◇SH3264◇会社法・金商法と会計・監査のクロスオーバー(4) 継続会と欠損填補責任 弥永真生(2020/08/07)

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会社法・金商法と会計・監査のクロスオーバー(4)
継続会と欠損填補責任

筑波大学ビジネスサイエンス系(ビジネス科学研究科)教授

弥 永 真 生

 

 当初予定した時期に開催する「定時株主総会」の招集時点では、計算書類、その附属明細書ならびにそれらに関する会計監査報告及び監査役等の監査報告を株主に提供できない場合に、

  1. ① 当初予定した時期に定時株主総会を開催し、続行(会社法317条)の決議を求める。当初の時期に開催された株主総会においては、剰余金の配当を決議するとともに、計算書類、監査報告等については、継続会において提供する旨の説明を行う。
  2. ② 継続会において、計算書類、監査報告等の内容を報告する。

というアイディアが示されている[1]

 そして、金融庁・法務省・経済産業省「継続会(会社法317条)について」(令和2年4月28日)[2] の「3剰余金の配当」では、「当初の定時株主総会において剰余金の配当決議を行う場合、当該行為の効力発生日が 2020年3月期の計算書類の確定前である限り、最終事業年度(2条24号)である 2019年3月期の確定した計算書類に基づいて算出された分配可能額の範囲内において行うことができる(461条)。この場合において、2020年3月期の計算書類の確定はなされていないものの、決算数値から予想される分配可能額にも配意することが有益であると考えられる。」という見解が示されている。

 分配可能額は剰余金の額に会社法461条2項2号から6号までの額を加減して算定されるが、剰余金の額は会社法446条に従って定まる。すなわち、最終事業年度の末日における資産の額及び自己株式の帳簿価額の合計額の合計額から負債の額、資本金及び準備金の額の合計額ならびにその他法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額の合計額を減じて得た額(446条1号)に同条2号から7号までの額を加減した額とされている。ここでいう最終事業年度とは「各事業年度に係る第435条第2項に規定する計算書類につき第438条第2項の承認(第439条前段に規定する場合にあっては、第436条第3項の承認)を受けた場合における当該各事業年度のうち最も遅いものをいう」とされている(会社法2条24号)。

 したがって、「継続会(会社法317条)について」で示されている解釈に問題はないものと考えられる。

 しかし、気になるのは、2020年3月期に係る計算書類が承認されていない時点で決定された配当について、会社の業務執行者が欠損填補責任(会社法465条)を負うのではないという点(十分な分配可能額を有する会社の取締役等にとっては現実には心配無用である)である。

 すなわち、剰余金の配当をした日の属する事業年度(その事業年度の直前の事業年度が最終事業年度でないときは、その事業年度の直前の事業年度)に係る計算書類において欠損が生じた場合には、会社において剰余金の配当に関する職務を行った業務執行者(会社法462条1項、会社計算規則159条8号)は当該欠損を填補すべき義務を負い(会社法465条1項10号)、当該義務は総株主の同意によってのみ免除することができる(同条2項)とされている。ただし、剰余金の配当が定時株主総会(承認特則規定(会社法439条)の適用がある場合においては、その事業年度に係る計算書類を承認する取締役会)において決定されたものである場合には、例外的に、業務執行者は欠損填補責任を負わないとされている(会社法465条1項10号イ)。

 そこで、継続会において計算書類の承認またはその内容の報告が予定され、当初の株主総会の時点では、取締役会における計算書類の承認がなされておらず、その結果、当初の株主総会では計算書類及びそれに係る監査報告の内容の報告がなされていないという状況の下でも、「定時株主総会……において第454条第1項各号に掲げる事項を定める場合における剰余金の配当」にあたるとして、業務執行者は欠損填補責任を負わないと解されるのかが、理論的には問題となる。

 ここで、会社法465条1項10号イは、直近の事業年度に係る計算書類が適法に作成され、確定していることに着目して、そのような計算書類を基礎として定められた分配可能額の範囲内での剰余金の配当については業務執行者に欠損填補責任を負わせなくとも、通常は、会社債権者保護に欠けることはないという理由に基づくものと考えられる。逆に、会社法465条1項が定める欠損填補責任(平成17年改正前商法が定めていた中間配当に係る取締役等の欠損填補責任)は、剰余金の配当や自己株式の取得の時点での会社の財産状態が最終事業年度の計算書類が示している会社の財産状態とは異なっていることに着目して定められているといえる。このような立法趣旨からすれば、取締役会における計算書類の承認がなされておらず、その結果、当初の株主総会では計算書類及びそれに係る監査報告の内容の報告がなされていないという場合には、当初の株主総会で剰余金の配当を決定しても、それは定時株主総会で決定したとは評価されないと解すべきなのではないかと思われる(約1年前の分配可能額を基礎とする場合に欠損填補責任を負わないと解するのは不適切であろう)[3]

