◇SH3732◇最三小判 令和3年3月2日 不当利得返還請求事件(林道晴裁判長)

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 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律22条に基づくものとしてされた財産の処分の承認が同法7条3項による条件に基づいてされたものとして適法であるとされた事例

 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律22条に基づくものとして各省各庁の長から権限の委任を受けた機関により補助事業者等に対してされた補助金相当額の納付を条件とする間接補助事業等により取得された財産の処分の承認は、次の⑴~⑶など判示の事情の下では、補助事業者等は間接補助事業者等に対し事業により取得した財産の処分についての承認をしようとするときはあらかじめ上記機関の承認を受けなければならない旨の同法7条3項による条件に基づいてされたものとして適法である。

  1. ⑴ 同法22条に基づく承認は、これを得ることなく補助事業等により取得された財産が処分され、補助事業者等により補助金等の交付の目的に沿って使用されなくなる事態に至ることを防止することを目的とするところ、同法7条3項による上記条件に基づく承認も、これを得ることなく補助金の交付の目的が達成し得なくなる事態に至ることを防止することを目的とする。
  2. ⑵ 同法22条に基づく承認を得た上での財産の処分であれば、同法17条1項により補助金等の交付の決定が取り消されることはないのと同様に、同法7条3項による上記条件に基づく承認を得た上での財産の処分も、これにより補助金の交付の決定が取り消されることはない上、同法22条に基づく承認に際しては、補助事業者等において補助金等の全部又は一部に相当する金額を納付する旨の条件を附すことができるのと同様に、同法7条3項による上記条件に基づく承認に際しても、補助事業者等において交付された補助金の範囲内の金額を納付する旨の条件を附すことができる。
  3. ⑶ 同法22条に基づくものとして上記の財産の処分の承認をした機関において、仮に同条に基づき当該承認をすることができないという認識であった場合に、同法7条3項による上記条件に基づき承認をしなかったであろうことをうかがわせる事情は見当たらない。
  4. (補足意見がある。)

 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律7条3項、22条

 令和2年(受)第763号 最高裁令和3年3月2日第二小法廷判決 不当利得返還請求事件 破棄自判 民集登載予定 

 原 審:平成31年(ネ)第1777号 東京高裁令和元年12月5日判決
 第1審:平成28年(ワ)第403号 宇都宮地裁平成31年3月7日判決

1 事案の概要(後掲フロー参照)

 被告国は原告栃木県に対し、原告は宇都宮市に対し、市は事業実施事業者に対し、補助金2億6113万8000円を交付し、同事業者は同補助金を主要な財源として堆肥化施設(本件施設)を整備した。被告(関東農政局長)の原告に対する補助金の交付決定(本件交付決定)には、交付事業者である原告は「間接交付事業者に対し事業により取得し、又は効用の増加した財産の処分についての承認をしようとするときは、あらかじめ関東農政局長の承認を受けなければならない」との条件(本件交付決定条件)が附されていた。

 その後、申請を受けて、順次、関東農政局長が原告に対し、県知事が市に対し、市長が事業実施事業者に対し、本件施設に対する担保権の設定を承認し、担保権が設定された。さらに、申請を受けて、順次同様に、本件施設につき、担保権実行に際しての承認がされ、担保権実行により売却がされた。その際、原告は、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(法)22条に基づき、承認を申請したところ、関東農政局長は、国庫補助金相当額の納付を条件(本件附款)として承認(本件承認)し、その後、原告は、関東農政局長の国庫補助金相当額1億9659万0956円の納付の求めに応じ、同金額の納付(本件返納)をした。

 本件は、原告が、本件承認は法令上の根拠を欠き、本件附款も法的効力が認められないから、被告は本件返納により法律上の原因なく上記金額を利得したとして、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、同額の支払を求める事案である。

 本件においては、主として、本件承認の対象が何か、いわゆる違法行為の転換が認められるかが争点となった。

 

2 関連訴訟

 本件で問題となった一連の補助金の交付を巡っては、①栃木県が宇都宮市に対して補助金相当額の返還を求めた訴訟、②本件返納が違法であることを理由として栃木県知事が県知事個人に対して損害賠償請求をするよう求めた住民訴訟があった。

