「発信者情報開示の在り方に関する研究会 中間とりまとめ」が
新たな裁判手続の創設など提言
――電話番号開示は省令改正済み、裁判手続創設は11月目途に最終とりまとめへ――
総務省は8月31日、「発信者情報開示の在り方に関する研究会 中間とりまとめ」を公表した。7月16日~8月14日の間、意見募集に付されていたもので、中間とりまとめの公表と併せて、寄せられた94件の意見も仔細にわたり発表した。
「発信者情報開示の在り方に関する研究会」(座長:曽我部真裕京都大学大学院法学研究科教授)は、いわゆるプロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)における発信者情報開示の在り方等について、インターネット上の情報流通の増加、情報流通の基盤となるサービスの多様化、インターネット上における権利侵害情報の流通の増加を背景とし、具体的には(ア)プロバイダ責任制限法における発信者情報開示の対象となる発信者情報の見直し、(イ)発信者情報開示手続を円滑にするための方策について検討するために設置された。メンバーは座長を始めとする大学教授ら6名、弁護士2名、国内シンクタンクの執行役員法務部長、全国紙の東京本社編集委員からなる計10名で構成。本年4月30日に初会合を開き、8月28日には第5回会合を開催して「中間とりまとめ」を取りまとめる検討を行っていた。
これに先立つ8月7日には「プラットフォームサービスに関する研究会」(座長:宍戸常寿東京大学大学院法学政治学研究科教授。2018年10月18日に初会合)が、SNSを始めとするプラットフォームサービス上の誹謗中傷問題の深刻化を受けて検討した「インターネット上の誹謗中傷への対応の在り方に関する緊急提言」が公表されたほか、総務省では9月1日、この「緊急提言」と今般の「中間とりまとめ」を踏まえ、関係省庁などと連携して早急な対応を図る取組みを「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ」として具体化し、公表。今後は「政策パッケージ」の工程表に則って対応を進め、プラットフォームサービスに関する研究会において進捗状況等の検証を行っていく。
発信者情報開示の在り方に関する研究会による「中間とりまとめ」によると、上記(ア)に係る(1)「発信者情報の開示対象の拡大」が検討・提唱され、また、上記(イ)に関する(2)新たな裁判手続の創設、(3)ログの保存に関する取扱い、(4)海外事業者への発信者情報開示に関する課題、(5)裁判外(任意)開示の促進といった4点について一定の方策・方針が示された。
(1)の検討では、①電話番号、②ログイン時のIPアドレスおよびタイムスタンプ(ログイン時情報)、③接続先IPアドレスが対象となった。中間とりまとめは、①について「まずは『電話番号』を開示対象に追加するため、迅速に省令の改正を行うことが適当」としており、総務省ではすでに8月31日、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令の一部を改正する省令」(令和2年総務省令第82号)を公布して手当てしたところである。②については本年11月が目途とされる最終とりまとめに向けて継続審議する。なお、③については「現行省令に定める『侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス』に含まれると解して差し支えない」とするのが、中間とりまとめで示された見解である。
上記(2)は「問題となる投稿が権利侵害に該当するか否かの判断が困難なケースなどにおいては、発信者情報が裁判外で開示されないことが多い」ことから、(ⅰ)コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示仮処分申立て、(ⅱ)アクセスプロバイダに対する発信者情報開示請求訴訟――の2段階の裁判手続を経て、さらに(ⅲ)特定された発信者への損害賠償請求訴訟を行うという計3段階の手続を経る必要があり、とくに発信者情報開示のプロセスに多くの時間・コストがかかることは被害者にとって負担となること、場合によっては権利回復のための手続を断念せざるを得ないことなどに対応しようとするもの。
中間とりまとめでは「新たな裁判手続」として「例えば、法改正により、発信者情報開示請求権という実体法上の請求権に基づく開示制度に代えて、非訟手続等として被害者からの申立てにより裁判所が発信者情報の開示の適否を判断・決定する仕組み」を創設することについて提言。論点を抽出するなどしつつ「検討を進めていくことが適当である」と結論付けた。研究会では、本課題についても11月を目途とする最終とりまとめに向け、審議を深めていく方針である。