合同会社の社員権の取得勧誘にかかる規制の見直しと考えられる論点(1)
増田パートナーズ法律事務所
弁護士 松 葉 知 久
弁護士 瓜 生 容
1 はじめに
金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(令和4年9月12日内閣府令第53号)により、金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令(以下「定義府令」という。)14条3項2号が改正され(以下「本改正」という。)、金融商品取引法2条2項3号に掲げる合同会社、並びに一定の合名会社及び合資会社(以下「合同会社等」という。)の社員権の発行者に関する「みなし規定」(当該社員権が特定有価証券[1]に該当しない限り、合同会社等自身がその社員権の発行者とみなすもの)の内容が変更された。本改正は、主に合同会社の社員権の取得勧誘に関わるトラブルが多数発生していたことを踏まえ、当該取得勧誘にかかる規制の見直しを図るものであるが、その改正内容を正確に理解するのが必ずしも容易でない上、合同会社の設立実務への影響に対する懸念や、本改正により投資家保護という目的が達成されるのかという疑問もあり得るところと考えられる。そこで、本改正の経緯・趣旨・内容を説明するとともに、こうした懸念や疑問を踏まえた論点について考察するため、本稿を執筆することとした。
本改正は、令和4年10月3日より施行されている。
なお、本稿中、意見にわたる部分は執筆者らの個人的な見解であり、執筆者らが現在または過去に所属する組織の公式的な見解を示すものではないことに留意されたい。
2 本改正の経緯・趣旨
近時、事業実態が不透明な合同会社が、必ずしもその業務実態を把握していない多数の従業員(使用人)を用いて、高利回りをうたうなどして社員権に対する出資を勧誘し、出資後、勧誘者と連絡が取れなくなるなどのトラブルが多数発生していた[2]。
しかし、本改正前の定義府令14条3項2号[3]では、前述のとおり当該社員権が特定有価証券に該当しない限り、合同会社自身がその社員権の発行者とみなされていた[4]。すなわち、合同会社が自社の業務としてその役員や従業員に社員権の取得勧誘を行わせても、基本的には合同会社自身による行為となるため、合同会社の社員権の自己募集・自己私募[5]であって、金融商品取引業に該当しないことになる[6]。このため、証券取引等監視委員会の調査権限が及ばず、問題のある勧誘等について裁判所への停止命令等の申立てを行うことができない状況であった(金融商品取引法194条の7第4項、187条1項、192条1項)[7]。
こうした状況を踏まえ、投資者保護を徹底するため、本改正において、合同会社の業務執行社員以外の者による社員権の取得勧誘について金融商品取引業の登録が必要な範囲を拡大する措置がとられたものである。
3 本改正の内容
合同会社等の社員権(金融商品取引法2条2項3号)[8]について以下の①または②に該当する場合には[9]、業務執行社員が発行者とみなされ、いずれにも該当しない場合のみ合同会社等が発行者とみなされることとなった(金融商品取引法2条5項、定義府令14条3項2号)。
そうすると、上記①または②に該当する合同会社の社員権の取得勧誘を合同会社の役員や従業員が業として行う場合、これらの者は(発行者とみなされる)業務執行社員と別人格であるから、有価証券の募集または私募の取扱いに該当し(金融商品取引法2条8項9号)、取得勧誘を行う役員や従業員について、第二種金融商品取引業の登録が必要ということになる(金融商品取引法29条、28条2項2号)。
②は、有価証券投資以外の事業を行う合同会社等の社員権も含まれるため、非金融事業を行う合同会社が業として投資家に社員権を取得させる場合でも、第二種金融商品取引業の登録を受けていなければ、役員や従業員に社員権の取得勧誘を行わせることはできず、発行者とみなされる業務執行社員自身が自己募集・自己私募として行う必要があることになる。この点は、一見、規制の強化のようにも見えるが、脚注4のとおり、令和2年改正定義府令以前の定義府令下でも、合同会社の事業内容にかかわらず業務執行社員が発行者とみなされており、それ以外の者(合同会社の役員や従業員等)による業として行われる取得勧誘については、第二種金融商品取引業の登録が必要であったと考えられるため、令和2年改正定義府令より前の状態に戻ったと捉えるのが正確である。①または②に該当する合同会社の社員権の取得勧誘を業として行う場合について整理すると、以下のとおりである(「第二種金融商品取引業の登録の要否」は、業務執行社員以外の者が取得勧誘を行った場合を前提としている。)。
発行者 | 第二種金融商品取引業の登録の要否 | |
令和2年4月30日以前 (令和2年改正定義府令施行前) | 業務執行社員 | 要 |
令和2年5月1日~令和4年10月2日(令和2年改正定義府令施行下) | 合同会社(特定有価証券に該当するものについては業務執行社員) | 否(特定有価証券に該当するものについては要) |
令和4年10月3日以降 (本改正施行後) | 業務執行社員 | 要 |
①、②のいずれにも該当しない有価証券は、合同会社等の社員権のうち、電子記録移転権利で、かつ、その出資総額の50%以上を有価証券投資以外の事業に充てているものであり、その場合には、合同会社等自身が発行者とみなされる(定義府令14条3項2号イ⑵)。もっとも、電子記録移転権利である合同会社等の社員権の自己募集・自己私募を業として行う場合には、第二種金融商品取引業の登録が必要とされているため(金融商品取引法29条、28条2項1号、2条8項7号ト、金融商品取引法施行令1条の9の2第2号、定義府令16条の2)、このような場合には合同会社自身に当該登録が求められることになる。
ここまで、本改正の経緯・趣旨・内容について説明してきたが、次回は、本改正に関して考えられる論点について検討を進めることとしたい。
(2)につづく