 上記①については、第1審(宇都宮地判平成27・3・4判例自治413号28頁)、控訴審(東京高判平成27・7・15判例自治413号23頁)ともに、県の市に対する交付決定においては、事業実施事業者による財産処分に際して県の承認を要する旨の条件が附されておらず、また、栃木県補助金等交付規則は事業実施事業者による財産処分に適用等されないから、県の市に対する承認には法令上の根拠がなく、その附款を根拠に補助金相当額の返還を求めることはできないなどとして、県の請求を棄却すべきものとした。これについては、上告受理申立てがされたが、不受理決定がされた(最二小決平成28・4・15)。したがって、県と市との間では、市に補助金相当額の返還義務がないことが確定している。

 上記②については、第1審(宇都宮地判平成28・3・23判例自治413号35頁)は、本件承認は法22条に基づいてされているが、同条に基づいてすることはできず、また、担保権実行の際に同条に基づく承認は必要ないから、本件承認には法令上の根拠がなく、その附款として付された本件附款にも効力を認めることはできないとして、本件返納が違法であり、県知事は責任を負うとして請求を認容した。控訴審(東京高判平成29・1・26判例自治431号24頁)は、第1審と同様の理由により本件返納は違法であるが、県知事に過失はないとして請求を棄却した。上告及び上告受理申立てがされたが、棄却兼不受理決定がされた(最三小決平成29・6・27)。この棄却兼不受理決定は、原判決に民訴法312条1項及び2項所定の上告理由がなく、また、同法318条1項所定の法令の解釈に関する重要な事項を含むとはいえないなどとしてされたものであり、控訴審判決の判断内容自体について最高裁が是認したものではないから、最高裁として、本件返納が違法である旨を判断したものではない。

 

3 第1審・原審の判断等

 ⑴ 第1審は、次のとおりの骨子により、本件承認は法的に不存在であり、その附款である本件附款を根拠とする納付の求めも法的に不存在であるとして、原告の請求を認容した。

 本件承認は、法22条に基づいてされたものであるところ、同条は、間接補助事業者等である事業実施事業者のする本件施設の財産処分には適用されず、本件承認には根拠法を誤った瑕疵がある。もっとも、本件承認は、いわゆる違法行為の転換により、法7条3項を根拠にされたものと読み替えることができ、これに附された本件附款が、法の趣旨に照らして違法・無効とはいえない。

 しかしながら、本件承認は、本件施設の担保権実行による所有権の移転を対象としてされたものであり、担保権実行についての承認は不必要なものであって承認としての法的意味が認められないから、法的に不存在なものと評価される。

 ⑵ 原審は、第1審判決と同様に、本件承認は根拠法条を誤ったものであるとした上、要旨次のとおり判断して、原告の請求を認容すべきものとした。

 いわゆる違法行為の転換の理論により、本件承認が法7条3項による本件交付決定条件を根拠としてされたものとして法的根拠のある行政行為とすることはできない。また、本件交付決定条件において、担保権設定者の意思が介在しない担保権の実行は承認の対象とならないと解されるところ、本件承認は本件施設の担保権の実行による所有権移転を対象としてされた法的根拠を欠く無効なものであって、これに附された本件附款も無効であるから、いずれにしても本件返納は法律上の原因なくされたものといえる。

 ⑶ 論旨(排除されたものを除く。)は、①本件承認は本件施設の目的外使用を対象としてされたものであるのに、その対象を本件施設の担保権実行による所有権移転であるとした点で、原判決には、本件承認という行政行為の解釈の誤りがある、②本件承認については、いわゆる違法行為の転換により、その根拠を法22条から法7条3項による本件交付決定条件と読み替えることができ、有効と考えられるのにそのように解さなかった原判決には、違法行為の転換に係る法令解釈の誤りがあるというものである。

 

4 本判決の概要

 第三小法廷は、本件承認の対象は、本件施設の目的外使用であるとした上で、判決要旨のとおり判断して、本件承認は法7条3項による本件交付決定条件に基づいてされたものとして適法であるということができるとし、原判決を破棄し、第1審判決を取り消して原告の請求を棄却した。これは、本件において、いわゆる違法行為の転換を認めたものであると考えられる。

 

