつまで緊急事態宣言が続くかわからず、また、世界的に大混乱になるっている中でも、配当を予定どおり行うというのが実務的な感覚なんでしょうか。将来を見通せない現在のタイミングで配当をして現金を流出させてしまっていいのかと思ったんです。

塚本 後ほどの欠損填補責任とも関連するかもしれないですが、役員の個人責任が発生するかどうかという点はさておき、おっしゃるとおり、今期、利益がどうなるかわからない中で、本当に配当をしてしまっていいのかというのは、会社の担当者としては怖いものがあるという状況のようです。

三笘 結局、会社の財務状況によるんじゃないでしょうか。毎年の利益に相当程度リンクするような形で配当を出しているところは、今年の決算がわからないのにという話はあるかもしれませんけれども、内部留保が結構積み上がって安定配当をずっとやっている会社については、一応公表しちゃったものだから今回はやる、次回からはまた考えるというような対応をとられるところもそれなりにあると理解しています。

  1. 【補足情報】
  2.   議決権行使助言会社であるインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ社は,近時公表したポリシーガイドラインにおいて,本年度の配当について次のように述べる。“Where some of our ISS market-specific policies ordinarily look for dividend payout ratios to be within a certain range (based on earnings for the prior year), this year we will support broad discretion for boards that seek to set payout ratios that may fall below historic levels or customary market practice.”(ISS Global Policy Board, ISS POLICY GUIDANCE: IMPACTS OF THE COVID-19 PANDEMIC (April 8, 2020), p.8)

藤田 権利落ちの前後の価格形成ということから、本来の予定どおり配当したいという要請があることはわかったのですが、それに、たとえば、そもそも配当は期末の株主が受け取るべきものであるとか、定時総会は議決権を行使するのは期末の株主でなくてはならないといった感覚は、現在では実務的にもあまり深刻なこだわりはないと理解してよろしいですか。

三笘 私はあまり気にしてなくて、事前にちゃんとアナウンスさえしておけば、それで構わないと思います。ただ、今期は間に合わず、事前アナウンスができていないので、後から変更するのはあまりうまくないなと思っています。

藤田 塚本さんも同じでしょうか。

塚本 はい、そのように理解しています。ただ、会社としては、従前からの考えのとおり、期末配当は期末時点の株主に支払うものだという意識が割と強いようです。また、論理的には、期末の株主に配当を支払う一方で議決権行使をする株主は別の日の株主でもいいはずなのですが、あえて基準日を2回設定する必要もないといったような事情から、結局、平時でも、7月総会を開催する3月決算の会社もなく、3月末の基準日で、配当も行い、また、総会も6月に行うという実務が変わっていません。

 役員選任との関係

藤田 役員選任との関係で、単純な延期には問題がありますか。

塚本 あくまでも平時における問題ではありますが、6月に総会を開かず、改選期にある役員の選任をしないと、登記実務上、6月末で任期が切れたものとして扱われてしまうという問題があります

藤田 ごめんなさい、6月末に任期が切れるというのはどういう意味ですか。

塚本 登記上、6月末までに株主総会が開催されていないと、6月末の経過をもって改選期にある役員の任期が満了してしまうという問題です。

藤田 その点は、法務省が別途Q&Aを出していますよね。商業・法人登記事務に関するQ&A(令和2年4月13日公表、5月1日更新[編集部注:本発言中で引用した部分は、本座談会収録時(5月1日更新前)からあったもの])によると、「今般の新型コロナウイルス感染症に関連し、定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には、その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りる」とした上で、「そのような場合には、改選期にある役員(任期の末日が定時株主総会の終結の時までとされている取締役、会計参与及び監査役)及び会計監査人の任期については、定時株主総会を開催することができない状況が解消された後合理的な期間内に開催された定時株主総会の終結の時までとなるものと考えられます。」とあります。だから適法な延期だと認められる限り、延期して開催される定時株主総会の終結時まで任期は延長されるはずで、退任登記もされないはずです。したがって法務省の一連の見解を前提とする限り、ご心配されるような問題は起きないと理解してよいのではないでしょうか。

塚本 はい、今回の延期に関しては、そのように理解しています。

藤田 さて、役員選任については法的な問題はなく、配当の基準日が動かせないというのもどこまで絶対的な要請なのか、理屈の上では何か釈然としないところが残る気もするのですが、実務的には、期末の株主に対して配当しなくてはならないというプレッシャーが強いためこれを動かさないという前提での対応も考えるという前提で、とりあえず先に進むことにしましょうか。

