東証、「公正なM&Aの在り方に関する指針」を踏まえた開示状況を取りまとめ
――指針公表後2回目の調査、充実した情報開示実務が浸透・定着と評価――
東京証券取引所は7月2日、2020年7月1日~2021年6月30日に公表された「上場廃止を企図したMBO」および「支配株主による従属会社の買収」に関する事例を対象として「公正なM&Aの在り方に関する指針」を踏まえた開示状況について調査した集計結果を発表した。
公正なM&Aの在り方に関する指針は2019年6月28日、従前のいわゆるMBO指針を全面改訂し、主にMBOおよび支配株主による従属会社の買収を対象として策定・公表された(SH2656 経産省、「公正なM&Aの在り方に関する指針」を策定・公表――意見募集を経てMBO指針を全面改訂、同様にベストプラクティスとして提示 (2019/07/10)既報)。「M&Aを行う上での尊重されるべき原則」として第1原則:企業価値の向上、第2原則:公正な手続を通じた一般株主利益の確保が導かれるとし、「公正な手続に関する基本的な視点」となる視点1:取引条件の形成過程における独立当事者間取引と同視し得る状況の確保、視点2:一般株主による十分な情報に基づく適切な判断の機会の確保を掲げたうえで、公正な手続を構成する実務上の典型的な対応を「公正性担保措置」として具体的に示したものである。
東証では本指針の公表後1年経過時点となる2020年6月30日、2019年6月28日(指針公表日)~2020年6月30日を対象期間とする公表事例29件(MBO:10件、支配株主による従属会社の買収:19件)について「『公正なM&Aの在り方に関する指針』を踏まえた開示状況集計」を発表。今般の集計はこれに続き2020年7月1日~2021年6月30日の公表事例37件を対象として取りまとめており、指針公表後2年目の状況が把握できるものとなる。指針上の公正性担保措置に基づき、開示事項として(1)特別委員会の委員の適格性に関する情報、(2)対象会社の取締役会による特別委員会の判断の取扱い、(3)特別委員会の検討経緯(受領情報、審議)に関する情報、(4)特別委員会によるアドバイザーの選任権限または対象会社のアドバイザーの承認もしくは指名・承認権限、(5)特別委員会による取引条件交渉過程への関与、(6)特別委員会の設置時期、(7)法務アドバイザーの選任時期、(8)特別委員会または算定機関による事業計画の確認状況、(9)委員の報酬体系、(10)算定機関の報酬体系について集計している。
今回対象となった公表事例はMBO:13件、支配株主による従属会社の買収:24件の計37件(東証のプレスリリースの末尾には参考資料として「集計対象とした事例一覧」が掲げられ、買収者・対象会社の当事者名を含む個別事例の確認が可能となっている)。集計結果によると、全事例となる37件において、集計対象とした開示事項のうち上記(1)特別委員会の委員の適格性に関する情報、(3)特別委員会の検討経緯(受領情報、審議)に関する情報、(5)特別委員会による取引条件交渉過程への関与、(6)特別委員会の設置時期、(8)特別委員会または算定機関による事業計画の確認状況――の5つの事項の開示がなされていた。2020年発表の前回集計で同様に全29件で開示されたのが(1)・(3)・(6)の3事項であったこととの比較においても開示状況の進捗が窺えるところである。
このような進捗はMBO事例に限ってみた場合にさらに顕著であり、全13件において上記(1)~(10)の10事項すべてが開示されるに至っている(前回集計におけるMBOの全10件中、すべての事例において開示された開示事項は(1)・(3)・(6)・(8)の4事項であった)。
個別の開示事項として大幅な進捗が確認できたのは、上記(2)対象会社の取締役会による特別委員会の判断の取扱い(今回集計:33件・89.2%、前回集計:17件・58.6%)、(9)委員の報酬体系(今回集計:34件・91.9%、前回集計:18件・62.1%)、(10)算定機関の報酬体系(今回集計:32件・86.5%、前回集計:18件・62.1%)であった。
一方、比較的低率の開示事項となっているのは上記(7)法務アドバイザーの選任時期であり、今回集計では全37件中29件での開示となっている(78.4%。前回集計では全29件中24件・82.8%)。
東証・上場部開示業務室では総評として、特別委員会に関する情報について集計対象とした事項すべてを開示している事例が前回集計では29件中11件(37.9%)であったのに対し、今回集計では37件中32件(86.5%)にのぼることに触れ、「『公正なM&Aの在り方に関する指針』に基づいて充実した情報開示を行う実務が浸透し、広く定着している状況が認められる結果となった」と評価している。