◇SH3552◇eスポーツを巡るリーガル・トピック 第8回 eスポーツにおける契約上の問題点(1)――大会参加契約・スポンサー契約・未成年との契約 長島匡克(2021/03/29)

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eスポーツを巡るリーガル・トピック

第8回 eスポーツにおける契約上の問題点(1)――大会参加契約・スポンサー契約・未成年との契約

TMI総合法律事務所

弁護士 長 島 匡 克

 

  1. 第 1 回 eスポーツを巡るリーガル・トピックの検討の前提として
  2. 第 2 回 eスポーツと著作権(1)――ゲームの著作物性とプレイ動画
  3. 第 3 回 eスポーツと著作権(2)――eスポーツの周辺ビジネスとゲームの著作権
  4. 第 4 回 eスポーツと著作権(3)――eスポーツ選手と著作権
  5. 第 5 回 eスポーツとフェアプレイ(1)――ドーピング等
  6. 第 6 回 eスポーツとフェアプレイ(2)――チート行為と法律――著作権を中心に
  7. 第 7 回 eスポーツとフェアプレイ(3)――チート行為と法律――その他の法令や利用規約を巡る論点
  8. 第 8 回 eスポーツにおける契約上の問題点(1)――大会参加契約・スポンサー契約・未成年との契約
  9. 第 9 回 eスポーツにおける契約上の問題点(2)――eスポーツにおける選手契約
  10. 第10回 eスポーツに係るその他の問題(eスポーツとSDGs等)

 

 第1回で述べたように、eスポーツに関するエコシステムは複雑である。そのため、その契約関係も多種多様に渡り複雑化する。例えば、(ア)ゲーム会社から大会主催者へのライセンス契約、(イ)大会主催者と配信事業者との配信権に係る契約、(ウ)大会主催者とチーム・選手との間の大会参加に係る契約、(エ)チームと選手の間の選手契約その他多数の契約が存在する。本稿では、紙幅の関係もあり、今回は①eスポーツの大会参加に関する契約、②スポンサー契約、③未成年者との契約について概観し、eスポーツの選手契約について次回検討することとしたい。

 

1 eスポーツの大会参加に関する契約

 eスポーツの大会運営者と参加者の関係は、参加規約等の契約において規律されるのが一般的である。当該参加規約には、大会への参加資格やルール、賞金額、肖像権を含む権利処理(二次利用を含む。)、禁止事項、違反の場合の制裁などが記載され、参加者はその遵守が求められる。前回触れたように、eスポーツにおけるフェアプレイを確保するためにチート行為に対する対応を参加規約等の契約で明記することは極めて重要である。

 以下では、eスポーツの大会参加に関する契約について、トーナメント型とリーグ型とに分けて検討する。

⑴ トーナメント型

 トーナメント型の大会は、複数日で開催される大会のみならず、一日で完結する小規模の大会もこれに含まれる。トーナメント型の大会は一般に広く門戸を開放するいわゆるオープン大会も多く、大会参加に関する契約は、大会運営者からみた場合、不特定多数をその相手方とすることが多い。したがって、大会主催者が用意する大会規約は、民法上の「定型約款」(定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部または一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。)において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体)に該当し、信義則に違反する不当な条項については契約の内容とならない等、民法の定型約款の適用を受けることになる(民法548条の2第2項)。また、消費者がその契約の相手方に含まれる場合には、消費者契約法等の消費者関連法令についても適用になるために、留意が必要になる。

⑵ リーグ型

 従来型スポーツのリーグシステムは、昇降格のあるオープンリーグ(例:Jリーグ)とそれのないクローズドリーグ(例:プロ野球)に分類される。それぞれのリーグシステムにはメリット・デメリットがあるが、eスポーツにおいてはクローズドリーグが多いように思われる。クローズドリーグは昇降格がない分、より長期に安定したチーム運営を計画でき、当該計画を前提とする資金調達が可能である点が理由の一つである。