  1. 【補足情報】
  2.   本座談会収録後、株主総会の開催日を延期すると同時に、配当の基準日を変更する旨のアナウンスメント出す会社も現れてきている。
  3.    株式会社ナンシン https://www.nansin.co.jp/information/news/2019.php
  4.    株式会社サンリツ https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/04/00-2.pdf

(3) 継続会の利用

藤田 さて、少なくとも配当との関係では、6月に株主総会を開催し配当決議はしたいという前提で考えると、単純に延期するのは難しいというご指摘がありました。さらには、三笘さんも指摘されたように、役員の選任もできればスケジュールどおりしておきたいということになると、これらの議案については予定どおりのタイミングの総会――できるだけ株主が来ない形でという前提ですが――を行い、計算書類の提出をする総会を後にするというやり方をとることになります。

 この場合2つの方法が示唆されていて、第1は、会社法317条に規定される継続会の利用ということが連絡協議会見解で触れられています。第2は、株主総会を2回開くということです。

 継続会までの期間の問題

  1. 【補足情報】
  2.   本座談会収録後、金融庁=法務省=経済産業省「継続会(会社法317条)について」(令和2年4月28日)が公表された。以下の議論にも影響がある内容であるが、座談会における発言は収録当時のままとし、【補足情報】として同指針の内容に言及する。

藤田 そこで順に検討したいのですが、継続会を利用するやり方について、実務的には安心してやれるのでしょうか。連絡協議会見解を読んで、私も初めて、ああそう言えばそんな方法もあったのかと思いました。継続会方式の場合、2回の会合全体を合わせて1つの定時株主総会と捉えるので、2回目の会合のためにあらためて招集手続をとる必要はなく、基準日を打ち直す必要もありません。また計算書類の提供義務(438条1項)は果たしたことになると見ることができそうなのもメリットかもしれません。

 他方、継続会の場合、当初の総会の同一性が認められなくてはならず、時間的・場所的近接性が要求され、2週間以内である必要があるというのが従来の通説です(岩原紳作編『会社法コンメンタール第7巻』(商事法務、2013)288頁[前田重行])。継続会だと改めて招集通知を出さなくていいとされていますので、招集通知の期間を越えるぐらいだったらもう1回招集し直せという発想で2週間という数字が出てきたのだと思います。実際には、2週間という期間は従来それほどきちんと守られているわけではなく、より長いインターバルを置いた継続会が行われているようなのですが(「定時株主総会の延会・継続会を開催した事例――平成26年7月総会~平成27年6月総会」資料商事380号(2015)43頁参照)、今回の決算監査の遅延との関係で延ばすとしたら相当長期になる可能性もあります。有価証券報告書の提出の猶予が9月末までですが、たとえばそれぐらい後に行うとすれば、従来考えられていた継続会とはイメージが違うように思われます。実務的には、このスキームでやることは大丈夫だという感触なのでしょうか。

三笘 継続会の方法については、実務レベルでも議論としてはあったのですけれども、先ほど藤田さんがお話になったとおり、従来の議論としては2週間ぐらいという目安があったので、今回、2ヵ月、3ヵ月ぐらい延びる可能性があるということを考えると、使うことに躊躇があったというのが本音のところです。今回、協議会の発表があったので、これに乗っかって継続会でやるかという選択肢も出てきたのかなと思っていますが、ただ、協議会の発表も3ヵ月延ばしてよいと明示的には書いてなく*、ちょっと微妙な書き方になっているものですから、他社の動向を見ながらかなと考えています。

  1.  * 本座談会収録後、金融庁=法務省=経済産業省「継続会(会社法317条)について」(令和2年4月28日)において、3ヵ月を超えないことが一定の目安になるとの見解が示された。

塚本 基本的には三笘さんと同じような感覚でして、継続会の開催は2週間以内という解釈が伝統的な解釈であり、また、実例としても、せいぜい1ヵ月ぐらい先に継続会を開催するものがあるというにとどまりました。一方で、今回は、新型コロナウイルスの関係で、いつであれば継続会を開催できるかもよく分からないという事情がある中、2週間や1ヵ月よりも先のタイミングで継続会を開催できるのかというのは、この声明文が出る前は、難しいということであったと思います。そのような中、あえてこの声明文が出されたわけですので、従来の解釈を超えた対応ができるということを示す目的があったのではないかとも思いまして、この声明文を踏まえ、2週間や1ヵ月以上先に継続会を開催する会社も現れるのであろうと思います。ただ、協議会見解でも具体的な期間が書かれておらず*、どのぐらいの期間が許容範囲かという点に不安が残るため、総会を2回開催するというほうが安心な面もあるかなとも感じています。

