SH3889 公取委と経産省、「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針(案)」の意見募集を開始 矢上浄子(2022/01/25)

取引法務競争法(独禁法)・下請法

公取委と経産省、「スタートアップとの事業連携及び
スタートアップへの出資に関する指針(案)」[1]の意見募集を開始

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業

弁護士 矢 上 浄 子

 

1 本指針の策定の経緯

 近年、大企業がスタートアップと連携して新たな価値を創造する、いわゆるオープンイノベーションが重要視されている[2]。しかしながら、日本においては成長するスタートアップが少なく、時価総額10億ドル超の「ユニコーン」と呼ばれる未公開企業の数は、米国274社、中国123社、欧州67社であるのに対して、日本は4社に留まっている(2021年3月1日現在)[3]。ウィズコロナ・ポストコロナの世界のダイナミズムの中で、日本においても、成長の担い手となるスタートアップを創出するエコシステムの整備が急務となっている。

 他方、スタートアップからは、大企業と共同研究を行う際に、大企業から一方的な契約上の取決めを求められるといった実態も指摘されていた。そこで、まずは経済産業省や特許庁において、スタートアップの実態調査・研究、モデル契約書の作成等の取組みが進められた[4]。公正取引委員会においても、スタートアップの取引慣行の実態を明らかにするための調査が実施され、2020年11月27日、かかる調査の結果と独占禁止法上の評価等が「スタートアップの取引慣行に関する実態調査報告書」(以下「スタートアップ調査報告書」という。)として公表された[5]

 公正取引委員会と経済産業省は、これらの取組みや調査報告の内容、さらに2020年12月23日に公表された「スタートアップとの事業連携に関する指針(案)」に対して寄せられた各方面からの意見も踏まえ、2021年3月29日に「スタートアップとの事業連携に関する指針」(以下「事業連携指針」という。)の公表に至っている[6]

 もっとも、事業連携指針は、スタートアップと連携事業者との事業連携における問題点に焦点が置かれたもので、スタートアップ調査報告書において指摘されていたスタートアップへの出資をめぐる問題点は盛り込まれていなかった。しかしながら、スタートアップへの出資は件数、金額とも年々増加しており、スタートアップの成長を育むエコシステムの形成のためにも、スタートアップとその出資者である大企業やベンチャーキャピタルとの関係の適正化を図ることが不可欠となっている。成長戦略実行計画(2021年6月18日閣議決定)においても、スタートアップと出資者との契約の適正化に向けて、新たなガイドラインを策定することとされている[7]

 これを受けて、公正取引委員会と経済産業省は、事業連携指針を改正し、「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」を策定するため、今回の意見募集を行うこととなったものである(以下、意見募集のために公表された指針案を「本指針案」という。)。

この記事はプレミアム向け有料記事です
ログインしてご覧ください


(やがみ・きよこ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業パートナー。2000年中央大学法学部卒業、2001年米国テンプル大学ロースクール(北京校)修了、2002年中国政法大学国際経済法系修士課程修了、2007年早稲田大学大学院法務研究科修了。2002年ニューヨーク州弁護士登録、2008年弁護士(第二東京)登録。2018-2020年神戸大学大学院法学研究科非常勤講師。主に独占禁止法、クロスボーダー取引の分野でアドバイスを行う。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/

<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。

<連絡先>
〒100-8136 東京都千代田区大手町1-1-1 大手町パークビルディング

タイトルとURLをコピーしました