5 説明

 ⑴ 本来されるべきであった本件承認の根拠等

 ア 法は、国が直接交付する「補助金等」などと、補助金等を財源とするが国が直接交付するものではない「間接補助金等」などを別のものとして定義している(2条)。本件承認は、法22条を根拠としてされているが、同条は、「補助事業者等」、「補助事業等」、「補助金等」についての規定であるから、「間接補助事業者等」である本件の事業実施事業者がする財産処分については適用されないと解される。

 もっとも、本件交付決定には、交付事業者である原告が「間接交付事業者に対し事業により取得し、又は効用の増加した財産の処分についての承認をしようとするときは、あらかじめ関東農政局長の承認を受けなければならない」との法7条3項による本件交付決定条件が附されており、関東農政局長は、市が事業実施事業者による財産処分を承認することについて承認を求められた原告に対しては、本件交付決定条件に基づき承認すべきであったといえる。

 イ 法22条の趣旨は、補助金等により形成された財産の処分について一定の規制を行い、もって補助金等の交付の目的が完全に達成されるよう特に配慮したものであると解され、同条における各省各庁の長の承認は、禁止の解除の効果を持つ独立の行政行為であり、講学上の許可に相当するところ、「補助金等の全部又は一部に相当する金額を国に納付すること」等の条件を附すことも可能であるとされている。また、補助事業者等が同条の規定に違反して補助目的外の処分を行ったときは、法11条1項の事業遂行義務に対応して定められた法17条1項及び3項の規定に基づき、交付決定が取り消されることとなる(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版増補第二版〕』(全国会計職員協会、2016)245、296頁、青木孝徳編『補助金等適正化法講義』(大蔵財務協会、2015)113頁)。

 法22条は、国と補助事業者等との関係についての規定であるが、間接補助事業者等であっても、これと実質的に同一の規制を及ぼす必要があり、そのためには、補助事業者等が間接補助事業者等に間接補助金等の交付決定をする際に、「間接補助事業等により取得し、又は効用の増加する財産の処分については、補助事業者等の承認を受けるべき」旨の間接補助条件を附さなければならないという補助条件を附すことが必要であるとされている(前掲青木117頁)。

 ウ 本件承認は、本来法7条3項による本件交付決定条件に基づきされるべきであったところ、これは、法22条に基づく承認と同様、行政行為であり、補助金相当額の返納という条件を附すことも可能であると解され、これは講学上の「附款」のうち、「負担」に分類されるものと考えられる。

 本件返納は、本件承認に本件附款が附されていたことから、関東農政局長が原告に対して国庫補助金相当額の納付を求めたのに応じてされたものであるが、この納付の求め自体が行政処分として返納義務を発生させるものではなく、行政行為である本件承認に附された上記の「負担」である本件附款により返納義務が発生すると考えられる。

 ⑵ 本件承認の対象

 間接補助金等により取得等した財産につき、担保権設定の段階で、将来の担保権実行に伴い目的外使用の状態に至ることについても含めて、本件交付決定条件に基づき承認をすることは可能であると解されるが、本件においてそのような主張はされておらず、そのような事情はうかがわれない。そして、本件承認は、処分区分を「目的外使用(補助事業を中止する場合)」としてされた申請に対してされたものであるから、本件施設の目的外使用を対象としてされたものと解される。

 本件承認の対象につき、原判決は、法22条の解釈を踏まえて、担保権実行に伴う所有権移転であるとしたところ、本判決は、これは単なる事実認定ではなく、行政行為の解釈の問題であるという認識の下に、目的外使用であると判断したものと考えられる。

 なお、担保権設定者の意思に基づく財産の処分に民事上の効果を発生させるために、法22条に基づく承認が要求されるとすれば、担保権実行に伴う所有権移転については、担保権設定者の意思に基づくものではないから、承認の対象とならないとする立場も考えられよう。しかし、担保権実行が手続に従ってされた以上、承認の有無にかかわらず所有権は移転すると考えられるのであって、法22条に基づく承認や、本件交付決定条件に基づく承認は、そのような民事上の効果の発生という観点から要求されるものではない。すなわち、法22条に基づく承認は、補助金等により取得等された財産について、各省各庁の長の承認を得ることなくその処分がされることを防止し、もって補助金等の交付の目的が完全に達成されるよう特に配慮したものであるところ、本件交付決定条件に基づく承認も同様の趣旨によるものと解される。法22条に基づく承認や、本件交付決定条件に基づく承認は、いわば事業実施事業者の善管注意義務を解除する効果を持つものであって、これは補助金等又は間接補助金等により取得等された財産の処分の民事上の効果の有無に関わるものではない。