  1.  * 本座談会収録後、金融庁=法務省=経済産業省「継続会(会社法317条)について」(令和2年4月28日)において、3ヵ月を超えないことが一定の目安になるとの見解が示された。

藤田 従来の2週間という目安もあるのですが、基準日制度との関係も指摘されていますね。継続会は2回の総会を一体とみなすので、当初の総会時点での基準日株主が継続会でも議決権行使できることになります。そうなると、基準日は法律上3ヵ月しか有効期間がないのに、それより相当以前の株主が権利行使できることになる。このあたりが懸念の原因ということでしょう。

 連絡協議会見解には、「当初の株主総会の後合理的な期間内に継続会を開催する」とあります。当初の会合から1ヵ月から1ヵ月半ぐらいの期間を置いた継続会は、これまでにも結構実例があるようなのですが(「定時株主総会の延会・継続会を開催した事例――平成26年7月総会~平成27年6月総会」資料商事380号(2015)43頁参照)、ここでいう「合理的な期間」の解釈として、人との接触を極力避けることが強く求められている現在、コロナウイルスが落ち着くまでは待つのが合理的であり、たとえば3ヵ月延ばしても「合理的な期間内」だという解釈は可能でしょうか。一種の社会的な要請から、会議の同一性が認められる期間を柔軟に考えることが可能かというように言い換えてもいいかと思いますが。

飯田 この会議の同一性ということでいくと、それは緊急事態があっても、間隔が空いてしまうと同一とは言いづらいのかなという気はします。ただ、そうは言っても、会社法317条を見ても、続行すると決議したときに何か月以内にしないといけないという厳密な規定があるわけでもないので、新型コロナウイルスの事態がかなり切迫した状況下での緊急避難的な解釈として何とか許容範囲内かなという印象です。

藤田 議論の時間が足りなくなって別の日に継続するという、教科書的な継続会のイメージとは違うのは確かですが、従来の継続会の利用例の多くは、監査が間に合わなかったケースのようで、そもそも教科書的なイメージが実態とずれているのかもしれません(「定時株主総会の延会・継続会を開催した事例――平成26年7月総会~平成27年6月総会」資料商事380号(2015)43頁参照)。協議会見解が、合理的期間に関してどのぐらいの長さを想定しているのかという点まで示してくれていると、実務的にはより安心して依拠やすいのでしょうけど、個別判断とならざるを得ない点に鑑みると、一律に何ヵ月まではOK等とも書きにくかったのかもしれませんね。

  1. 【補足情報】
  2.   金融庁=法務省=経済産業省「継続会(会社法317条)について」(令和2年4月28日)では、継続会までの間の期間について、許容される期間については画一的に解する必要はないとしつつ、「その間隔が余りに長期間となることは適切ではなく、現下の状況にかんがみ、3ヵ月を超えないことが一定の目安になるものと考えられる。」と述べる。

 継続会と役員の選任

藤田 継続会を利用した場合、役員の選任時期との関係では問題は生じませんか。

三笘 前半の会議で現役員から辞任届を出してもらって、しかも選任決議をするときに、前半が終わったところで効力発生しますという形にすれば、一応6月末の段階で役員が交代するということは確保できると思います。

藤田 辞任届を出すのは、再任されない取締役で、任期が定時株主総会終結時までとなっていると、継続会終結時まで任期が終わらないのではないかという懸念への対処ですね。逆に新しく選任された人は当初の総会が終わった時点で役員になれるのでしょうか。

三笘 その決議の中で決議をした日に就任ということにしておけばよいと思っています。ただ、登記が本当にそれで通るのか、登記申請書に何をつけたらよいのか、どういう書き方をすればいいのかというのは、多分、実務的には詰めていかなければいけないと思います。

藤田 役員選任の登記申請のためには、株主総会議事録の添付が必要ですが(商業登記法46条2項)、株主総会が終結していないので議事録ができていない。株主総会の全部の議事録ではなくて、まだ終結していない株主総会の特定の決議事項についての記録だけで添付書類の要件を満たしたとして、登記させてくれるかという問題がありますよね。

三笘 ただ、理屈としては、できておかしくないと思っています。

塚本 実体法的には、総会自体は終結していなくても役員選任の決議さえ済んでいれば、その決議の時点で新たな役員が就任すると考えられます。議事録は前半の株主総会についてのみ作成することになるのでしょうが、法務局に要確認かもしれませんね。

