◇SH3693◇中国:個人情報保護法(草案二次審議稿)の公表(上) 川合正倫/鈴木章史(2021/07/26)

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中国:個人情報保護法(草案二次審議稿)の公表(上)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

弁護士 鈴 木 章 史

 

はじめに

 2021年4月29日に個人情報保護法(草案二次審議稿)(以下、「第二稿」という)が公表された。個人情報保護法草案は、2020年10月21日に草案一次審議稿(以下、「第一稿」という)が公表されており、第二稿は第一稿をベースに修正が加えられた草案である[1]。本稿では、第二稿において加えられた修正点のうち、中国関連の事業活動を行う企業に重要な影響があると思われる事項を中心に概説する。

 

1 同意なく個人情報を取り扱える事由の追加

 第一稿において、個人情報の収集、保存、使用、加工、伝達、提供、公開等の活動(総称して「個人情報の取扱い」という)を行う場合、個人情報の取扱者は、原則として、個人情報の主体から同意を取得することが必要とされており、かかる原則は第二稿でも維持されている(第一稿/第二稿13条1号)。ただし、一定の事由を満たす場合には、同意を得ることなく個人情報を取り扱うことが認められており、第一稿では以下の事由が規定されていた(第一稿13条2号乃至6号)。

  1. (ア) 個人が当事者となる契約の締結又は履行に必要な場合
  2. (イ) 法定の職責又は義務の履行に必要な場合
  3. (ウ) 突発的な公衆衛生事件への対応又は緊急時に個人の生命、健康及び財産の安全の保護のために必要な場合
  4. (エ) 公共の利益のためにメディア報道、世論監督等の行為を実施する際に合理的範囲内で個人情報を取り扱う場合
  5. (オ) その他、法律、行政法規が規定する場合

 第二稿では、上記事由は同内容で維持しつつ、新たに、「本法の規定に基づき公開された個人情報を合理的な範囲で取り扱う場合」(第二稿13条5号)が加えられた。個人情報保護法に則って適法に公開された個人情報については、改めて個人情報の主体から同意を取得する必要がないことを明確化する趣旨といえる。ただし、ここでいう「合理的な範囲」の意義は明確ではなく、今後の実務の動向を注視する必要がある。

 

2 同意の撤回に関する規定

 個人情報の取扱いに対する同意について、第一稿では、個人情報の主体は、一度同意した場合でも、その同意を撤回することが認められていた(第一稿16条)。第二稿では、かかる規定は維持しつつ、「同意の撤回は、同意の撤回前の個人情報の取扱者による取扱いの効力に影響を与えない」という規定が加えられた(第二稿16条2項)[2]。同意の撤回の効力が過去に遡及しないことを明確化した規定であり、仮に同意が撤回された場合でも、同意の存在を前提とした個人情報取扱者の過去の行為は違法とされないと考えられる。

 さらに、第二稿では、「個人情報の取扱者は、容易に同意を撤回する方法を提供しなければならない」という規定が加えられた(第二稿16条1項)。個人情報の取扱者としては、同意を取得した後も、個人情報の主体に対して容易に同意を撤回する方法を提供する手配を行うなど、事業者として一定の対応が必要となることに留意が必要である。

 

3 越境移転に係る標準契約の締結に関する規定

 個人情報の越境移転規制に関して、第一稿は、中国国内の個人情報を国外へ移転する際には、個人情報の取扱者に業務等の必要性がある場合で、かつ以下の条件のうち少なくとも1つの条件を具備する必要があるとしていた(第一稿38条)。

  1. (ア) 国家インターネット情報部門による安全評価に合格した場合
  2. (イ) 国家インターネット情報部門の規定に基づく専門機関による個人情報保護の認証を取得した場合
  3. (ウ) 国外の移転先と契約を締結し、双方の権利義務を合意し、その個人情報取扱活動が本法の規定する個人情報保護基準に達していることを監督する場合
  4. (エ) 法律、行政法規又は国家インターネット情報部門の規定するその他の条件を満たす場合

 第二稿では、上記の規定を維持しつつ、上記(ウ)の「契約」について「『国家インターネット情報部門が制定した標準契約に従った』契約」という限定が追加された。本改正は、GDPRの標準契約条項(SCC)と同じアプローチを採用したものであると評価されており、契約締結に際しては実務上、国家インターネット情報部門から公表される標準契約の利用が求められることになる。現時点においては、標準契約は公開されていないが、本法が成立し施行された後の実務運用とともにその動向を注視する必要がある。

(下)に続く

 


[2] 法的拘束力はないものの個人情報保護に関するガイドラインである個人情報安全規範の8.4条の注に同趣旨の規定があり、かかる規定を法的拘束力のある個人情報保護法に盛り込むことを意図する改正と考えられる。

 


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(かわい・まさのり)

長島・大野・常松法律事務所上海オフィス一般代表。2011年中国上海に赴任し、2012年から2014年9月まで中倫律師事務所上海オフィスに勤務。上海赴任前は、主にM&A、株主総会等のコーポレート業務に従事。上海においては、分野を問わず日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。クライアントが真に求めているアドバイスを提供することが信条。

 

(すずき・あきふみ)

2005年中央大学法学部卒業。2007年慶應義塾大学法科大学院修了。2008年弁護士登録(第一東京弁護士会)。同年都内法律事務所入所。2015年北京大学法学院民商法学専攻修士課程修了。同年長島・大野・常松法律事務所入所。2021年5月より中倫律師事務所上海オフィスに出向中。主に、日系企業の対中投資、中国における企業再編・撤退、危機管理・不祥事対応、中国企業の対日投資案件、その他一般企業法務を扱っている。

 

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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