IR協議会、第27回「IR活動の実態調査」の結果を発表
――ESG情報を含む非財務情報の開示・対話における説明方法がなお課題――
日本IR協議会は5月18日、「IR活動の実態調査」結果を取りまとめ、発表した。27回目を数える今回の調査は2020年1月現在の全上場会社3,810社を対象として1月24日~3月9日の間に実施され、1,047社・27.5%から回答を得た。
IR協議会によれば、第18回となる2011年の調査から「1年ごとに重点を絞って実施する形式」としており(同年の取りまとめは「説明会などのIR活動と業績予想開示に焦点を絞」った。なお、3,644社を対象として1,032社・28.3%が回答)、2020年の今回調査では(1)一連のいわゆる「コーポレートガバナンス改革」の進展度合い、(2)企業価値向上に向けた非財務情報(含むESG情報)開示の状況、(3)IR活動の効果測定、(4)資本政策などに焦点を当てたという。
前提となる状況を概観すると、IR活動は全回答企業1,047社のうち1,027社・98.1%で実施されている。実施企業1,027社のうち、IR担当役員等を設置しているのは85.1%(編注・回答会社の実数は公表されていないことから概数ながら874社、以下同様)。IR業務の担当部署は①独立した専任部署が42.7%(439社)、②「独立した専任部署はないが、IR専任者を置いている」が33.6%(345社)であり、IR協議会によると、前回調査において①は54.3%、②は27.8%であったことから、①が「大幅に縮小した」一方、②が「やや拡大した」とされる。
IR実施企業における「IR専任者」の数については「3人以下」が42.7%(439社)、4人以上が14.8%(152社)、専任者なしが39.7%(408社)である。IR関連情報を収集する目的で行う社内関連部署との年間会合回数は「15回以上」が15.0%(154社)、「3~4回」が12.9%(132社)、「10~14回」が7.2%(74社)となっている一方で「定期的な会合は開いていない」が51.7%(531社)と過半を占める。87.5%(899社)が「株主・投資家などの意見を社内へ報告する仕組み」を設けており、たとえば、もっとも多い回答として「取締役会や経営会議などで、IR担当役員やIR担当者が報告する機会を設けている」とするものが挙げられており、これに続く仕組みとして「経営トップに定期的に直接報告する機会を設けている」がある。
今回調査結果から上記(1)ガバナンス改革の進展状況をみると、コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の改訂後1年以上が過ぎた現下、IR実施企業1,027社を対象に「企業の持続的成長を目的とした機関投資家との対話が、それ以前と比べ全般的に促進されたか」を尋ねる調査では、「大いに促進された」「促進された」 「やや促進された」の回答を合算した企業が51.5%(529社)を占めた。同一の設問は過去5年間継続されており、この間の「大いに促進された」「促進された」 「やや促進された」の回答比率の推移は、30.2%(2015年)→ 50.4%(2016年)→50.4%(2017年)→58.8%(2018年)→63.1%(2019年)と年々拡大してきたところ、今回の回答比率からは一服感が読み取れるが、今回調査では「現時点で変化はない」とする回答が35.2%(362社)にのぼって過去最多となっており(前回調査では20.7%)、IR協議会では「対話は既に進展しているとの認識が定着してきているとも考えられる」と評価している。
IR実施企業に「スチュワードシップ・コード(SSコード)やCGコードを意識した対話をするための課題」を問う設問では、①「非財務情報(CSRやESG等)がどのように中長期的企業価値向上に貢献するかを説明するのが難しい」とする回答が41.6%(427社、前回調査では49.0%)を占め、2018年調査以降3回続けてもっとも多くなっている。続いて、②「両コードで求められている『対話』において、インサイダー取引規制や公平性の原則に抵触しないようにするために何をどこまで話すべきかを判断する基準設定が難しい」が33.6%(345社、前回調査でも33.6%)、③「資本コストを意識したROE水準と企業価値向上のロードマップを合わせて説明するのが難しい」が29.7%(305社、前回調査では31.4%)であった。
IR実施企業1,027社に対し、上記(2)の関連で「非財務情報(含むESG情報)の開示における重要項目」を問うと、「企業理念、経営ビジョン」が84.6%(869社、前回調査では85.9%)と前回同様にもっとも多く、以下「持続的な成長に向けての取り組み」が81.0%(832社、同80.1%)、「事業戦略の強化」が78.9%(810社、同70.8%)が挙げられた。
「非財務情報(含むESG情報)の開示や対話において、難しいと感じることは何か」との設問に対しては、①「ESGに関する考え方を示し、中長期の経営戦略と絡めて投資家が理解しやすい情報として開示すること」が55.8%(573社、前回設問なし)ともっとも多く、②「SDGsなどに紐づけて重視する領域(マテリアリティ)を特定し、持続的成長や企業価値向上にどう繋げるかを説明すること」 が47.0%(483社、前回38.5%)、③「本業のビジネスとESG情報を関連付けること」が46.2%(474社、同48.0%)と続いており、IR協議会では「どうすれば、非財務情報を実体に則した形で伝えられるのか、腐心する企業の姿が浮かび上が」っていると位置付けている。
なお、「どのようなツール・媒体で非財務情報(含むESG情報)を開示しているか」については、①ウェブサイトが84.8%(871社、前回79.4%)、②決算説明資料が58.1%(597社、同54.7%)、③株主向け事業報告書が56.8%(583社、同55.6%)であった。