SH4317 意外に深い公益通報者保護法~条文だけではわからない、見落としがちな運用上の留意点~ 第11回 公益通報の種類・範囲(5) 金山貴昭(2023/02/20)

組織法務公益通報・腐敗防止・コンプライアンス

意外に深い公益通報者保護法
~条文だけではわからない、見落としがちな運用上の留意点~ 

第11回 公益通報の種類・範囲(5)

森・濱田松本法律事務所

弁護士 金 山 貴 昭

 

Q 公益通報の順序を規定することの適否

 リスク管理の観点から、当社の内部規程では、当社従業員に対して、通報の順番として、まず内部公益通報をしてからでないと、行政機関や報道機関等への外部公益通報をしてはならないと定めていますが、このような規定を設けることは問題ないでしょうか。

 

A 【ポイント】

公益通報者保護法では、公益通報の要件を満たす限り、内部公益通報と外部公益通報は前後関係なく公益通報することができることとされており、まず内部公益通報をするよう公益通報の順序を強制することは、同法の趣旨に反します。加えて、事業者がこのような規程を作成した場合は、その他の事業者外部への公益通報の保護要件の一つである「役務提供先から前二号に定める公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合」(法3条3号ニ)にも該当し得ます。

 

【解説】

 公益通報者保護法では、通報先として、➊事業者内部、❷行政機関、❸その他の事業者外部を規定していますが、これらの通報先への公益通報の順番に関する規定はなく、通報者は、これらの通報先に対して、順番を問わずに公益通報することができます。なお、同法は、これらの通報先ごとに、公益通報者として保護されるための要件を定めており(法3条各号及び6条各号)、その他の事業者外部への公益通報の場合の保護要件として、「書面により第一号に定める公益通報(筆者注:事業者内部への公益通報)をした日から二十日を経過しても、当該通報対象事実について、当該役務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該役務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合」(法3条3号ホ)を規定しています。この要件は、事業者内部への公益通報を行った後にその他の事業者外部への通報を想定した規定ですが、あくまでその他の事業者外部への公益通報の保護要件の一つであり、事業者内部への公益通報とその他の事業者外部への通報の順番を定めたものではありません。

 また、公益通報者保護法は公益通報をしたことを理由として、公益通報者に対し不利益な取扱いをすることを禁止しています(法5条等)。そして、公益通報者保護法は、通報する順序は設けておらず各通報先への公益通報の保護要件を満たしている限り公益通報ができることとしています。そのため、公益通報の順序を強制する内部規程を設け、それに反した場合に懲戒処分等の措置を講じる場合には、当該懲戒処分等は不利益な取扱いに該当し、公益通報者保護法違反となると考えられます。

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(かなやま・たかあき)

弁護士・テキサス州弁護士。2008年東京大学法学部卒業、2010年東京大学法科大学院卒業、2019年テキサス大学オースティン校ロースクール(L.L.M.)修了。2011年弁護士登録(第二東京弁護士会)、2019年テキサス州弁護士会登録。2021年消費者庁制度課(公益通報制度担当)、同参事官(公益通報・協働担当)出向。
消費者庁出向時には、改正公益通報者保護法の指針策定、同法の逐条解説の執筆等に担当官として従事。危機管理案件の経験が豊富で、自動車関連、動物薬関連、食品関連、公共交通機関、一般社団法人等の幅広い業種の危機管理案件を担当。

 

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