◇SH3301◇『自動運転と社会変革 法と保険』の概要(完)―自動運転車を巡る国際的動向― 栁川鋭士(2020/09/09)

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『自動運転と社会変革 法と保険』の概要(完)

―自動運転車を巡る国際的動向―

明治大学法学部准教授・弁護士

栁 川 鋭 士

 

1 はじめに

 これまで3回に亘って自動運転に係る刑事責任、民事責任、保険関係に関して、明治大学自動運転社会総合研究所監修 中山幸二ほか編『自動運転と社会変革 法と保険』(商事法務、2019)の概要について解説した[1]。最終回として、自動運転車を巡る国際的動向に関する本書の概要について解説する。

 

2 自動運転車に係るドイツおよびイギリスの動向

 本書第IV部の自動運転車を巡る国際的動向において、第1章「自動運転車に係るドイツおよびイギリスの動向(柴田龍)」では、日本の改正道路交通法においても参考とされたドイツの改正道路交通法(StVG)及びイギリスにおいて立法化された自動運転車および電気自動車法(Automated and Electric Vehicles Act 2018、以下「AEV法」という)について解説している。ドイツの道路交通法(StVG)は、民事責任も取り込んだ形になっており、保有者の賠償責任保険への加入義務付け(義務保険法(PflVG)1条)されているため、日本の改正道交法と自動車損害賠償保障法による被害者救済の建付けを考えるうえでも、本章は参考になる。改正道路交通法(StVG)によって、変更・追加された規定は、1a条(高度または完全に自動化された運転機能を備えた車両の運行許可等)、1b条(高度または完全に自動化された運転機能を使用する運転車の権利および義務)、1c条(評価)、6条1項14 a号(運転者がいない車両の駐車)、6条4a項(高度または完全に自動化された運転機能を備えた車両が公道を運行する際の法令の公布に関する規定)、12条1項(責任最高限度額の増額)、32条(車両登録の目的)、第VIa章63a条(高度または完全に自動化された運転機能を備えた車両のデータ処理)、63b条(授権の根拠)であり、特に重要な規定について解説している。日本の改正道交法の今後の解釈においても参考となりうる規定について本書に基づき一部簡単な紹介をすると、1a条2項は対象車両の備えるべき技術的設備を規定し(これは製造物責任法3条1項の欠陥の解釈にも関係しうると指摘されている)、1b条1項は自動化された運転機能を使用して車両制御をしている間、交通状況から目を逸らし、車両制御から離れることが許されるとしつつ、同2項の義務(システムが要請した場合等に運転者が車両制御を遅滞なく再度引き受ける義務)にいつでも応じられるように知覚準備状態(wahrnehmungsbereit)でなければならないとされる。63a条では、車両制御について運転者とシステムの間で交代が行われた場合の位置と時間の保存、道路交通を監督する官庁への送信等が規定されている。

 イギリスも日本、ドイツと同じく、自動車の使用者は強制保険加入が義務づけられており、AEV法は日本の改正道交法下における法適用状況を検討するうえでも参考になる。AEV法は、第1部「自動運転車:保険会社の責任など」(1条~8条)、第2部「電気自動車:充電」(9条~13条)、第3部「雑則」(20条~22条)となっており、本章では特に重要な規定について検討されており、詳しくは本章を参照されたい。

 

3 ITS・自動運転の国際動向(欧州連合、米国、中国)と課題

 本書第IV部第2章「ITS・自動運転の国際動向(欧州連合、米国、中国)と課題(佐藤昌之)」では、EU(欧州連合)、米国、中国のITS・自動運転に関する政策を簡潔に紹介している。EU(欧州連合)では、欧州の道路輸送分野おける種々の問題への対処、特定の開発を支援することを目的とする「Mobility Package」という指針[2](First Mobility Package(2017年5月)、Second Mobility Package(2017年11月)、Third Mobility Package(2018年5月))が発表され、特にThird Mobility Package(2018年5月)では今後の欧州の自動運転の政策の方向性が示されている。EU(欧州連合)の技術開発支援策(フレームワークプログラム(FP))としては、現在進行中のEU(欧州連合)の研究および技術開発は「Horizon2020」と称され2016年以降「自動運転を実現するICTインフラ」などのプロジェクトが実施されている。次の第9次FPは「Horizon Europe」[3](2017年-2027年)である。

 アメリカ合衆国では、USDOT(米国運輸省)傘下のNHTSA(米国道路交通安全局)から2017年9月15日に「Automated Driving System 2.0」(ADS2.0)というガイダンス[4]が発行されている。セクション1(自動運転に関する自主的ガイダンス)ではADS(自動運転システム)を設計する事業者の設計段階における機器評価、テスト、検証のための12の安全要素の取入れ、対処方法の文書化が推奨されている。セクション2(州への助言)では、連邦及び州の管轄下でのADSのテスト等の一貫性の促進、両立する法律作成のためのベストプラクティスが提言されている。2018年10月にはAutomated Vehicles3.0(AV3.0)[5]が発行され、自動運転車に関連する政策の指針となる6原則(USDOT Automation Principles)として、①安全性の優先、②技術中立性の維持、③規制の近代化、④規制、運用環境の一貫性促進、⑤自動化への積極的対応、⑥米国人が享受する自由の保護、強化が挙げられ、この原則を実現するための5戦略(Strategies)として、①利害関係人の関与、②ベストプラクティス、③自主的基準、④的を絞った研究、⑤規制の近代化が掲げられている。なお、本書刊行後、2020年1月にはAutomated Vehicles4.0(AV4.0)が発行されている[6]

 本章ではその他中華人民共和国のITS・自動運転の現状、ITS世界会議2018 SIS09における刑事領域の議論の紹介、自動運転車事故の処理に関する警察とは別建ての安全調査を行う第三者機関[7]の設置と仲裁を活用した自動運転紛争解決機構の設置の試案が展開されている。

以上

 

 

 

 

自動運転と社会変革――法と保険

明治大学自動運転社会総合研究所 監修 中山 幸二=中林 真理子=栁川 鋭士=柴山 将一 編

定価:3,300円 (本体3,000円+税)

ISBN:978-4-7857-2728-4


 


[1] 刑事責任の解説については、https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=11526268、民事責任の解説については、https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=11870713、保険関係の解説については、https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=12701758

[2] See IRU website “European Commission Mobility Package” available at https://www.iru.org/where-we-work/europe/europe-overview/european-commission-mobility-package

[3] See European Commission website “Horizon Europe – the next research and innovation framework programme” available at https://ec.europa.eu/info/horizon-europe-next-research-and-innovation-framework-programme_en

[4] See NHTSA “AUTOMATED DRIVING SYSTEMS 2.0” available at https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/09/13069a-ads2.0_090617_v9a_tag.pdf

[5] See U.S. Department of Transportation “Automated Vehicles 3.0 PREPARING FOR THE FUTURE OF TRANSPORTATION” available at https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/09/preparing-future-transportation-automated-vehicle-30.pdf

[6] See U.S. Department of Transportation “Automated Vehicles 4.0 Ensuring American Leadership in Automated Vehicle Technologies” available at https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/09/EnsuringAmericanLeadershipAVTech4.pdf

[7] 国土交通省が自動運転車の事故について原因を調査・分析する事故調査委員会の立ち上げを検討している旨の報道(2019年10月19日付日本経済新聞ウェブサイトhttps://www.nikkei.com/article/DGXMZO51193930Z11C19A0EA1000/)もなされているところであり、今後の動向に注視する必要がある。

 

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