◇SH0344◇銀行員30年、弁護士20年 第36回「弁護士増員によって弁護士の質は低下するか」 浜中善彦(2015/06/16)

法学教育そのほか未分類

銀行員30年、弁護士20年

第36回 弁護士増員によって弁護士の質は低下するか

弁護士 浜 中 善 彦

 

 弁護士人口が急増していることにより、新人弁護士の就職難が問題となっており、日弁連は、司法試験合格者をまず1,500人にまで減員すべしという提言をしている。その理由の一つとして、新人弁護士の就職難により、法曹の質が低下し、司法の弱体化を招くという。質の問題は、新司法試験になり、年間の合格者がかつての500~700人程度の時代から、2,000人を超えるようになって、増員反対派の理論的根拠として、増員により弁護士の質が低下して国民に不利益を与えるという主張がされるようになった。しかし、この場合の質というのが何を意味するのかは、必ずしもはっきりしない。法律家としての知識やスキルの問題を意味するのか、法律家に必要とされる人間性が問題になっているのか必ずしも明確ではない。人間性についていえば、司法試験は資格試験であって人格を試す試験ではないから、これまでも問題がなかったわけではない。近時の弁護士不祥事の多発は弁護士会にとって大きな問題となっている。そういう意味では、これまでも、弁護士のモラルが一般に比べて特に高かったとは思えない。

 

 日弁連は、法曹の質の低下には2つの側面があるという。その1は、新人弁護士の就職難の結果、法曹志望者の大幅な減少をもたらし、多様性を含めた総体としての法曹の質が低下し、司法の弱体化を招くとする。その2は「即独」「ノキ弁」が増えることにより、OJTを受ける機会が不足する実務能力、実務感覚等が不足する新人弁護士が単独で事件を受任することを余儀なくされていくとしている。
 しかし、私は、こういった議論に賛成ではない。合格者を削減すれば、法曹志望者の減少が食い止められるとは思えない。弁護士のOJTについては、就職した事務所の弁護士任せであり、果たしてそれでいいのかという問題がある。そのため、現在でも、企業法務の分野ではかなり厳しい見方がある。私の友人の外資系大手飲料会社の元法務部長にいわせると、弁護士とは、「クライアントのいうことを文書にして、法外な報酬を請求する職業」である。これは極端にしても、現在でも、ビジネス法務の現場では、弁護士はビジネス界の求める要求に応え得ていないとして、弁護士のビジネスについての知識の不足や、ビジネス感覚の欠如等に関して相当な不満があることは否定できない。

 

 私は、やみくもに合格者を増員すればいいとは思わないが、少なくとも、削減論には賛成できない。削減論の背後にあるのは、新人弁護士の就職難だけではなく、弁護士増員に伴う既存の弁護士の収入減であり、利用者側の論理ではない。
 弁護士増員により、利用者である国民にとって、弁護士はより身近な存在になるはずである。現在求められているのは、要件事実論中心の裁判所御用達のような弁護士から、PCやワープロはもちろん、英語その他の外国語にも堪能な人材である。合格者削減論は、そういった時代のニーズに背を向けるものである。むしろ、増員によって新しい発想を持った若い弁護士や社会的経験のある弁護士が増えることによって、利用者の多様なニーズによりよく応えることができるようになると信ずる。
 また、弁護士になったからといって、すべてが法廷弁護士になる必要もないのではないか。むしろ、これからは、企業や自治体等にも活躍の場を求めるべきである。もちろん、それが一朝一夕になるとは思わないが、少なくとも、削減論のように、負の側面ばかりを強調して、弁護士の既得権擁護を主張する議論は国民の賛同を得られないと考える。

以上

タイトルとURLをコピーしました