第20回弁護士業務改革シンポジウム 第1分科会
企業経営とジェネラル・カウンセルの役割
「ジェネラル・カウンセルとは何か─米国での経験─」
2017年9月9日
日清食品ホールディングス
ジェネラルカウンセル 本 間 正 浩
【河井】 ありがとうございます。
それでは、基調報告「ジェネラル・カウンセルとは何か―米国での経験―」を、東京弁護士会の本間正浩弁護士から行います。
【本間】 本間でございます。東京弁護士会に所属しておりまして、司法修習は41期になります。私に与えられたテーマは「ジェネラル・カウンセルとは何か」ということで、私のほうでは概論の話をして、その後、それから続く2つの基調報告、それからパネルディスカッションで具体的にジェネラル・カウンセルとはどんなものかといったことを生々しく感じていただくという形で進めたいと思っております。
私が書いた論稿が皆さんに配布されていますので、なるべく重ならないような形で説明をしたいと思います。
ジェネラル・カウンセルとは何かということなのですけれども、これは米国で歴史的に成立し、発展してきたものです。論理が先行して作られたものではないので、なかなかこういうものだと言いにくいところはあるのですけれども、一口で言うと、企業における法務の最高責任者であり、かつ役員である弁護士ということになります。
資料をひもとくと、大体、米国で南北戦争が終わったときぐらいから、大きな鉄道会社等々がそういうものを採用し始めたということが記録としてありますので、150年くらいの歴史を持った制度であります。
今、申し上げたファクターをもう少し分析すると、法務の統括責任者ではあるが、ただし単なる「法務部長」ではない。それから、経験を積んだプロフェッショナルである弁護士である。ただし、「顧問弁護士」ではない。時々、日本の新聞で米国等々の報道において企業の「法律顧問」という言葉を使っている場合がありますけれども、ほとんどの場合、ジェネラル・カウンセルを指しています。ですから、法律顧問といっても外部弁護士ではなくて、その企業の法務のトップというふうにご理解をいただければと思います。それから重要なのは、会社役員であって経営陣の一員であるということでございます。これも少し敷衍したいと思います。
まず、法務の総括責任者であるということで、法務部門を率いて会社の法務機能の管理・運営を行う。これは一方でリスクを減らすということでもありますし、あるいは法務的に利益を拡大させるための機会を発展させる、いろいろな法務的な方法をもって企業事業をうまくやれるようにする、という役目があるわけでございますけれども、こういうことをするための仕組みを作って管理する。そういう意味では管理者、マネジャーでございまして、法律解釈だけが仕事ではないということです。法務部内部ではスタッフの採用、能力開発、キャリア、それから法律事務所の管理――これは後で戻ってくる時間があると思いますが――、これらを運営するための仕組み、書籍を買ったり、コンピュータ・システムを入れたりといったことを考えなければいけない。なかんずく頭が痛いのは、いわゆる人と金であります。どういう人間を法務部に迎え入れ、どういうふうにこれを育てていくのか、辞められないためにはどうすればいいのか。もう一つはお金で、常に予算というのは限りがありますので、限られた予算をどう使うのかということでございます。そう言ってしまうとほとんど弁護士の仕事ではないということになってしまうかもしれませんが、そういう仕事です。
それから、一方でプロフェッショナルである弁護士だということは常識であります。アメリカでは、ほとんどの場合、法律事務所での相当期間の経験を有して、大企業であればパートナークラスから横滑りするか、あるいはパートナークラスから次席のポジションに中途採用されて、そこからジェネラル・カウンセルに上がるというのが普通であります。少なくとも私の知る限り、アメリカの大企業で法律事務所の経験がないジェネラル・カウンセルというのはほとんどいません。加えて、元裁判官とか元検察官、行政機関の経験を積んだ人間も珍しくない。行政機関といっても現場の下級官僚ではなくて、かなりのポジション、局長とかそういうポジションにいた人がジェネラル・カウンセルになるというのは珍しくないということで、法律家としても非常にシニアな人々であります。
それから、もう一つ、これが肝で、パネルディスカッションでちょっと強調したいと思っているところでございますが、弁護士でございますので、弁護士としての行動規範あるいは倫理の拘束のもとにあるということで、法務の統括者であり、かつプロフェッショナルである弁護士であるということであります。
ただ、これらがジェネラル・カウンセルかというと、実はそこが本質でもございませんで、やっぱりカギとなるのは会社役員であり経営陣の一員であるということであるというふうに思っております。私の論考に統計データをつけておりますが、2016年、ACC(Association of Corporate Counsel)、これは世界で2万5,000人の会員を有している世界最大の企業内弁護士の団体で、その調査で、ジェネラル・カウンセルに「あなたの上司は誰ですか」と聞いて、73%がCEOと答えて、22%が取締役会だと答えている。そのほか十数パーセントがCOOと答えています。要するに、ほとんどの場合、企業トップの直属の部下です。