藤田 実体法上の法律論には問題がなく、継続会の当初の会議部分だけの議事録で登記できるかというだけの問題と理解していいですかね。そうなると登記実務の柔軟な対処を期待するということでしょうか。おそらくこの点の対応はなされるのでしょうね。

三笘 そうですね。

  1. 【補足情報】
  2.   金融庁=法務省=経済産業省「継続会(会社法317条)について」(令和2年4月28日)は、「なお、任期が今期の定時株主総会の終結の時までとされている取締役及び監査役について、当初の定時株主総会の時点において改選する必要があるときは、当該時点をもってその効力を生ずる旨を明らかにすることが考えられる。」と述べる。
  3. 【補足情報】
  4.   令和2年5月1日付で更新された「商業・法人登記事務に関するQ&A」において、継続会方式の場合の役員及び会計監査人の任期についての考え方が示された(【Q2】参照)。

(4) 別個の株主総会を2回開催する

 いずれが定時株主総会なのか

藤田 継続会方式についていろいろ見てきました。前に見たとおり単純に延期することが困難な会社にとって、魅力的な面があることは確かでしょう。他方、先ほど塚本さんは、むしろ独立の株主総会を2回開催するほうが安心な面もあるのではないかとおっしゃいましたが*、この選択肢についても検討したいと思います。たとえば6月に総会を開いて配当なり、必要なら役員選任決議をする。その上で9月に再度株主総会を開催して、決算の報告その他残ったことをするというわけです。

  1.  * 同発言は、金融庁=法務省=経済産業省「継続会(会社法317条)について」(令和2年4月28日)公表前の状況を前提としてなされたものであることには留意されたい。

藤田 このように2回株主総会を開催する場合、根本的な疑問として、どちらが定時総会なのでしょう。最初のほうが定時総会だという前提で書かれている文献もあるのですが(渡辺邦広「実務問答会社法第17回 取締役の任期と「定時株主総会」の意義」商事2152号(2017)41頁)、そうなのでしょうか。

 まず確認ですが、定款に総会の時期が仮に規定されていても、先ほど見た法務省の見解を前提にすれば、それは拘束力がないので、6月の総会でも9月の総会でも定時総会と扱うことができるということになります。

 その上で、定時総会に法的効果を持たされている局面はいくつかあります。まず計算書類の提供義務等(437条、438条、439条、444条6項)、計算書類の公告時期(440条)、備置閲覧期間(442条)、会計監査人の意見陳述(398条)です。剰余金の分配に関する期末の欠損に関する責任が定時総会の配当には適用されません(465条1項10号イ)。また役員の任期との関係で、定時総会終結時に役員の任期が終わるとされています(332条1項、336条1項、402条7項)。

 第1回の会議を定時株主総会と扱う場合の問題:計算書類の提出との関係

藤田 6月に開催した会議を定時総会と扱う大きなメリットは定款所定の3月末日の基準日をそのまま使えるということですが、問題はその場合、9月の会議に計算書類を提出しても定時総会に計算書類を提出したことにならないので違法が生じることです。

飯田 6月を定時株主総会とすると、結局、その時点で計算書類を提供できないから、それでも437条違反が6月の時点でもあるということですよね。

藤田 そうです。

飯田 だから、たくさんのところで違法ではないかという問題が起きる。

藤田 計算書類の提供がないことで、たとえば6月総会で行われた役員選任決議とか、あるいは配当決議に影響が出るのでしょうか。

飯田 配当の決議に瑕疵があるかということですよね。

藤田 はい。定時総会なのに計算書類を提出しないことが条文に反することは否定できないので、もしこれが決議に影響があるとすれば、裁量棄却もできなくなる可能性があります。裁量棄却は、「違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるとき」(831条2項[下線は藤田による])ですから、違反が重要でないと言えても、それだけでは足りないのですね。

飯田 そうですね。配当の剰余金の計算はその前の事業年度でやるから、因果関係はないと言えるかどうかというところですよね。

藤田 役員選任についても、事業報告を見ないで役員の評価はできませんよと株主から言われれば、そんなことはありませんとは言い切れないのが気持ち悪いところです。そうなると、当該会社の経営状況、財政状態、株主構成等にもよりますが、配当議案、役員選任議案への影響がないとは限らず、決議取消リスクもあるようにも思えるため、その点だけ見れば、9月の総会を定時総会と扱ったほうが安全な気もします。このあたりは実務的にはどういう感触なのですか。

