不適切会計の類型とその影響について
岩田合同法律事務所
弁護士 山 名 淳 一
1 理研ビタミン株式会社特別調査委員会による2件の調査について
理研ビタミン株式会社(以下「理研ビタミン」という。)は、今年、中国所在の子会社である青島福生食品における不適切会計の疑いについて、同社特別調査委員会による2件の調査を立て続けに行い、本年9月23日及び11月13日に、それぞれの調査に係る調査報告書を公表した(以下、本年9月23日付調査報告書を「第一次調査報告書」、同年11月13日付調査報告書を「第二次調査報告書」という。)。
第一次調査報告書[1]では、青島福生食品におけるエビ加工販売に係る架空取引の疑いについて調査がなされており、特別調査委員会は、青島福生食品のA社に対するエビ加工販売の取引について、「実在性を確認するには至らなかった」旨の検証結果をまとめている。
第二次調査報告書[2]では、青島福生食品における滞留在庫管理の不適切性について調査がなされており、特別調査委員会は、青島福生食品において、実際は評価減の計上が必要な古い在庫が滞留していたにもかかわらず、在庫管理が不適切であったため、明細書上は評価減の計上が不要な新しい在庫が保管されているかのように記録され、その結果、棚卸資産が過大に評価されていることが判明した旨報告している。
これら2件の調査により判明した事案は、いずれも不適切会計につながるものであり、理研ビタミンは、これらの調査結果を受けて、過年度の有価証券報告書の訂正を行うに至った。以下では、不適切会計の類型についてまとめた上で、不適切会計の影響について簡単に解説する。
2 不適切会計の類型
企業会計では、会社の財政状態を会計的に示す「資産」と「負債」や、会社の経営成績を会計的に示す「収益」と「費用」という指標により、会社の現在の状況が表示される。会社の会計上の姿を実態よりも良い状況に見せようとする場合、「資産」や「収益」を大きく見せる方法か、「負債」や「費用」を小さく見せるという方法の、いずれかの方法が取られることになる[3]。
「資産」を大きく見せる方法としては、たとえば、回収不能な債権を適切に評価しなかったり、株式の含み損を計上しなかったりする方法がある。青島福生食品においてなされていた、実際は評価減の計上を要する古い滞留在庫を評価減の計上を要しない新しい在庫として管理し、棚卸資産を実際よりも大きく評価することも、「資産」を実態よりも大きく見せるものといえる。
「収益」を大きく見せる方法として代表的なものは、架空取引である。理研ビタミン特別調査委員会が認定した、青島福生食品におけるエビ加工販売について認定された架空取引が、まさにこれに当たる。
「負債」を小さく見せる方法は、理屈上はありうるものの、実際にはあまり見られないようである[4]。
「費用」を小さく見せる方法としては、減価償却費の未計上や、決算期を跨いだ原価の先送り計上などが考えられる。
3 不適切会計の原因と影響
不適切会計は、必ずしも会計上会社をよく見せようとする目的を持って故意になされるものばかりではない[5]。青島福生食品における滞留在庫管理の不適切事案は、結果として棚卸資産の評価減の計上漏れという会計上の問題を引き起こしたが、在庫管理の担当者において意図的に古い在庫を隠ぺいしたものではなく、在庫管理における仕入日の記載を軽視していたことが原因である旨指摘されている。また、不適切会計の代表例である架空取引も、会社全体の業績をより良く見せるために行われる場合もあれば、営業担当者個人が自己の成績を良く見せるために、会計上の影響に思い至らず実行されることも少なくない。
しかし、仮に会社ぐるみではなく従業員個人の行為によるものであったとしても、不適切会計の影響は大きい。取締役の経営責任を問われることはもちろん、民事責任としては取締役の損害賠償責任が生ずる可能性があり(民法709条、会社法423条1項)、また、会社として金融庁から課徴金を課されるおそれもある(金融商品取引法172条の4第1項)。
さらに、不適切会計が発覚した際に適切に対応しなければ、会計監査人による監査意見の不表明や、ひいては上場廃止に陥る危険も小さくない。実際、理研ビタミンにおいても、前記加工エビ取引に係る不適切会計の発覚による2021年3月期第1四半期報告書の提出遅延により、本年10月15日付で監理銘柄(確認中)に指定された(同報告書提出後の同月29日付で同指定解除[6])。監理銘柄(確認中)に指定された後、1か月間指定解除がなされなければ、自動的に上場廃止になる。このように、不適切会計は、会社の上場廃止に直結する致命的な問題である。
会社としては、このようなリスクを抑えるために、従業員に対し、売上・原価の登録や在庫の管理などの日々行われる業務が会計上どういった意味を持つのかという点まで丁寧に指導し、帳簿の管理を適切に行うことの重要性を実質的に周知することが重要になる。また、不適切会計の兆候が発覚した際には、迅速かつ適切な調査対応が求められるので、できるだけ早めに弁護士等の専門家に相談することが肝要であろう[7]。
以 上
[1] 令和2年9月23日付「特別調査委員会の調査報告書の受領に関するお知らせ」理研ビタミンHP200923_1.pdf (rikenvitamin.jp)。
[2] 令和2年11月13日付「特別調査委員会の第二次調査報告書の受領に関するお知らせ」理研ビタミンHP20201113.pdf(rikenvitamin.jp)。
[3] 古田佑紀ほか編『法律家のための企業会計と法の基礎知識――会計処理と法の判断』(青林書院、2018)219頁以下参照。なお、脱税のために企業の状況を悪く見せる場合は、その逆の方法をとることになる(「資産」や「収益」を小さく見せる、「負債」や「費用」を大きく見せる)。
[4] 前掲注[3] 225頁。
[5] 有価証券報告書提出者において故意が認められた場合、虚偽記載罪が適用され、提出者個人は10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はその併科、会社は7億円以下の罰金に処せられる(金融商品取引法197条1項1号、207条1項1号)。
[6] 2020年10月28日付「当社株式の監理銘柄(確認中)指定解除に関するお知らせ」理研ビタミンHP(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/12/20201028-20.pdf)
[7] 端緒情報をきっかけに不正調査を進めることの重要性については、拙稿「端緒情報別・不祥事対応マニュアル」ビジネスロージャーナル2021年1月号22頁参照。
(やまな・じゅんいち)
岩田合同法律事務所アソシエイト。2010年東京大学法学部卒業。2012年東京大学法科大学院修了。2013年12月検事任官。東京地方検察庁、大分地方検察庁、千葉地方検察庁勤務を経て、2019年4月「判事補及び検事の弁護士職務経験に関する法律」に基づき弁護士登録。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
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