もう一つ、若干古いのですが、高柳先生がACCの2001年の調査結果ということで引用されているものでございますが、ちょっとACCの元データを手に入れてないのですけれども、これは企業のCEOに対する調査で、あなたのところのジェネラル・カウンセルはどのぐらい偉いんですかというふうに聞いたデータでございますが。これによると、91%のCEOが自社のジェネラル・カウンセルの社内序列はトップ10位以内と答えています。さらに、99%、つまり事実上すべてのCEOが、トップ20位以内だと。過半数を超えるCEOがトップ5位以内。実にトップ3位以内と答えたCEOが19%ということでございまして、単なる役員ではない、経営の最高幹部の一人であるというのが、アメリカの企業においては常識というか、普通のことになっているわけであります。多分、かなり衝撃的なデータだろうと思います。
それから、マトリクス(matrix)と書いてありますのは、これは多国籍企業の現地の子会社の組織のつくり方なのですけれども、例えばアメリカの企業A社とその子会社である日本法人X社というのがあるとします。子会社では大体本社と同じような組織をつくるわけでございまして、X社の社長というのがいます。そこの社員として、ローカル・ジェネラル・カウンセルといったり、カントリー・ジェネラル・カウンセルといったりしますが、法務のトップがいます。その法務のトップというのは、当然のことながらX社の社長の部下であります。マトリクスというのはどういうものかというと、その法務のトップというのは社長に対する指揮系統とは別に本社のジェネラル・カウンセル、あるいは法務部に対して指揮系統をつないでいるということです。つまり上司が2人いるのですね。なぜそうなっているかというと、要するに相互牽制ということなのですけれども、やや極端な言い方をすると、各国の子会社のジェネラル・カウンセルは自分の社長を親会社のために監視する立場だというような地位になっているというのが非常に普通のことであります。
では、それでどうかということなのですが、よく言われることは、まずジェネラル・カウンセルがノーと言う場合に、CEOがこれを無視して事を行うときには、「相当の覚悟と勇気」が必要になる。社内規則として拒否権があるかというと、必ずそうだとは言えないのでしょうけれども、それだけの権威を持っておりますので、ほとんど拒否権に近いものを持っていると。無視して行うことは不可能ではないと思いますが、後で問題になったときに、例えば代表訴訟で非常に不利な状況になるとか、社外取締役から辞任を迫られるとか、そういうことであります。私自身も、今は日系企業ですが、外資系企業に約9年勤めておりましたけれども、ジェネラル・カウンセルがノーと言うと本当に止まってしまいます。本当にビジネスが止まります。それだけ権威がある。一方で、権威があるということは、止めることができるということは、止めたことについて責任を負わなければいけないということであります。アドバイザーではないわけですね。経営陣の一員ですから、決めるところまで、その結果について責任を負わなければいけないというのがジェネラル・カウンセルの重いところでございます。企業経営の一員を担っておりますので、法律はこうなっているというだけでは足りませんで、では、企業とはどうあるべきかということまで考えなければなりません。それから、事を実現するように行動しなければならない。すべて結果で判断されるということであります。
あるとき、私が前に勤めていた企業の社長が私に言ったことがあります。自分が間違えたことをしようとしている場合には必ず止めろと。羽交い締めにしてでも俺を止めろと。ただし、それでも俺はやっちゃうかもしれない。やっちゃった結果、失敗して大きな問題が発生するかもしれない。そのときには、もちろん俺はクビだと。ただし、止められなかったということにおいておまえも同罪だ、ということを言われたことがあります。もちろん半分冗談ですけれども、半分は本気です。企業経営というのはそういうものです。止められなかったら、止められなかったことが責任なのです。そういうものを負わされている。一方で権威も重いということでございます。
ジェネラル・カウンセルは、では具体的にどういうことをしているのかということなのですが、非常に幅広い役割。この辺は一つ一つやっているととても時間がありませんので、私の論考を読んでいただくとして、皆さんが関心を持つのではないのかなというところを、ちょっと落ち穂拾い的にご説明をしていきたいと思います。
