新しい資本主義実現会議「新たな事業再構築のための
私的整理法制検討分科会」の初会合が開かれる
――債権者の多数決決議と裁判所の認可による「私的整理円滑化」法案が国会提出へ――
新しい資本主義実現会議の下に設置された「新たな事業再構築のための私的整理法制検討分科会」(分科会長・神田秀樹学習院大学大学院法務研究科教授)の第1回会合が10月27日、開催された。会合資料として確認できる「新たな事業再構築のための法制度の方向性(案)」については翌28日、新しい資本主義実現本部事務局において任意の意見募集に付されている(11月26日まで)。
新しい資本主義実現会議(議長・首相)の下には11月8日現在、(ア)資産所得倍増分科会(10月17日・同会議議長決定。分科会長・新しい資本主義担当大臣)、(イ)スタートアップ育成分科会(10月14日・同会議議長決定。分科会長・新しい資本主義担当大臣兼スタートアップ担当大臣)とともに(ウ)新たな事業再構築のための私的整理法制検討分科会(10月27日・同会議議長決定)の3つの分科会が設置されている。いずれも今年6月7日の閣議決定「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」を踏まえて検討を進めるもので、今般開かれた(ウ)の分科会は「新たな事業再構築のための私的整理円滑化法案の国会提出に向けて検討を行う」位置付けとなっている。
本分科会の構成員は(i)分科会長を始め、新しい資本主義実現会議の有識者議員でもある(ii)株式会社日本総合研究所理事長および(iii)株式会社経営共創基盤グループ会長ほか、(iv)森・濱田松本法律事務所弁護士、(v)一橋大学大学院教授(長島・大野・常松法律事務所顧問)の計5名。オブザーバーとして(a)内閣官房新しい資本主義実現本部事務局参事官、(b)金融庁監督局長、(c)法務省民事局参事官、(d)経済産業省経済産業政策局産業組織課長が参画し、分科会の庶務は「金融庁、法務省及び経済産業省の協力を得て、内閣官房新しい資本主義実現本部事務局において処理する」ものとされた。
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上記・6月7日閣議決定のうち早期実施の必要がある重点事項について新しい資本主義実現会議では10月4日、「『新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画』の実施についての総合経済対策の重点事項」を取りまとめているところ、本分科会の検討対象は当該重点事項Ⅱ3の「(2)事業再構築のための私的整理法制の整備」に相当する。本項目には「我が国企業が事業再構築を容易に行うため、債権者の全員同意を求めず、債権者の多数決決議と裁判所の認可により私的整理(債務整理)ができるよう、事業再構築のための私的整理円滑化法案について、次期通常国会に提出することを検討する」との記載がみられるところである。
10月27日の会合資料「新たな事業再構築のための法制度の方向性(案)」によると(α)日本企業の債務残高はコロナ禍前に比べて70兆円以上増加するなど債務状況の悪化が収益性向上のための事業活動の足かせになっていること、(β)現在の私的整理ではすべての貸し手の同意がなければ債務の減免などの権利変更ができず、早期かつ迅速な事業再構築が行いづらいという課題が存在すること、(γ)欧州各国においてはすべての貸し手の同意は必要とせず、裁判所の認可の下で多数決により金融債務の減額など権利変更を行う制度も存在すること――を背景とし、わが国においても(1)「経済的に窮境に陥るおそれ」のある事業者の(2)「事業再構築」について(3)「債権者の多数の同意と裁判所の認可」による円滑化を図る。
上記(1)につき「方向性(案)」では「資金繰りが困難となるおそれがあるなど、事業の継続に支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することが困難となるおそれがあるとき」を想定。(2)事業再構築については「新分野展開、業態転換、事業構造の変更その他の収益性の向上のための事業活動及びこれに必要な債務整理を行うこと」と定義したうえで、より具体的には次のような事業活動を想定しているとする。①「新製品の製造等による新たな市場・事業分野への進出(新分野展開)であって、新製品等による売上高が総売上高の相当程度を占めることが見込まれるもの」、②「製品の製造方法等の変更(業態転換)であって、新たな製造方法等による売上高が総売上高の相当程度を占めることが見込まれるもの」、③「新分野展開や業態転換を伴う出資の受入れ、事業又は資産の譲受け又は譲渡、保有する施設・設備の相当程度の撤去・廃棄、他の会社の株式等の取得、子会社の株式等の譲渡、組織再編等」。
上記(3)「債権者の多数の同意と裁判所の認可」による円滑化とは、再構築計画(事業再構築に関する条項を定めた計画)について、①主務大臣の指定を受けた第三者機関(指定法人)が事業再構築の方向性等を記載した再構築概要書や対象債権、債務調整の必要性、再構築計画案成立の見込みなどを確認し、このような指定法人の関与・確認を経て、②指定法人の招集・主宰による対象債権者集会において再構築計画案の決議を得る。対象債権者の多数決について、本「方向性(案)」では「例えば、総議決権の2/3以上の議決権を有する対象債権者の同意」と例示されている。
③対象債権者集会における決議可決後は、事業者において裁判所に計画認可の申立て。裁判所は「指定法人及び債権者の意見の陳述を聴取しつつ、後見的に決議の瑕疵(手続の法令違反、詐欺的な方法等の決議の公正性を損ねる点が無いか)や清算価値保障を判断する」ものとされ、再構築計画の効力は裁判所の認可により生じる。なお「全員同意の場合は、裁判所の認可無しで効力が生じる」こととされる。
全体で4頁建てとなる「方向性(案)」にはその末尾において、上記(3)の新たな手続につき「手続フロー図」が織り込まれている。意見提出に際しては本文と併せて参考とされたい。
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