[1] 金融商品取引法5条1項、金融商品取引法施行令2条の13。合同会社等の社員権で特定有価証券に該当するのは、具体的には以下のとおりである。
- ① 有価証券等投資事業権利等
- ② 電子記録移転権利で、その出資総額の50%超を有価証券投資に充てて事業を行う合同会社等の社員権
①の「有価証券投資事業権利等」には、電子記録移転権利以外でその出資総額の50%超を有価証券投資に充てて事業を行う合同会社等の社員権(金融商品取引法3条3号イ(2)、金融商品取引法施行令2条の10第1項3号)が該当し、②の「電子記録移転権利」とは、金融商品取引法2条2項各号の権利のうち、電子情報処理組織、すなわちインターネット等で移転することができる財産的価値(電子機器等に電子的方法により記録されるものに限る。)に表示されるものをいう(金融商品取引法2条3項)。
[2] たとえば、東京都が運営するウェブサイトでも、平成27年2月4日の記事において、「『合同会社への出資』って何? 怪しげなもうけ話に注意!」と題する注意喚起が行われている。また、脚注7に記載する合同会社に関する裁判例であるが、当該合同会社の従業員の勧誘によりその社員権等を購入したことにつき、当該勧誘に説明義務違反等があったとして、当該合同会社(民法715条1項)およびその業務執行社員(会社法597条)に対する損害賠償請求が認められた事案として、東京地判令3・10・8(WESTLAW,JAPAN 文献番号2021WLJPCA10088004)、東京地判令3・11・25(WESTLAW,JAPAN 文献番号2021WLJPCA11258012)、東京地判令4・3・25(WESTLAW,JAPAN 文献番号 2022WLJPCA03258011)がある。
[3] 金融商品取引法2条5項は、「この法律において、『発行者』とは……証券又は証書に表示されるべき権利以外の権利で第二項の規定により有価証券とみなされるものについては、権利の種類ごとに内閣府令で定める者が内閣府令で定める時に当該権利を有価証券として発行するものとみなす。」と規定しており、これを受けた定義府令14条3項2号が、合同会社等の社員権の発行者とみなされる者について定めている。
[4] 令和元年金融商品取引法改正に伴い、仮想通貨交換業者に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令(令和2年4月3日内閣府令第35号)により改正された定義府令(令和2年5月1日施行。以下「令和2年改正定義府令」という。)14条3項2号。なお、当該改正前の同号では、一律に業務執行社員が合同会社の社員権の発行者とみなされていた。
[5] 新たに発行される有価証券の取得勧誘(一般的に、投資家の有価証券への関心を高めてその取得を促進させるような行為が取得勧誘に当たる。)のうち、多数の投資家を相手に行うなど一定の要件を満たすものを「有価証券の募集」、それ以外を「有価証券の私募」という(金融商品取引法2条3項)。このうち、有価証券の発行者自身がその取得勧誘を行う場合を(金融商品取引法上の用語ではないが一般的に)「自己募集」「自己私募」と呼ぶ。
[7] 合同会社(脚注2記載の各裁判例と同じ合同会社である。)およびその代表社員・専務執行役員により、出資金全額をゲームプラットフォームの開発等を目的とする海外法人への貸付けに充てるために行われた当該合同会社の社員権の取得勧誘等につき、証券取引等監視委員会により禁止および停止を命じるよう裁判所に申立てがなされたが、その後、令和2年改正定義府令が施行されたことにより、当該取得勧誘については金融商品取引業に該当しないことになったとして、当該取得勧誘にかかる申立てについては取り下げられたという経緯をたどった事案がある。
https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2020/2020/20200313-1.html
https://www.fsa.go.jp/sesc/news/c_2020/2020/20200807-1.html
[8] 合名会社、合資会社の社員権については、その社員または無限責任社員の全員が株式会社や合同会社である場合に限られる(金融商品取引法施行令1条の2)。なお、合同会社等の社員権の性質を有する外国法人の社員権(金融商品取引法2条2項4号)についても、同様の改正が行われている。
[9] これらの整理について、本改正にかかる令和4年9月12日付「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」2~3頁のNo.8~13参照。
(まつば・ともひさ)
増田パートナーズ法律事務所パートナー、弁護士・情報処理安全確保支援士。
2001年早稲田大学法学部卒業、2004年弁護士登録(第二東京弁護士会)。ホワイト&ケース法律事務所、金融庁任期付職員(審判官)、SBIホールディングス株式会社勤務等を経て、2015年増田パートナーズ法律事務所入所。金融規制・ファンド投資・会社法・M&A・知的財産権等に関する法的助言、契約法務、紛争解決を主に取り扱う。上場会社等の社外役員も務める。
(うりゅう・よう)
増田パートナーズ法律事務所アソシエイト、弁護士。
2008年東北大学法学部卒業、2010年一橋大学法科大学院卒業、2012年判事補任官。千葉地方裁判所、仙台法務局訟務部付検事、仙台家庭裁判所、大阪地方裁判所勤務を経て、2020年に弁護士登録(第一東京弁護士会)し、増田パートナーズ法律事務所入所。訴訟その他の紛争解決、会社法・知的財産権・労働法・M&A等に関する法的助言、契約法務を主に取り扱う。
<事務所概要>
増田パートナーズ法律事務所は、大手渉外事務所出身の弁護士増田英次によって設立され、会社法、金融商品取引法、M&A、知的財産権、エンターテインメント等の各種企業法務、紛争解決、一般民事事件まで幅広い業務分野を取り扱っている。顧客も、上場企業や海外企業から中小企業、個人と多岐にわたる。