公益通報者保護法の改正法が公布、
従業員300人超の事業者への体制整備義務付けなどを措置
――衆・参両院の委員会採決で附帯決議、参院では内部通報制度認証のさらなる普及促進の要請も――
令和2年6月12日、「公益通報者保護法の一部を改正する法律」(令和2年法律第51号)が公布された。改正案が3月6日に閣議決定され、同日、国会に提出されていた(「SH3070 公益通報者保護法の改正案が閣議決定、国会に提出 蛯原俊輔(2020/03/24)」参照)。
衆議院の審議では「消費者問題に関する特別委員会」において5月15日、消費者・食品安全担当相の趣旨説明を聴取。19日・21日と担当相・政府参考人らに対する質疑を行い、21日のうちに全会一致で修正議決されるとともに8項目の附帯決議が付された。翌22日には衆議院本会議で可決、参議院に送付されたのち、6月3日の「地方創生及び消費者問題に関する特別委員会」において趣旨説明の聴取を行ったうえ、東京大学・田中亘教授、全国消費者行政ウォッチねっと事務局長・拝師徳彦弁護士、オリンパス人事部門スーパーバイザー(最高裁勝訴内部通報訴訟経験者)・濱田正晴氏の3氏に対する参考人質疑が行われている。続いて開催された5日の委員会審議で担当相・政府参考人らに対する質疑を行ったのち、衆議院における修正部分を含んだ原案を全会一致で可決、13項目の附帯決議が付された。その後、6月8日の参議院本会議において可決・成立していた。
衆議院・消費者問題特別委における修正は改正法附則5条(検討)に関するもので、改正法の施行後3年を目途として政府に対し、検討を加え、かつ、その結果に基づいて必要な措置を講じることを要請する事項として「公益通報者に対する不利益な取扱いの是正に関する措置の在り方」「その他新法の規定」とともに「(公益通報をしたことを理由とする公益通報者に対する不利益な取扱いの)裁判手続における請求の取扱い」を明確に追記するものとなった。立証責任の転換に関する検討が行われるよう促す趣旨である。
附帯決議に付された項目をみると、本法の改正趣旨や各条項の解釈等について政府が関係者・関係各機関に対して十分な周知徹底を要請する第1項において、衆議院・参議院の各委員会がそろって「(その周知に当たって)公益通報者保護法の認知度が低いことを踏まえて、認知度が上がらなかった要因を分析」するよう求めているとともに、参議院では加えて「それを解消する工夫を図る」ことについても求めている点が特徴的といえる。参議院の第2項としては「第三者認証制度の創設も含め、内部通報制度認証の更なる普及促進を図ること」が盛り込まれた。
改正内容の詳細については上掲・蛯原俊輔弁護士による解説を参考とされたいが、事業者に対しては、①事業者自ら不正を是正しやすくするとともに、安心して公益通報を行いやすくする観点から、(a)労働者および役員による公益通報を受け、当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、その是正に必要な措置をとる業務(公益通報対応業務)への従事者(公益通報対応業務従事者)を定めるとともに(改正後の公益通報者保護法11条1項)、(b)労働者および役員による公益通報に応じ、 適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとらなければならないこととした(同条2項)。これらの規定は、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者については努力義務としているが(同条3項)、政府が今後策定する指針(同条4項~7項)に基づき、公布日から2年以内に迎えることとなる改正法の施行に向けて体制整備等の準備が必要となる。
また、政府は事業者に対し、上記aおよびb(11条3項の場合を含む)の規定の施行に関して必要と認めるとき、報告徴求、助言、指導、勧告(以上、15条)を行うことに加え、勧告に従わない場合の公表(16条)を可能とする一連の行政措置が導入された。さらに、上記「公益通報対応業務従事者」または「公益通報対応業務従事者であった者」に対しては、正当な理由がなく、その業務に関して知りえた事項であって公益通報者を特定させるものを漏洩してはならないこととされるとともに30万円以下の罰金とする罰則が設けられている(12条・21条)。
このような事業者向けの改正のほか、②行政機関等への公益通報を行いやすくする改正、③通報者が保護されやすくなる改正と相まって、まずは改正内容の正確な理解が必須といえる。政府への要請とされる附帯決議では衆参両院とも「公益通報対応業務従事者に対する研修・教育」について言及しており、事業者にあっても総合的な対応が喫緊の課題となる点、留意しておきたい。