中国:債権回収の新制度の活用及び実務上の留意点(上)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 鹿 はせる
中国弁護士 季 菲 菲
日系企業は中国において取引先からの債権回収の困難に直面することが少なくない。一般的に、取引先からの債権回収を確保するためには、①取引前及び最中における紛争予防としてとれる手段、②取り立て困難が発生した後の紛争解決手段としてとれる手段の双方を講じる必要がある。紛争予防の手段としては、取引相手方についての信用調査[1]、契約条項の規定(所有権留保、違約金条項など)、保証人や担保の取得、相手方の信用状況のモニタリング等が考えられる。
しかし、これらの紛争予防手段を講じたとしても、債権回収の困難が現実化した場合には、紛争解決手段として、訴訟又は仲裁を提起することが求められる。取引の相手方が中国に所在する場合は、中国の裁判所を通じた強制執行が必要となる。日系企業は、一般的に海外の裁判所を通じた紛争解決を嫌い、とりわけ中国における執行手続等の債権回収に対しては「困難」「面倒」の印象を持ち、利用を躊躇する傾向にある。
この点、近年中国では、国内でも問題視されていた強制執行の困難(中国語で「執行難」と呼ばれる)[2]を解決する手段としていくつかの制度の施行を強化する傾向がある。実際に弊所が関与した案件においても、工夫次第では使い勝手が良く、債権回収に役立った経験が少なくない。以下ではそれら制度の概要及び実務上の留意点を説明する。
1 信用喪失者公表制度
信用喪失者公表制度は「最高人民法院による信用喪失被執行人リスト情報の公表に関する若干規定」[3](「信用喪失者若干規定」)に定められており、その客観的要件、申立者、リスト掲載期限及び影響は以下のとおりである。
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(ろく・はせる)
長島・大野・常松法律事務所東京オフィスパートナー。2006年東京大学法学部卒業。2008年東京大学法科大学院修了。2017年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)。2018年から2019年まで中国大手法律事務所の中倫法律事務所(北京)に駐在。M&A等のコーポレート業務、競争法業務の他、在中日系企業の企業法務全般及び中国企業の対日投資に関する法務サポートを行なっている。
(Feifei・Ji)
日本長島・大野・常松律師事務所上海オフィス顧問。2015年華東政法大学外国語学部(日本語専攻)、法学部(第二専攻)卒業、2018年華東政法大学大学院修了(法学修士)。現在長島・大野・常松法律事務所上海オフィスの顧問として一般企業法務、M&A及び企業再編、紛争解決を中心に幅広い分野を取り扱っている。(※中国法により中国弁護士としての登録・執務は認められていません。)
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