三笘 なぜ会社法に定時株主総会という言葉についての定義がないのかはよくわからないのですけれども、会社法の条文の書きぶりとしては、6月と9月に2回やるのなら、9月総会のほうを定時株主総会と呼ぶのが素直なような気はしますが、実務的な感覚からいくと、6月総会のほうを定時株主総会と言ってもらわないと、いろんな意味で面倒なことが起こってしまいます。

 まず1つは、先ほど藤田さんもおっしゃっていましたけれども、定款に3月末の基準日というのが書いてあって、それは定時株主総会を開催するためのものと書いてあるのですけれども、もし6月総会のほうが定時株主総会ではないということになると基準日を打ち直さないといけないはずですが、すでに4月に入ってしまっているので、もはや3月末の基準日にはできない。別にそれはそれでいいじゃないかという割り切りもあり得るのですけれども、ただ、わざわざいつもの定時株主総会と同じ時期に開催をして、計算書類の報告だけが後ろにずれているけれども、それ以外はいつもと同じ決議事項が取り扱われる株主総会が、定時株主総会とも呼ばれないし、議決権の基準日も3月末ではないというのは実務的には非常に変な感じがします。

 飯田さんがおっしゃったように違法の問題というのはあるのですけれども、そこは、そもそも法務省も2回やるのではなく、定時を7月とか8月に1回やるのであっても、字面上は定款違反になるけれども、問題ないということをおっしゃっているので、それとのバランスからいくと、計算書類の報告が9月に回ったとしても、違法の程度は同じなのではないかと議論したいなと思うのですが、残念なことに法務省の説明では、2回開催するパターンについてカバーされてないので、これからでも遅くないのでカバーしてもらえるとありがたいと思っています。

藤田 法務省の言っているのは、延期してもいいということですね。この場合、後にずらした総会しかやらないとすれば、それが定時総会であることは異論の余地がなく、かつ定款との関係では、異常事態の下ではもともとの定時総会の期日の規定は適用がないという前提なので、基準日も当然打ち直すことになる。そうすると、形式的にも違法な状態は生じてない。6月が定時総会であると言いながら、そこには計算書類を提出しないという処理とはちょっとギャップがあるような気がしますが。

三笘 ただ、少なくとも定款違反はやってもよい――やってもよいというのは語弊がありますけれども。

藤田 法務省の見解は、定時総会の期日やそのための基準日についての定款の規定に関して、一種の合理的限定解釈をしているだけだから、9月に定時総会を開催しても定款違反はないという前提でしょうね。

三笘 会社法296条1項の「定時株主総会は毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない」の「一定」も、そこは幅を見てということでしょうか。

藤田 それも非常事態があったときまで、その時期に開催することを要求する趣旨ではないというのが法務省の解釈ですよね。そう考えると、法務省の見解のように、定款を柔軟に解釈できるということを前提とすれば、9月の総会を定時総会と扱うことには法的には問題がなくなる。そうなると、9月の総会を定時株主総会と見るほうが法的には安全に見えるのだけれども、それが実務の感覚とは大きく異なることはわかりました。

三笘 この6月総会についての基準日問題は、本当に早く確定しないと大変困る事態になるのだと思います。実務家としては、できれば6月総会が定時株主総会ですという解釈でいきたいと思いますし、先例としても、2015年に東芝が会計不祥事の関係で、6月総会の段階で計算書類が整わなかったので計算書類の報告は9月の総会でなされたのですけれども、6月総会のほうを定時株主総会と呼び、9月総会のほうを臨時株主総会と呼んでいました。その取扱いでよかったのかどうかというのは議論があるかもしれませんけれども、一応先例はあるといえます。

藤田 東芝の2つの株主総会をどうみるかについては、研究者の中でも見解が分かれていた気がします(弥永真生「東芝の『臨時株主総会』」ビジネス法務18巻1号(2017)48頁参照)。

飯田 そうですね。会社が定時株主総会ですと呼べば、その総会が会社法上の定時株主総会に当然にあたるわけではないのではないか、また、計算書類の承認・報告をする総会が定時総会だとすると、9月が会社法上の定時総会だったのではないかという疑問はあります。

 ところで、三笘さんの3月末の基準日のお話なんですけれども、これも定款の合理的解釈で解決できる気もします。つまり、定時総会の基準日は3月末と書いてあるけれども、こういう緊急事態なので、それは6月に開催する法的には臨時総会かもしれない総会の基準日ですと読み替えるのも、定款の文言の大胆な合理的な解釈を認める法務省の論理からいけば認めてもらえるような気が私はしています。