 また、このように解釈することは、かりに、定款の定めにより取締役会が剰余金の配当を決定できるとされている場合において、取締役会が、2020年3月期の計算書類の承認前に、剰余金の配当を決定したとすれば、承認特則規定に基づく計算書類の承認は行われない以上、欠損填補責任を負うと解されている[4]こととも整合的である。

 かりに、業務執行者が欠損填補責任を負うと解した場合には、剰余金の配当をした日の属する事業年度(その事業年度の直前の事業年度が最終事業年度でないときは、その事業年度の直前の事業年度)に係る計算書類につき438条2項の承認(承認特則規定の適用がある場合においては、計算書類を承認する取締役会によるもの)を受けた時における会社法461条2項3号、4号及び6号に掲げる額の合計額が同項1号に掲げる額を超えるときは、その剰余金の配当に関する職務を行った業務執行者は、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合を除き、会社に対し、連帯して、その超過額(当該超過額が剰余金の配当についての会社法446条6号イからハまでに掲げる額の合計額を超える場合には、会社法446条6号イからハまでに掲げる額の合計額)を支払う義務を負うことになる(会社法465条1項柱書・10号)。ここで、3月31日を事業年度の末日とする会社を例にとると、継続会スキームによれば、「剰余金の配当をした日の属する事業年度」とは2020年4月1日から2021年3月31日までの事業年度であるが、最終事業年度は2018年4月1日から2019年3月31日までの事業年度であるため、かっこ書きの「その事業年度の直前の事業年度が最終事業年度でないときは、その事業年度の直前の事業年度」が適用されるところ、「その事業年度の直前の事業年度」は2019年4月1日から2020年3月31日までの事業年度である。したがって、2019年4月1日から2020年3月31日までの事業年度に係る計算書類につき株主総会の承認(承認特則規定の適用がある場合においては、計算書類を承認する取締役会によるもの)を受けた時における会社法461条2項3号、4号及び6号に掲げる額の合計額が同項1号に掲げる額を超えるときに、業務執行者は欠損填補責任を負う可能性が生ずることになる。継続会スキームの下では、継続会で計算書類を承認するのであればその時、承認特則規定の適用があるのであれば継続会で報告する計算書類を取締役会が承認した時が基準時ということになろう。

 なお、欠損填補責任のリスクとの関係では、剰余金の配当の決定の後、計算書類の確定の時期が遅くなればなるほど、修正後発事象を考慮する必要が高まるかもしれない。会社法の文脈では、後発事象は、決算日後に発生した会社の財産及び損益の状況に影響を及ぼす会計事象であり、計算書類・連結計算書類を修正すべき後発事象(修正後発事象)と計算書類・連結計算書類に注記すべき後発事象(開示後発事象)の2つに分けられる。

 ここで、修正後発事象は、決算日後に発生した会計事象であるものの、その実質的な原因がすでに決算日現在には存在しており、決算日現在の状況に関連する会計上の判断または見積りをする上で、追加的な証拠または、より客観的な証拠を提供するものとして考慮しなければならない会計事象である。その後発事象の発生により、未確定事項が確定する場合(たとえば、訴訟の解決など)やその後発事象の発生により、会計上の見積りにとって、より客観的な証拠が提供される場合(たとえば、決算日においてある債務者に対する債権を有している場合で、決算日後に当該債務者が倒産した場合)には、一般的には、修正後発事象にあたると考えられる。そして、今般の新型コロナウイルス感染症との関係では、3月31日以前に、相当程度、流行がみられていたことから、新型コロナウイルス感染症流行に関連する、ある会計事象が修正後発事象にあたると評価される可能性は低くない。


[1] 新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」(令和2年4月15日)参照。招集通知に際して、計算書類等を株主に提供することなく、当初の時期に開催された株主総会の決議には招集手続の法令違反があり、決議取消事由があり、かつ、裁量棄却は認められないと判断されるリスクがあるが、それについては、本稿では捨象する。

[3] たしかに、会社法の文言からすれば、このような解釈は不自然である。しかし、そもそも、(会計監査人の監査及び)監査役等の監査を受け、取締役会の承認を得た計算書類を「定時株主総会」の招集に際して株主に提供することが求められ、株主総会に提出または提供することが要求されているのであり、それがなされていない以上、当初の株主総会は、計算書類の承認または報告を会議の目的としている株主総会とは評価できず、したがって、法的な意味における「定時株主総会」にあたるとはいえないとみることができるかもしれない。

[4] 辰巳郁「分配特則規定による剰余金配当と決算手続の遅延」商事2227号(2020)60頁。

 

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