SH3794 東証、SPAC制度の在り方等に関する研究会(第1回)を開催 廣瀬卓生/樋口航(2021/10/19)

組織法務資本市場・IPO

東証、SPAC制度の在り方等に関する研究会(第1回)を開催

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業

弁護士 廣 瀬 卓 生

弁護士 樋 口   航

 

1 はじめに

 株式会社東京証券取引所(以下「東証」という。)は、2021年10月1日、SPAC制度の在り方等に関する研究会(以下「SPAC研究会」という。)の第1回を開催した。この研究会は、2021年6月18日付で閣議決定された成長戦略実行計画(以下「成長戦略実行計画」という。)において、SPAC制度の検討が挙げられたことを受けて設置されたものと考えられる。

 SPAC制度とは、米国において発展を遂げてきた上場スキームであり、非上場企業の買収を目的として株式市場に上場される特別買収目的会社(Special Purpose Acquisition Company = “SPAC”)による買収という形をとることによって、買収対象会社(主としてスタートアップ企業が想定されている。)の上場が達成される仕組みをいう。SPAC制度の下での上場のプロセスとしては、米国において一般的なプラクティスに倣い、概ね以下のような流れが想定されている(成長戦略実行計画22頁および23頁を参照)。

  1. ① 企業の目利き能力を持つ運営者がSPACを設立。
  2. ② 運営者は、SPACを株式市場に上場し、最初の資金調達を行う。
  3. ③ SPAC上場後、運営者は、買収先候補の対象会社(スタートアップ企業)を選び、買収を交渉。
  4. ④ 運営者は、買収についてSPACの株主総会で提案し、株主(一般投資家を含む。)の承認を得る。
  5. ⑤ 上場により一般投資家から調達した資金は信託しなければならず、一般投資家は買収に反対であれば資金の返還を受けることができるなど、投資家保護の仕組みがある。なお、買収が実施される際には、機関投資家等から追加の資金調達が行われる。
  6. ⑥ SPACに買収されることにより、対象会社が実質的に上場を果たす形となる。

 

2 SPAC制度の意義

 買収の対象会社となるスタートアップ企業にとって、SPAC制度の最大の特徴は、上場時の株式価格(公開価格)の決定方法にある。すなわち、現状の新規上場時の公開価格の決定方法につき、成長戦略実行計画は、「公開価格が低すぎることで資金調達額が少なくなる現在の上場の問題」(成長戦略実行計画23頁)を指摘している。SPAC制度においては、上場時の価格はスタートアップ企業とSPACとが合意して決定することになるため、この問題を解決する手法になり得るとの期待があるようである(成長戦略実行計画23頁参照)。この問題の有無については措くとしても、今年に入ってから、日本企業がSPACのスキームを利用して海外に上場した事例(ネクストミーツ)や、日本のスタートアップ企業を買収対象とするSPACがナスダック市場に上場された事例(Evo Acquisition CorpおよびPono Capital Corp)など、海外市場を用いる動きも見られるところであり、日本におけるSPAC制度の導入は、わが国のIPO市場の維持と活性化という、ディフェンスとオフェンス双方の意義を持つように見える。また、海外のSPAC制度と並べたときに利点があるものとなれば、海外のスタートアップ企業を日本市場に呼び込む有力な契機ともなり得よう。

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(ひろせ・たくお)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業パートナー。1995年東京大学法学部卒業。1997年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2003年米国Northwestern University School of Law(LLM)修了。2004年ニューヨーク州弁護士登録。国際金融取引、企業買収等の渉外実務をはじめ、国内実務も含めた企業法務全般を幅広く手がける。投資銀行での執務、社外役員としての経験も踏まえ法務面から企業経営への多面的な助言を行う。

 

(ひぐち・わたる)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業パートナー。2002年一橋大学法学部卒業。2005年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2011年米国Columbia Law School(LLM)修了。2012年ニューヨーク州弁護士登録。多様なファイアンス案件を取り扱い、金融規制法務も手がけるファイナンス分野のスペシャリスト。東京証券取引所での執務経験をもとに、IPO関連取引・ビジネスも多数取り扱っている。

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/

<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。

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