藤田 まあ理屈の上ではいろいろ議論が可能かもしれませんが、9月の会合を定時総会とすることに対する、実務的な抵抗感はよくわかります。延期の場合であれば、1回しか開催しない以上、例年と違う時期に開催しても、それを定時株主総会と扱わざるを得ないのですが、わざわざ6月という例年と同じ時期に株主総会を開催しておきながら、それは「臨時」総会で、それと違う時期に開催するものが「定時」総会であると呼ぶのが不自然だというのは確かでしょう。「定時」という日本語の語感からくる抵抗感に過ぎないのかもしれませんが。

 第2回の会議を定時株主総会と扱う場合の問題:期末の欠損責任

藤田 基準日の問題以外に、配当決議をした6月の総会が定時株主総会ではないとすると場合、配当決議をすれば期末の欠損責任が生じる可能性があります。いささか複雑なのですが、剰余金の分配を行った場合、前期末の貸借対照表を前提とした分配可能額を守らなくてはなりませんが、同時に分配を行った期末に欠損――分配可能額がマイナスとなる状況――となった場合には、超過額について業務執行者に責任が課されるのが原則です(465条1項)。ただし定時株主総会で剰余金の配当が決定される場合には、期末の欠損にかかる責任は生じないとされています(465条1項10号イ)。そこで、6月の総会で配当を決議したにもかかわらず、これが定時株主総会ではなく、9月のほうが定時株主総会だということになると、その配当について465条1項に基づく欠損填補責任が発生することになります。これは会社としては相当深刻な問題なのでしょうか。この責任は過失責任なので(465条1項ただし書)、期末に赤字になるおそれのあるような配当をしないように注意を尽くせば責任はないのですが、期末の欠損責任の免除がないことは、実務的には深刻な問題なのでしょうか。

塚本 実務的には、2回総会を開催する場合において、1回目の6月の総会で配当を決議したときに、期末の欠損填補責任が生じないという解釈があったほうが有り難いということにはなると思います。また、仮に欠損填補責任を負うとした場合も、6月の総会で配当を決議して9月の総会で決算の報告や承認をしたときに、いつの時点の計算書類に基づいて欠損の有無が判定されるのかが、条文の文言的には、9月の総会で報告される計算書類が承認を受けた時点で判定されるというのが素直な解釈、読み方であるとは思いますが、ほかにも解釈があり得るとか、解釈上の問題が惹起されかねないとしますと、会社の担当者としては困るということのようです。

藤田 2020年6月に配当を決める場合、通常のケースなら、その直前の3月31日の貸借対照表に基づいて事前の財源規制がかぶって、その次の年の3月31日が期末の欠損填補責任としてかぶることになります。ただ今回は、2020年3月期の計算書類はまだ未確定な段階で配当が決定されるので条文の適用が厄介ですね。

塚本 会社法465条1項括弧書との関係で、直前事業年度が最終事業年度ではないと、当該直前事業年度の計算書類が承認された時点で欠損があるかどうかを判定するということになっていまして、そこの読み方にかかってくるということかと思います。

藤田 決算が確定する前に配当決議をすることはあまり想定してないがゆえに、わかりにくいのでしょうね。

塚本 そうですね。

藤田 9月総会を定時総会とするなら、配当との関係で期末の欠損の責任も気になる。これ対して、6月総会が定時総会と扱うと計算書類の未提出という明白な違法は生じるのですが、その違法は実務的には乗り越えられるという感覚でしょうか。

塚本 すでに乗り越えていると理解しています。

  1. 【補足情報】
  2.   本座談会収録後に公表された、金融庁=法務省=経済産業省「継続会(会社法317条)について」(令和2年4月28日)では、剰余金の配当の財源規制について次のように述べる(なおこの指針が対象とするのは継続会であるが、下記の点に関しては、株主総会を2回開催する場合の第1回において配当を決議する場合も同様と思われる)。
    1. 剰余金の配当
    2.    当初の定時株主総会において剰余金の配当決議を行う場合、当該行為の効力発生日が2020年3月期の計算書類の確定前である限り、最終事業年度(2条24号)である2019年3月期の確定した計算書類に基づいて算出された分配可能額の範囲内において行うことができる(461条)。
    3.    この場合において、2020年3月期の計算書類の確定はなされていないものの、決算数値から予想される分配可能額にも配意することが有益であると考えられる。
  3. 【補足情報】
  4.   なお令和2年5月1日付で更新された「商業・法人登記事務に関するQ&A」において、株主総会を2回開催する場合の役員及び会計監査人の任期についての考え方が示されている(【Q3】参照)。