まず、「リーガル・アドバイザー」の役割。これは「伝統的な法律業務」と言っていますけれども、要するにこれは普通に法律を解釈して、法律上の結論を出していくということでございます。ただ、これと、その前にご説明した経営の責任を負っているとご説明したこととの関係でコメントをしたいと思います。それは、先ほど申し上げましたように、結果を出さなければいけないと。法律はこうですよ、あとは社長がお決めになることですという態度をとることが我々はできません。というのは後ろに決める人がいないのです。自分で決めなければいけない。最終的に会社は法務的に何か間違ったことをしない、させないという結果を出さないといけない。あるいは、いろいろな法務的な技法を駆使して、会社が事業をうまくするように働きかけないといけないということでございます。
もう少し具体的に入っていきますと、「入口」と「出口」という言葉を使うのですが、まず、「入口」から申し上げますと、我々はジェネラル・カウンセル、法務の統括責任者として、企業の中を知っている責任があります。法律事務所では必ず依頼者からの照会があって、資料等々も最終的には依頼者から提出された証拠に基づいて判断することが許されるわけであります。ああいうのを出してこい、こういうのを出してこいということはもちろん言いますけれども、最終的に依頼者が、出さなかった、あるいは出せなかったということになった場合、その法律事務所が責任を問われるわけではありません。ジェネラル・カウンセルはそこで責任を問われるのです。なぜ見つけられなかったのか、ということが我々の責任であります。そのかわり権限を持っておりまして、こういうものを出してこいと言ったときには業務命令を出せますので、こういう資料があるはずだから持ってこい、話を聞かせろ、ということを言う権限もあります。
「出口」ということになりますと、法的にはこうですよ、以上終わり、では許されない。会社としてはこうするべきです、これをするべきではないと。先ほどの冗談の例ですけれども、それを実現するところまで持っていかなければいけない。したがって、最終的なジェネラル・カウンセルの出す意見というかコメントは、留保をつけることはできません。条件をつけることもできません。ある条件が整ったらこうなりますという言い方をするときはありますけれども、次に問われるのは、ではその条件は整っているのかどうか判断しろということになる。それから、いろいろな形でリスクというものが伴います。現実の世の中、法的リスクのないビジネス活動はほとんどないわけでありまして、考えられる選択肢のすべてに常に何らかの形で法的リスクがある。あるいはオペレーショナル・リスクがある、財務リスクがある、という形で何らかのリスクが伴う場合があります。
時々、極端な例として出すのですが、銀行のシステムが故障しましたと。そうすると貸金の利息計算ができませんと。その結果として誤請求の山を築くことになります、どうしたらよいでしょうか、ということを聞かれた場合に、法律的には120%明確な結論があります。それは我々は利息を正確に計算してお客様に正確な金額を請求する義務があるのであるから、必ず正確に計算をして請求しなければいけないと。法務的には120%正しい答えです。でも、そんなことが現実にできるわけがない。例えば、そろばんをはじくのか、電卓をたたくのか、エクセルを回すのか、それでもやれということは法律的には絶対に正しいです。しかしながら、そんなことが機能するわけがない。エクセルを回す、電卓をたたくなんていうことを始めたら、そんなのミスが続出するに決まっているわけで、法律的には正しいけれども、オペレーション的には巨大なリスクを生んでしまうということが起きるわけであります。
何らかのリスクがありますというときに、よくある客観的な回答としては、Aにはこういうリスクがあります、Bにはこういうリスクがあります、あとは依頼者が決めることですというコメントを法律事務所からいただくことがよくありますけれども、我々はそれでは務まりません。ではどのリスクを取りましょうかと。このリスクを取ります、取らざるを得ませんというところまで持っていかなければいけないということです。
それから、結論を出していかなければいけないということとの関係で、コンプライアンスというのを「準法律的な役割」というカテゴリーの中に入れております。これはもしかすると弁護士の先生方には若干違和感があるのではないかと思うわけであります。すなわち、巷間、弁護士はコンプライアンスの専門家であると言う方がおられます。そういう言い方を弁護士さんなんかもすることがあります。それで何で「準」なのかということなのですけれども、法令遵守ということで法務的なことであるというのは間違いないのですが、企業におけるコンプライアンスというのは、先ほどと絡みますが、法令が遵守されている「結果」を出していくということであります。つまり、単に法律はこうですよ、こういうことをしなければいけませんよとアドバイスをするだけでは足りません。現実に法令遵守が実現できる状態をつくっていく。そのためにはいろいろな手練手管がいろいろとあるわけです。ルールをつくるというのもそうでしょうし、最近流行りの内部告発システムをつくるというのもそうでしょうし、トレーニングをするというのもそうでしょうし、それからいろいろな形でモニタリングのメカニズムを作っていく。