 ⑶ 違法行為の転換

 ア 違法行為の転換とは、当初、Aとしてされた行政行為が、Aとして必要な要件を欠いているためにAとしては違法であるが、Bの行政行為の要件は充足している場合、これをBとして存続させることをいう(宇賀克也『行政法概説Ⅰ〔第7版〕』(有斐閣、2020)384頁)。

 最高裁判例においては、違法行為の転換を認めたものとして、自作農創設特別措置法関係の事案である最二小判昭和29・2・19民集8巻2号536頁、最大判昭和29・7・19民集8巻7号1387頁がある。これに対し、違法行為の転換を認めなかったものとしては、同じく自作農特別措置法関係の事案である最一小判昭和28・12・28民集7巻13号1696頁、最一小判昭和29・1・14民集8巻1号1頁や、租税関係の事案である最二小判昭和42・4・21集民87号237頁がある。

 違法行為の転換が認められるには、行政行為の内容に関して、①転換前の行政行為と転換後の行政行為の具体的な目的が同一であること、②転換後の行政行為の法効果が転換前の行政行為の法効果より、関係人に不利益に働くことにならないこと、③行政庁が仮に転換前の行政行為の瑕疵を知ったとしても、その代わりに転換後の行政行為を行わなかったであろうと考えられる場合でないことを挙げる学説がある(山本隆司「違法行為の転換」宇賀克也ほか編『行政判例百選Ⅰ〔第7版〕』(別冊ジュリ235号)(有斐閣、2017)176頁)。

 イ 本判決は、判決要旨 ⑴ ~ ⑶ で掲げられているように、①法22条に基づく承認と法7条3項による本件交付決定条件に基づく承認は、目的を共通にすること、②法22条に基づいてされた本件承認を法7条3項による本件交付決定条件に基づいてされたものとすることは、原告にとって不利益にならないこと、③関東農政局長が法22条に基づいて本件承認をすることができないという認識であった場合に、法7条3項による本件交付決定条件に基づく承認をしなかったであろうとはいえないことを指摘した上、本件承認は、法7条3項による本件交付決定条件に基づいてされたものとして適法であるということができるとしている。

 本判決は、違法行為の転換が認められる要件を一般的な形で示してはいないが、上記の判断は、上記アで指摘した従前の最高裁判例や学説を踏まえ、本件において違法行為の転換を認めたものであると考えられる。

 ⑷ 本判決には、本件承認の対象と違法行為の転換についての宇賀裁判官の補足意見が付されている。このうち、違法行為の転換については、上記 ⑶ の3要件は、違法行為の転換が認められるために必要なものであるが、これらを満たす場合であっても、事案によっては他の要素を考慮することにより、違法行為の転換が認められない場合もあることを指摘するとともに、従前の最高裁判例を踏まえて本件において違法行為の転換を認めたもので、これが認められる場合を拡大するものではないというものである。

 

6

 本判決により、被告と原告との間では、補助金相当額は原告が負担すべきこととなり、原告と市との間では、関連訴訟において原告の請求が棄却されて確定しているため、原告は市に対して補助金相当額を請求することができず、結局のところ、原告が補助金相当額を負担すべきこととなった。関連訴訟において、原告の請求が棄却されたのは、担保権実行の際に原告が市に対してした承認につき、県知事による交付決定において承認を要する旨の条件が附されておらず、また、栃木県補助金等交付規則もその根拠とならなかったため、法的根拠がないとされたためである。仮に、県知事による交付決定の際に承認を要する旨の所定の条件を附し、これに基づき承認する際に、県による補助金相当額の返納を条件として附していれば、原告は市に対して補助金相当額を請求することができたのではないかと考えられる。

 本判決は、違法行為の転換につき、自作農創設特別措置法関係の事案等のかなり古い最高裁判決はあったものの、最近の事案は見当たらない中で、これを認めたものであり、理論的にも実務的にも重要な意義を有すると考えられる。

 

事案の概要

 

 

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