 計算書類が出ていない段階で決議をすることへの是非

藤田 先ほども単純な延期のところで申し上げたことですが、計算書類が出ていないのに配当を決めたり、役員の選任をしたりするということに対しては、投資家、とりわけ機関投資家はいい顔をしないのではないかという気もするのですが、杞憂ですかね。

三笘 いや、そこはあまり気にならないですね……。配当のところについては、そもそも四半期配当をやっているような会社もあるわけですし、期中で自社株買いを取締役会決議でやるような会社もあるわけで、決算が締まってないから配当できないという考え方はもはやあまりないのではないかと思います。役員のところは多少関連があるかもしれませんけれども、そんなに密接に関連のある議案ではないと思っています。

藤田 監査は完了していないが、その前のデータは内部的にあるはずですよね。それをあくまで仮のものですと言って、参考資料として示して決議をもらうということは考えられますか。

三笘 仮のものを参考資料として示して決議をもらうということはしないと思います。上場企業の場合、第3・四半期までは決算短信で出しているので、それを見て、残りの第1・四半期だけはちょっとまだですという位置づけで勘弁してもらうという見方はできるかもしれません。

藤田 法律論としては、定時総会への計算書類の提出されなかった違法は、結論としては配当決議には影響なかったという理屈につながるのでしょうね。なお先ほど少し話が出ましたが、この配当の財源規制については、2019年3月期の確定した決算に基づいて算出した分配可能額が基準となるのであれば、計算書類が出ていないとしても、分配可能額も確かめずに配当を決めたということにはなりません。財源規制とは別に、配当政策の妥当性を判断する資料が十分だったのかといったことは問題になるでしょうが。

飯田 配当との関係であっても、監査の遅れに起因するので、違反する事実は重大でないというほうの要件は満たすと思います。決議に影響を及ぼさないかどうかは、解釈次第かなというところです。

藤田 コロナ感染リスクの云々というのは、決議の取消の解釈では取り込めないですかね。

飯田 それは取り込めると思います。

藤田 どういう理屈で取り込まれるのですか。やむを得ず遅れたのだから違法性の重大性がないという方はともかく、決議への影響についてははどうですかね。

飯田 そうですね。上場会社を念頭に置けば、最後の四半期分が欠けていることでどこまで株主の判断に影響を与えるかという意味で言うと、因果関係は緩やかなものに過ぎないので、緊急性があることも考慮して、決議に影響がなかったと評価する余地はあるかなという気はします。

藤田 結局、決議に影響がなかったかは、最終的な計算書類の内容を勘案して個別判断ということでしょうか。たとえば最終四半期に会社の財務に非常に大きな影響を与える出来事があったのに、その点を知らせないで決議すると、さすがに影響がないとは言いにくい。他方、そういった事情がでないなら、決議への影響も否定できる可能性がある。先ほど仮の決算データでも示せないかと伺ったのは、そういうデータが示されていて、それが最終的に提出された計算書類の数字と違っていなければ、決議への影響はなかったとかなり強く言えそうだからなのですけどね。

飯田 以上の話は、継続会方式でやる際に、当初の総会で配当決議や役員選任決議したときにも、同じでしょうか。連絡協議会見解の継続会方式の前提には、6月の時点で計算書類等を提供できなかったけれども、9月の時点で提供すれば違法性が治癒するということは会議の同一性があるという建前の継続会のほうが言いやすいという考えがあるのかもしれません。

藤田 確かに継続会方式だと、計算書類の提出義務(438条1項)は果たしていることになるのでしょうね。ただ継続会の場合であっても、計算書類を見せない状態で決議したという実質は同じだから、決議に影響がなかったかという点は、継続会でもあまり変わらないような気もします。2回開催するケースで決議に影響はないと言えるのであれば、継続会方式の場合でもOKだとは言えそうですが。

飯田 そこはそうですね。

藤田 さて、6月あるいは9月の会合を定時総会扱いした場合の帰結として、どんな問題があるかということは一応確認できたと思います。

  1. 【補足情報】
  2.   なお本座談会収録後に公表された、金融庁=法務省=経済産業省「継続会(会社法317条)について」(令和2年4月28日)は、「そもそも取締役及び監査役の選解任は、株主総会の権限(329条1項、339条1項)であることは言を俟たないところ、当初の定時株主総会における円滑な意思決定を確保するためには、確定した計算書類は提供されていないものの、既に公表した四半期報告等を活用して、この一年間の事業の概況、新任の経営者に求められる役割等について丁寧な説明を行うことが求められると考えられる。」と述べる。
  3.   また同指針は、「機関投資家(株主)は、下記(「第1 趣旨」)に記載のとおり、企業が従業員等の健康や安全を最優先に考えた結果、継続会をはじめ例年とは異なる株主総会運営を行う場合には、形式的・機械的な基準によるのではなく、その実質・趣旨に着目した対応を行うことが強く期待される。」と述べるが、これは上記の点について機関投資家等の理解を求めようとする趣旨も含むのであろうか。

