経産省、「公正なM&Aの在り方に関する指針」を策定・公表
――意見募集を経てMBO指針を全面改訂、同様にベストプラクティスとして提示――
経済産業省は6月28日、「公正なM&Aの在り方に関する指針-企業価値の向上と株主利益の確保に向けて-」を策定・公表した。
経産省では昨年11月に「公正なM&Aの在り方に関する研究会」(座長=神田秀樹・学習院大学大学院教授)の初会合を開き、2007年9月に策定した「企業価値の向上及び公正な手続確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」(以下「MBO指針」という)の見直しの要否およびその方向性について審議を開始。ここでは「親会社が上場子会社を完全子会社化する場合をはじめとする支配株主による従属会社の買収」など利益相反構造のあるM&Aに関しても検討を行うこととした(SH2202 経産省、「公正なM&Aの在り方に関する研究会」の初会合を開く(2018/11/20)既報)。
本年2月22日の第5回会合では検討中の論点に関し昨年12月28日から本年2月5日の間にかけて広く意見募集を実施したパブリックコンサルテーションの結果を紹介、さらなる論点整理・議論を行ったうえ(SH2418 経産省のM&A研究会、MBO指針改訂検討中の論点で意見募集結果を公表 (2019/03/22)既報)、4月5日の第6回会合からは取りまとめに向けた検討を開始。同月11日には経産省のウェブサイト上で、MBO指針を全面改訂する位置付けとなる「案」段階の「公正なM&Aの在り方に関する指針-企業価値の向上と株主利益の確保に向けて-」を明らかにし、最終となる第7回会合(4月19日開催)での検討を経て5月14日〜6月12日、意見募集を行っていたものである(SH2564 経産省、「公正なM&Aの在り方に関する指針―企業価値の向上と株主利益の確保に向けて(案)」に係るパブコメを開始(2019/05/28)既報)。
確定・公表された「公正なM&Aの在り方に関する指針-企業価値の向上と株主利益の確保に向けて-」(以下「M&A指針」という)は「第1章 はじめに」「第2章 原則と基本的視点」「第3章 実務上の具体的対応(公正性担保措置)」「第4章 おわりに」の全4章で構成。本文だけで全47頁となり、目次を含めて22頁建てとなっていたMBO指針と比較すると大部のものとなった。
M&A指針の冒頭では「MBOおよび支配株主による従属会社の買収を中心に、我が国企業社会において共有されるべき公正なM&Aの在り方として、原則論を含めた考え方の整理と、その考え方に基づいた実務上の対応について改めて提示することとし、ここにMBO指針を改訂し、本指針を策定する」と、その基本方針を示す(「1.1 本指針の策定経緯」参照)。また「1.3 本指針の位置付け」によると、「本指針で提示する原則論や実務上の対応等は、会社法上の明確な位置付けを行うことを直接意図して提示するものではなく、より広範な視点として、公正なM&Aの在り方に関して企業社会において共有されるべきベストプラクティスとして位置付けられるべきものである」とされた点、MBO指針と同様であり、新たな規制を課すものではない。
「2.3 M&Aを行う上での尊重されるべき原則」においては「第1原則:企業価値の向上」「第2原則:公正な手続を通じた一般株主利益の確保」を掲げており、MBO指針の「4. 論点の整理」「(1)MBOを行う上での尊重されるべき原則」と同様の文言とした。そのうえで、両原則の関係性について「まず第1原則を満たした企業価値の向上に資するM&Aであることを前提に、これを実施するに当たっては、第2原則に則り、公正な手続を通じて行われることにより一般株主利益が確保されるべきであるという関係に立つ」とし、このような「公正な手続を構成する実務上の具体的対応が公正性担保措置であ」るとして「第3章 実務上の具体的対応」において「公正性担保措置」を具体的に提示していく。
本指針において詳細に掲げられる公正性担保措置は、掲載順に次の6点。「3.2 独立した特別委員会の設置」「3.3 外部専門家の独立した専門的助言等の取得」「3.4 他の買収者による買収提案の機会の確保(マーケット・チェック)」「3.5 マジョリティ・オブ・マイノリティ条件の設定」「3.6 一般株主への情報提供の充実とプロセスの透明性の向上」「3.7 強圧性の排除」。ただし、「個別のM&Aにおける具体的状況に応じて、いかなる措置をどの程度講じるべきかが検討されるべきものであり、また、講じられる措置を全体として見て取引条件の公正さを担保するための手続として十分かどうかが評価されるべきものである」と明記されており、注意が必要である。
経産省では意見募集によって寄せられた意見に答えるかたちで示した「経済産業省の考え方」のなかでM&A指針の注1(本指針3ページ下段参照)に触れつつ、「本指針第3章において提示される公正性担保措置が実効的に講じられている場合には、『公正な価格』についての裁判所の審査においても、当事者間で合意された取引条件が尊重される可能性は高くなることが期待され、また、通常は、対象会社の取締役の善管注意義務及び忠実義務の違反が認められることはないと想定されることを踏まえると(本指針注1)、本指針が企業社会の関係者によって尊重されることは期待されると考えられます」と述べ、このようにして本指針の実効性も確保されるものと説明している。