では、どうやってコンプライアンスが守られているのかどうかをチェックしていくのか。例えば定期的にこういうことについては報告を上げるとか、そういうメカニズムを一つ一つ作っていく。つまり、組織を動かしていくというのがコンプライアンスの役割ということになっていくわけでございまして、失礼ながら、法律事務所で業務をされていて、数千人、数万人という巨大な組織を動かしたことのない方々が、法律の専門家であるというだけで、法律を知っているというだけでコンプライアンスの専門家になるというのはあり得ないということだろうと思っております。そのように、普通のいわゆる法律家、法律専門家とはかなり違った役割を要求されているということでございます。
コーポレート・ガバナンスもしかりです。企業におけるコーポレート・ガバナンスというのは、もちろん例えば会社法であるとか金商法であるとか、証券取引所の規則であるとか、ガイドラインであるとか、コーポレート・ガバナンス・コードであるとか、そういう規定を解釈して、これはこういうところで決めないといけません、これは取締役の決議が必要です、それをするのはもちろんなのですけれども、ご存じのとおり、会社法あるいは金商法では、当然のことですけれども、抽象的にしか書いていません。重要な取引であるとか、重要事実であるとか、株価に影響をもたらす事実であるとか、それしか書いてありません。ところが、現実にはそれをこの企業の特有の状況に当てはめて、企業もそうでしょうし、職種もそうでしょうし、いろいろな問題が企業ごとに違うわけですけれども、それに当てはめて結論を出していかなければいけない。そういう意味では、単なる法解釈ではなくて、一種の法創造の役割を行っている、これが企業内でいうコーポレート・ガバナンスであるということです。これについても当然のことですが、単に法律はこうなっているではなくて、組織を作っていく、組織をどうやって動かしていくのか、ルールをつくるのはいいですけど、ルールをどうやって実現していくのかといった考慮が必要になっていくわけであります。
それから、こういうことをお話ししていくと、ジェネラル・カウンセルは弁護士ではないのではないかというご意見もあるかもしれませんけれども、やはりどういうふうに法創造していくというのはまさに法律家の役割でございまして、申し上げたいのは、単に法律事務所における仕事の延長線ではないということを申し上げたいということでございます。
それから、「マネジメント及び非法務的役割」ということで、法務部門の管理運営というところは申し上げました。それから、外部弁護士の管理。この辺はジェネラル・カウンセルがジェネラル・カウンセルたるゆえんでございます。ジェネラル・カウンセル自身が経験のある法律家でございますので、論考にも書きましたけれども、どの事務所を選定して、どういうふうな仕事をしていただくか、あるいはどういう意見を取得するかということについてのコントロールをするというのがジェネラル・カウンセルのお仕事になっていくというわけであります。ある論文からの引用ですけれども、「ジェネラル・カウンセルは実務法曹である。単にロースクールを卒業した者ではない。みずからプロフェッショナルとしての能力を有しており、外部弁護士が注力していたまさにその分野について同様の検討を行う。かくして戦略的な意思決定の場面、時には戦術面においてみずから判断を行う」ということです。米国で現実に起きている状況として、法律事務所はむしろジェネラル・カウンセルの職責を執行する機関の一翼であるという位置づけを強く持つことになっていくのが現実であります。
ただ、こう申し上げると、どの国でも誤解があるのですけれども、企業内弁護士が増えると、あるいはジェネラル・カウンセルというような強い法曹が入ってくると、外の先生の仕事が減るのではないか、仕事を奪われるのではないかと誤解をされる方が非常に多うございます。これは今日の議題からは若干脱線するのですが、そんなことは全くございませんで、体験的な事実で申し上げると、企業内弁護士が増えれば増えるほど、特にシニアの弁護士が増えれば増えるほど、外の先生方に対する仕事は増えるというのが実感であります。なぜか。先ほど申し上げましたように、我々は社内の事情をきちんと把握して、問題点を見つけるという責任を負っているからであります。これは現実にアメリカで調査がございまして、法務部の規模と外に出している報酬というのを調査したものがございまして、どういうことかというと、法務部の規模が大きくなればなるほど――アメリカの場合は法務部の基幹要員の全員が弁護士ですから――企業内弁護士が増えれば増えるほど、企業内弁護士1人当たりの法律事務所に払っている報酬というのが増えているというデータがあるのです。そういうことですので、これはウイン・ウインでございまして、決して企業内弁護士が増えれば外の先生の仕事が減るということにはなりません。
