◇SH1693◇債権法改正後の民法の未来13 不安の抗弁権(2) 中西敏彰(2018/03/08)

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債権法改正後の民法の未来 13

不安の抗弁権(2)

北浜法律事務所・外国法共同事業

弁護士 中 西 敏 彰

 

Ⅲ 議論の経過

2 明文化の要否及び要件論

 不安の抗弁権の明文化の要否に関しては、賛成する意見がある一方、この抗弁権を行使された中小企業等の経営が圧迫されるなど取引実務に与える影響が大きいこと、この抗弁権が必要となるのは限定的な場面であり裁判例を一般的に明文化すべきでないことを理由に反対する意見があった。中間的な論点整理においては、要件論として、①適用範囲を債務者が先履行義務を負う場合に限定するか、②反対給付を受けられないおそれを生じさせる事情を事情変更の原則と同様に限定的にすべきか、③反対給付を受けられないおそれが契約締結前に生じた場合においても一定の要件の下で適用を認めるべきか、ということが検討対象として整理された。

 中間的な論点整理に関するパブリック・コメントにおいては、明文化に賛成する意見がある一方、明文化による濫用の恐れを指摘する意見もあった。

 そこで、部会資料48において、不安の抗弁権の適用範囲を適切に画するための要件の具体化が検討課題となるとした上で、①については先履行義務を負う場合に限定し[1]、②については事情変更の原則と同様に限定的とまではしない[2]、③については当該事由があることを合理的な理由により知ることができなかったことを要する[3]旨の提案がなされ、その後も要件の具体化が模索された。債権の実現可能性に疑念を抱くことが合理的といえるような客観的事象を具体的に条文上明記することが試みられ、中間試案では、以下の提案がなされた。

  ○中間試案第33「不安の抗弁権」

 双務契約の当事者のうち自己の債務を先に履行すべき義務を負う者は、相手方につき破産手続開始、再生手続開始又は更生手続開始の申立てがあったことその他の事由により、その反対給付である債権につき履行を得られないおそれがある場合において、その事由が次に掲げる要件のいずれかに該当するときは、その債務の履行を拒むことができるものとする。ただし、相手方が弁済の提供をし、又は相当の担保を供したときは、この限りでないものとする。

 ア 契約締結後に生じたものであるときは、それが契約締結の時に予見することができなかったものであること

 イ 契約締結時に既に生じていたものであるときは、契約締結の時に正当な理由により知ることができなかったものであること

(注)このような規定を設けないという考え方がある。また、再生手続又は更生手続が開始された後は、このような権利を行使することができないものとするという考え方がある。

 

 しかし、倒産手続開始の申立てを例示することは、特に民事再生手続や会社更生手続といった再建型倒産手続による事業再建の支障になるおそれがあるとの批判がなされた。一方で、過度に限定的な記載をすると、現行法下の実務と比べて不安の抗弁権の行使可能な範囲を制限してしまうことともなりかねないという問題もあった。

 そこで、具体的・限定的な要件設定は困難であるとして、部会資料77Bでは、アプローチを変え、上記Ⅰのとおり、抽象的な要件として、例えば、「反対債務につき履行を得られないおそれがあると信ずるに足りる相当な理由がある場合において、先履行を求めることが契約の趣旨に照らして衡平に反するとき」に、履行の拒絶が可能となる旨を規定する方向での明文化の可否が検討されたが、濫用のおそれや中小企業等の取引に与える影響を懸念する意見等があり、意見の一致をみることができなかった。

3 効果論

 当初は、防御的効果に加え、攻撃的効果としての解除をすることができる旨の規定についての検討がなされたが、解除まで認めるのは行き過ぎであるとの意見が出され、中間試案では見送られ、債務者が債務の履行を拒絶することができるとされた。また、中間試案では、相手方が弁済の提供をしたとき又は相当の担保を提供したときを不安の抗弁権の阻却要件とされ、かかる阻却要件の主張立証責任は、不安の抗弁権の行使を受けるものが負担するものとされた。


[1] 先履行義務を負わない場合は、同時履行の抗弁権を行使することになる。

[2] 限定的とすると、不安の抗弁権を肯定した裁判例の事例と対比して、やや厳格に過ぎるとされた。

[3] このような場合には、当該事情によるリスクが契約上織り込み可能であったとは評価できないとされた。

[4] 再建型倒産手続に入った会社に対して同時履行(キャッシュオンデリバリー)や担保提供の圧力が強まるおそれがあること、再建型倒産手続開始の申立てがありさえすれば、その後、開始決定がなされた後であっても、あるいは、反対給付である債権が共益債権である場合であっても、なお不安の抗弁権が行使できるかのような誤解を招くおそれがある。

 

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