 リーグ型においては、そのリーグ規約においてリーグとチームとの関係を規律する。リーグ規約においては、リーグへの参加の要件や禁止行為、選手の獲得及び移籍に関するルールや、チームの新加入及び脱退のルール、チームプロパティ(ロゴやユニフォーム等)に関する規定並びに選手の肖像権等の権利処理等が定められる。その中で、リーグ運営に必要な選手の権利(例えば、選手のプレイ中のパブリシティ権、肖像権等)については、チーム側に当該選手の権利処理の義務を課すまたは統一選手契約を締結させることで処理している。

 米国に目を向けると、NBA2Kリーグでは、新人選手の獲得に関してドラフトが行われたり、北米のLeague of Legendsのプロリーグ(NALCS)では選手のための選手会類似の任意団体(この点は次回詳論する。)が作られたりするなど、従来型スポーツと類似のリーグ設計がなされている点も多い。

 

2 スポンサー契約

 スポンサーからの収益は、現在のeスポーツ産業の主たるものであり、2019年時点でのチーム・大会へのスポンサー料や広告費といった「スポンサー」の割合は、全体の75.7%を占めている[1]。スポンサー契約の対象は、主にeスポーツ大会、チーム、選手個人での露出であり、大会会場でのバナー掲出、大会配信の際の広告配信やロゴの掲示、選手のユニフォームの広告掲示など、基本的には従来型スポーツにおけるスポンサー契約と同様である。

 eスポーツの特徴の一つとして、ゲーム影像における広告(インゲーム広告)があげられる。インゲーム広告は以前から存在するものの、ゲームをプレイするデバイスが多様化し消費者への露出の機会が増えており、Free-to-playのモデルにおける収入源としての重要性が強調されている。米国では、2019年に、アメリカンフットボールのeスポーツタイトルである「Madden NFL」においては、Pizza Hutがゲーム内ヴァーチャルスタジアムの命名権を獲得し話題となった。このように、スポンサーシップの対象も多様化し、新しい形態でのスポンサーシップが今後も現れてくることが予想される。

 また、各eスポーツ選手はゲームのプレイ動画等を配信するという収益手段が確保されており、選手個人にスポンサー契約がつきやすいという点も、eスポーツの特徴の一つであろう。プレイ動画の配信に関して、プラットフォーマーと人気の配信者が独占配信契約を締結することもある(このように、eスポーツチームに属している選手が個人的に稼げる手段が用意されていることから、チームとの利益衝突が起きやすい点について、次回指摘する。)。

 

3 未成年に関する契約問題

 eスポーツの選手やファンは未成年者が多い。そのため、選手契約、オンラインゲームのエンドユーザーライセンス、eスポーツの参加規約など、未成年者(本項執筆時点で20歳。民法4条1項。なお、2022年4月1日より、改正民法が施行され、同日以降からは18歳以上であれば成年とみなされる。)を相手方とする契約は避けて通れない。

  1.  ア 未成年との契約一般に関する規制
  2.   未成年者が法律行為をするには、その法定代理人である親権者の同意が必要であり(民法5条1項)、同意なき契約の締結は取り消しうる(民法5条2項)。そのため、未成年者と契約をする相手方は、この規制に留意する必要がある。
  3.   この点について、実務上は、「制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。」(民法21条)の規定の適用を意図して、例えば未成年の意思表示を禁止したり、具体的に未成年でないことを表明させること等により年齢確認を行い、未成年が成年として契約関係に入ることをもって「詐術」に該当し、取り消せないようにすべく対策をとっている例もみられる。しかし、「親の同意の必要性を明確に表示・警告した上で、未成年かどうかの判断の為に生年月日の記入欄を設けたが、虚偽の入力をした、というだけでは『人を欺く行為』に当たらない」とし、「事業者の設定した同意確認が容易にかいくぐれるものだったか等、総合判断が求められる」ため[2]、明確に取り消されるリスクを担保する手段はなく、当該リスクは依然として残ることになる。
  4.   したがって、未成年と具体的に取引に入る場合には、取り消されるリスクをとるのか、それとも明確な親権者の同意を得るべく対策を行うのか(その場合の同意の確認の仕方はどのようにするのか)などの検討が必要である。
  5.   この点、米国をはじめとして諸外国においては、未成年(多くの国や米国の州では18歳である)に関する同様の規制が存在する。
     