ただし、我々は専門家でございますので、専門家としての基準で評価をさせていただきます。例えば社長とゴルフ仲間であるとかロータリークラブのメンバーであるとかそういうことではなくて、弁護士としての能力、法律家としての能力を、我々は同一レベルで専門家として判断するということが可能でありますし、また、それをしなければいけない立場でございまして、それはそのようにさせていただきます。そういうことでございます。
ただ、それは逆に言うと、むしろ先生方、特に若い、あるいは中堅の先生方にとっておそらくチャンスだろうと思うのですね。というのは、我々が責任を持って弁護士の能力を判断できますので、この人は若いけれども仕事ができると、そういう判断ができるわけです。専門家ではない法務部員が、自分で弁護士の能力の判断ができませんので、無難なところで大きな事務所に頼みましたとか言う必要はないわけです。自分の責任と権限において弁護士の能力で判断をするだけの力を持っております。ということなので、むしろ若い先生方、それから中堅の先生方で大いに能力と意欲のある先生方にとっては、むしろこういう状況というのはチャンスであろうと思います。ちょっと脱線してしまいましたが、そういうことです。
それから、最後に「非公式」の役割ということ。法務サポートで企業の役に立つという事実を積み上げていくと、あの人の言うことは信頼できると、あの人に頼むと問題を解決してくれるという評判が社内に広がっていきます。そうすると、法律の問題であろうがなかろうが相談に来るということが非常に多くあります。極端な言い方をすると、ビジネスマンは専門家ではありません。要するに、ある問題が法律的な問題なのかそうでない問題なのかわからないわけです。彼らが理解するのは、あの人に頼めば、あの人に相談をすれば何か自分にとっていい結果が出てくる、役に立つという判断しかないんですね。そうすると、例えばある法律的な問題についてきちんと解決をすると、あ、この人頼りになるなということで法律以外の相談が来るんです。そういう中で、それで今、ちょっと汚い言葉になっちゃうかもしれませんが、コネクション・ブローカーというか、社内の調整役を事実上負わされてしまうということです。ただ、それがまた重要なことで、私は「なんちゃって相談」と呼んでいるのですけれども、法律の問題なのかそうでない問題なのかわからないけれども相談に来ると。その中で法律の問題が見つかることがあるんですね。つまり、私は部下に常日頃言い聞かせているのですが、ある問題が法律的な問題なのかそうでない問題なのか、これを判断すること自体が法律的な専門的な知識と理解と素質を要するということだと。だから、「法律的な問題は法務部にご相談ください」というのは私は間違いだと思っていて、何でもいいから聞いてくださいと。聞いていく中で、その人は全く法律を意識していなかったとしても、実は裏に法律的な問題がある。誰も気がつかなかったけれども、我々は専門家であるがゆえに法律的な問題を見つけて解決する。解決していくに際して我々は権限を持っていますので、事業部の人がそれは法律には関係ありません、法務には出る幕がありませんと言っても、強制的に入っていっちゃいますから。俺がこれは必要だと思うから調べるんだと社内で通せますので。
というふうなことで、企業の遵法経営といいますか、コンプライアンスと言ってもいいのかもしれませんが、法律に沿った、あるいは、かつ法律を利用した企業の成長ということに非常に重要な役割を果たしているというのがジェネラル・カウンセルでございます。一方で、先ほど申し上げましたように、結果に対して責任を負っておりますので、頑張りました、法律的に正しいことを言いましたと言っても、だから何なのだ、で終わってしまいますので、そこのところは非常に重いし、難しい。
もう一つは、これは我々が常に抱えているジレンマなのですけれども、ジェネラル・カウンセルが信用されればされるほど、その言葉が受け入れられます。つまり、その意見がより直接的に企業行動に反映してしまいます。そうすると結果自体に対する責任を負ってしまう。責任を負ってしまうがゆえに自分の判断は重いのですね。そうすると間違ったときのリスクというのは非常に大きくなる。法律的なことを言って、あとは経営陣が決めること、責任はあなただよと言っていれば気楽なのですが、それが許されないという立場でございまして、これは多分、ジェネラル・カウンセルと言ってもいいし、企業内弁護士と言ってもいいのですけれども、その立場が重くなればなるほど、信頼されればされるほどリスクが大きくなっていくジレンマなのだろうなと思います。
こんなことで概要を若干説明させていただきました。この後は、なるべくショッキングなことを言ってくれというふうにお願いをしてありますが、ラリー・ベイツさん、その他経験のある方から、もっと生々しいというか、具体的なというか、お話をお聞きいただいて、今日はこんなものがあるのだと、世の中にこんな変な奴がいるのだということを何となく理解していただければそれでいいのかなと思っています。
ご清聴ありがとうございました。(拍手)
(3)につづく