 株主総会を2回開催することの費用

藤田 三笘さんや塚本さんの感覚は、2つの会合の間隔についてどこまでが許容範囲かに不安が残る継続会よりは2回開催でやったほうが、法的には手堅い*ということでしょうか。

  1.  * 以下の質疑は、金融庁=法務省=経済産業省「継続会(会社法317条)について」(令和2年4月28日)の公表前の状況を前提に行われていることに留意されたい。

塚本 基本的にそのように理解していますが、実務的に1つネックとなり得るのが、総会を2回開催する場合、2回目の9月の総会については、基準日を設定する必要がありますが、株主名簿の確定には、株主数によっては、結構な金額の手数料がかかるという点です。新型コロナウイルスの影響で業績がかなり落ち込んでいるときに、総会をわざわざ2回開催して、お金が余計にかかるといったことは、実務的には避けたいという事情のある会社もあるようです。それだけが理由となっているわけではないかもしれませんが、そういった事情もあって、継続会が好まれるというのもあるかもしれません。

藤田 費用の問題は確かにあります。

三笘 ただ、継続会にしても、結局、計算書類を送らなければならないのでコストがゼロになるわけではないのです。会場もまた確保しないといけませんから、どちらにしてもお金がかかる話になります。何らかの追加費用が出てくるのは仕方がないと思います。

藤田 継続会方式か2回開催するについてかは、基準日を打ち直し、総株主通知をして、改めて招集することの追加的費用をどれだけ深刻なものと考えるかという点も加えた経営判断ということになるのでしょう。

 

4 むすび

藤田 その他、どの点でもご意見ありますか。もしなければ、今日の議論を受けた感想を一言ずついただけますでしょうか。三笘さん、塚本さん、飯田さんの順にお願いします。

三笘 最初のほうにもお話ししたのですけれども、従前、株主総会って、こうやるものだと前例踏襲方式でずっとやっていたことが、今回、イレギュラーなことが起こったために、何をやらなくてはいけなくて、何はやらなくてもよいのかという仕分けをしなければならなくなったということで、それはある意味よい機会だと思っています。そのため、今回の総会をどう乗り越えるかというのは、もちろん実務家としては大きな関心事なので、まず、それをやらなければならないのですけれども、この後も引き続き、今後の株主総会の在り方って、どうあるべきなのかということは継続して議論ができればよいなと思っています。

塚本 まさに今、三笘さんがおっしゃったとおりであると思いますし、本日のこの座談会で、特に人数制限や時間短縮のあたりについては実務としてもこれまでかなり慎重に扱っていたところですので、Q&Aの読み方を含め、扱いが大分明確になった部分が多くあるかと思いまして、私としても非常に勉強になりました。実務としても、6月総会を迎えるに当たって非常に参考になるお話がお伺いできたかと思います。どうもありがとうございました。

飯田 新型コロナウイルスの影響という、今までの常識が通用しないような事態が発生したことで、株主総会について今まであまり考えてこなかったような問題が登場し、株主総会のあり方についての根本的な考え方を反省するきっかけに、私にはなりました。今日はどうもありがとうございました。

藤田 私もいろいろ勉強させていただいたのですが、三笘さんがおっしゃったように、今までの総会実務というのが、とにかく安全で絶対間違いないというレベルで、それを毎年踏襲するというやり方をとっており、違法となるか否かというレベルから見ると相当「上乗せ」がある世界でやってきた。今回のように、非常に強いニーズを前に、どこまでが法的には必須ではない上乗せで、どこからが本当の意味で遵守しないとまずいことなのかが問われることになった。これまで明確に突き詰められてこなかったし、そんなことを突き詰めるよりは、とにかく安全目にしてすることを繰り返してきた中で、今回、改めて限界線を検討する機会になったとすれば、その限りでは将来に向けた前向きな進展なのかもしれません。本日の座談会が、そういった点を少しでも明るみに出すことができ、今後の株主総会運営の参考としていただける議論があったとすれば大変よかったと思います。 

 本日は長時間どうもありがとうございました。

以 上

[2020年5月1日脱稿]

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