  6.  イ 未成年者の個人情報の取得
  7.   個人情報を取得・利用する場合、本人からの同意が求められる場合がある(個人情報保護法16条、23条等)。未成年の個人情報に係る同意能力は、個人情報保護法上明文の規定はないが、個人情報の取扱いに関して同意したことによって生ずる結果について、未成年者、成年被後見人、被保佐人及び被補助人が判断できる能力を有していないなどの場合(一般的には12歳から15歳までの年齢以下の子ども)は、親権者や法定代理人等から同意を得る必要がある点に留意が必要である[3] [4]
  8.   なお、米国では、13歳未満の児童のプライバシーの権利を守るためのChildren’s Online Privacy Protection Act(COPPA)が制定されている。同法は、13歳未満の児童を対象としたウェブサイト事業者やオンラインサービス事業者及び自らが収集する情報の主体が児童であることにつき「現実の認識(actual knowledge)」を有しているウェブサイト事業者やオンラインサービス事業者に適用になり、明確なプライバシーポリシーに加え、児童から個人情報を収集する前に、当該児童の親権者に対して直接通知をし、検証可能な親権者の同意(Verifiable Parental Consent)を得る必要があるなど、厳しい規制が課されている[5]。ゲームによっては13歳未満の児童を対象にするものもあるため、COPPAのような運用は参考になるであろう。
     
  9.  ウ 未成年者に対する賞金の支払い
  10.   未成年の選手に対する賞金の支払いについても、特に未成年者への賞金の支払いそのものを規制する法律はない。もっとも、未成年の「親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する」(民法824条)とされているため、その支払について一定の配慮が必要になるであろう。なお、ジャパン・eスポーツ・ジュニアライセンスの規定において、「ジュニアライセンス保持者は、・・・、予め賞金(報酬)を受領する権利を放棄するものとする」との記載があるため、原則として大会に出場しても賞金を受領することはできないとされているので[6]、ライセンスを取得する際には留意する必要がある。

第9回へつづく



[1] 株式会社KADOKAWA Game Linkage「2019年日本eスポーツ市場規模は60億円を突破。~KADOKAWA Game Linkage発表~」(https://www.kadokawa.co.jp/topics/4161

[2] 経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(2020年8月)76頁

[3] 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」平成28年11月(令和 3年1月一部改正)24頁

[4] 個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』及び『個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について』に関するQ&A」(平成29年2月16日 令和2年9月1日更新)A1-58において「法定代理人等から同意を得る必要がある子どもの具体的な年齢は、対象となる個人情報の項目や事業の性質等によって、個別具体的に判断されるべきですが、一般的には12歳から15歳までの年齢以下の子どもについて、法定代理人等から同意を得る必要があると考えられます。」との記載がある。

[5] “COMPLYING WITH COPPA: FREQUENTLY ASKED QUESTIONS” (https://www.ftc.gov/tips-advice/business-center/guidance/complying-coppa-frequently-asked-questions-0) Federal Trade Commission

[6] JeSU公認プロライセンス規約4.2.3条(2019年4月11日改定、施行)

 


(ながしま・まさかつ)

2010年早稲田大学法務研究科修了。2011年に弁護士登録。2012年からTMI総合法律事務所勤務。スポーツ・エンタテインメントを中心に幅広く業務を行う。2018年にUCLA School of Law (LL.M.)を終了。その後、米国・ロサンゼルス所在の日系企業及びスウェーデン・ストックホルム所在の法律事務所での研修を経て帰国。2020年カリフォルニア州弁護士登録。米国Esports Bar Association(EBA)の年次総会でパネリストとして登壇するなど、日米のeスポーツに関する知見を有する。eスポーツに関する執筆は以下のとおり(いずれも英語)。

TMI総合法律事務所 http://www.tmi.gr.jp/

TMI総合法律事務所は、新しい時代が要請する総合的なプロフェッショナルサービスへの需要に応えることを目的として、1990年10月1日に設立されました。設立以来、企業法務、M&A、知的財産、ファイナンス、労務・倒産・紛争処理を中心に、専門化と総合化をさらに進め、2021年1月1日現在、弁護士494名、弁理士85名、外国弁護士37名の規模を有しています。クライアントの皆さまとの信頼関係を重視し、最高レベルのリーガルサービスを提供できるよう努めております。

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