会社法改正に伴う上場制度の整備について
岩田合同法律事務所
弁護士 伊 藤 広 樹
東京証券取引所は、本年1月30日、会社法の一部を改正する法律(以下「改正会社法」という。)により導入される制度等を踏まえて、適時開示事由の見直しを含む上場制度の整備(以下「本整備」という。)の概要について公表し、現在、パブリック・コメントを募集している。具体的には、主に、改正会社法における①特別支配株主の株式等売渡請求制度の新設、及び②社外役員に関する社外性要件の見直しに伴い、所要の制度整備がなされるものとされている。以下、その概要を解説する。
なお、改正会社法は、本年5月1日付で施行されることが決定されているが、本整備の施行日についても改正会社法の施行日と同日を予定している。
まず、上記①については、改正会社法上、いわゆるキャッシュ・アウトの制度が新設され、概要、総議決権の90%以上を保有する株主(特別支配株主)が、他の少数株主に対して、当該少数株主が保有する株式等の売渡しを請求することができるとされている(改正会社法179条)。したがって、特別支配株主は、上記売渡請求を通じて、少数株主に金銭を交付することにより、強制的に発行会社を完全子会社化することが可能となる。もっとも、上記売渡請求については、発行会社の承認が必要とされている(改正会社法179条の3)。
このような改正を受けて、本整備では、(1)適時開示事由として、(a)上場会社の株式について特別支配株主が上記売渡請求をすることについての決定をした場合等(発生事実)、及び、(b)上場会社の業務執行決定機関が上記売渡請求を承認することについての決定をした場合等(決定事実)を新たに追加するとともに、(2)上記売渡請求により特別支配株主が上場会社の全株式を取得する場合には、当該上場会社の株式が上場廃止となる旨を定めることとしている。なお、上記(2)については、従前から完全子会社化の手法として利用されていた全部取得条項付種類株式によるキャッシュ・アウトと同様に、株式取得日の3日前(休業日を除く。)の日を上場廃止日としている。
また、上記②については、改正会社法上、10年以上前に株式会社又はその子会社の業務執行者であった者についても、社外役員(社外取締役又は社外監査役)としてその社外性が認められることとなった(改正会社法2条15号、同条16号)が、当該社外役員についても、その他の社外役員と同様に、独立役員として指定することができることとしている。もっとも、そのような経歴を有する者を独立役員として指定する場合、状況によっては投資家がその独立性を懸念する場合もあり得ることから、その旨及びその概要の開示を求めることとしている。
以上のとおり、本整備は、いずれも改正会社法の内容を踏まえると合理的な対応であると考えられるが、上場会社においては、(特に、本年の定時株主総会で早速問題となり得る上記②について、)遺漏のない対応が望まれる次第である。
改正会社法 |
本 整 備 |
①特別支配株主の株式等売渡請求制度の新設 |
(1) 適時開示事由の追加 (a) 上場会社について特別支配株主が上記売渡請求をすることについての決定をした場合等(発生事実) (b) 上場会社の業務執行決定機関が上記売渡請求を承認することについての決定をした場合等(決定事実) (2) 上場廃止基準の追加 |
②社外役員に関する社外性要件の変更 |
社外役員:10年以上前に株式会社又はその子会社の業務執行者であった者 → 独立役員として指定可能。 → 但し、その旨及びその概要の開示が必要。 |
以 上
(いとう・ひろき)
岩田合同法律事務所弁護士。2004年早稲田大学法学部卒業。2006年早稲田大学法科大学院修了。2007年弁護士登録。主にM&A取引、会社法を始めとするコーポレート分野に関するアドバイスを行う。著作には、『会社法実務解説』(共著 有斐閣 2011)、「新商事判例便覧」旬刊商事法務2031号~(共著 商事法務 2014~(連載))等。
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