SH4336 意外に深い公益通報者保護法~条文だけではわからない、見落としがちな運用上の留意点~ 第13回 内部公益通報受付窓口(2) 金山貴昭(2023/03/02)

組織法務公益通報・腐敗防止・コンプライアンス

意外に深い公益通報者保護法
~条文だけではわからない、見落としがちな運用上の留意点~ 

第13回 内部公益通報受付窓口(2)

森・濱田松本法律事務所

弁護士 金 山 貴 昭

 

Q 内部公益通報受付窓口で受け付ける必要がある通報の種類

 当社は内部公益通報受付窓口を設置しましたが、内部公益通報受付窓口で受付をしなければならない通報とは具体的にどのような通報ですか。

 

A 【ポイント】

公益通報者保護法は、「公益通報」について、①通報主体、②通報の目的、③通報先、④通報内容を規定しており(法2条1項)、これらの要件を満たす公益通報の場合には、内部公益通報受付窓口において受け付ける等の適切な対応を行わなければ、公益通報者保護法違反となります。ただし、通報の受付時点では、公益通報者保護法上の「公益通報」に該当するか判然としない場合も多く、公益通報に該当するかで通報への対応の在り方を区別する場合には、公益通報該当性の判断は慎重に行う必要があります。

 

【解説】

 法定指針では、内部公益通報受付窓口では、「内部公益通報を受け付け」(法定指針第4の1(3))ることが必要とされ、「内部公益通報」とは、「法第3条第1号及び第6条第1号に定める公益通報」(法定指針第2「用語の説明」)と定義されています。法3条法6条は、通報先ごとの公益通報保護要件を定めた条文で、それぞれの第1号は(通報主体の如何にかかわらず)事業者内部への公益通報(「当該役務提供先等に対する公益通報」)について定めています。そのため、法定指針が定める「内部公益通報を受け付け」とは「事業者内部への公益通報を受け付け」ることを意味します。

 「公益通報」は、公益通報者保護法2条1項において定められており、①所定の通報主体が、②不正の目的でなく、③所定の通報先に対し、④所定の通報内容を通報することとされており、これらの要件の中でも、①所定の通報主体と④所定の通報内容を正確に把握することが重要ですので、以下ではこの二つの要件について説明します。

 

1 通報主体

 法2条1項では、公益通報の通報主体は下記の通り定めています。

  • 労働者や労働者であった者(1号)
  • 派遣労働者や派遣労働者であった者(2号)
  • 請負契約等で業務に従事している取引先の労働者や労働者であった者、派遣労働者や派遣労働者であった者(3号)
  • 役員(4号)

 労働者(1号)や役員(4号)は、事業者と直接労働契約や委任契約等を締結して事業者の業務に従事していますが、派遣労働者(2号)や取引先の労働者等(3号)は、事業者と直接の契約関係にはないものの、公益通報者法では公益通報の主体として保護の対象としています。法2条1項がこれらの者を通報主体と定めた趣旨は、事業者との直接の労働契約や委任契約の有無に関わらず、事業者の犯罪行為やその他の法令違反行為を認知することができる立場の者を公益通報者として保護して、公益通報を促すことを目的としているからです。そのため、「内部公益通報」の通報主体には、事業者と直接契約関係がある労働者等のみならず、派遣労働者や取引先の労働者等も含まれることには留意が必要です。

 なお、取引先の労働者等(3号)については、条文では「請負契約その他の契約に基づいて事業を行う場合」と規定されていますが、どのような契約が含まれるかは必ずしも明確ではありません。この点、消費者庁HPで公表されているQA[1]や逐条解説[2]では、卸売業者などとの継続的な物品納入契約、清掃業者などとの継続的な役務提供契約、コンサルティング会社などとの継続的な顧問契約などに基づく場合には3号に該当し、販売を業としない者による一度限りの販売契約などについては、当該契約に基づいて「事業を行う」ものとはいえないために、その相手方が「役務提供先」に該当しない場合があると考えられるとしています。当該記載からは、依然として、たとえば、販売を業とする者との継続的ではない売買契約の場合が、3号に該当するかは明らかではありません。また、継続的な契約関係か否かで3号の適用の有無を区別することも考えられますが、そもそも「継続的」か否かについても不明確であることから、実務上は広く取引先の労働者等で実際に業務に従事している者からの通報を受け付ける体制を整備することが望ましいと考えられます。

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(かなやま・たかあき)

弁護士・テキサス州弁護士。2008年東京大学法学部卒業、2010年東京大学法科大学院卒業、2019年テキサス大学オースティン校ロースクール(L.L.M.)修了。2011年弁護士登録(第二東京弁護士会)、2019年テキサス州弁護士会登録。2021年消費者庁制度課(公益通報制度担当)、同参事官(公益通報・協働担当)出向。
消費者庁出向時には、改正公益通報者保護法の指針策定、同法の逐条解説の執筆等に担当官として従事。危機管理案件の経験が豊富で、自動車関連、動物薬関連、食品関連、公共交通機関、一般社団法人等の幅広い業種の危機管理案件を担当。

 

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