◇SH1762◇社外取締役になる前に読む話(16)――監視義務違反を免れるために⑵ 渡邊 肇(2018/04/11)

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社外取締役になる前に読む話(16)

ーその職務と責任ー

潮見坂綜合法律事務所

弁護士 渡 邊   肇

 

XVI 監視義務違反を免れるために(2)

 前回紹介したワタナベさんの疑問は以下の通りである。

 当社が製造販売している製品と競合する製品を販売している会社に勤めている友人から、当社の米国子会社が中南米のある国での新規取引を獲得するために、現地の政府高官と接触し、金員を渡しているとの情報を得た。そもそも当社の米国子会社が中南米のある国での新規取引を開始するということ自体、取締役会では議論になったこともない。

 どうしたらよいだろうか。

 もしこの行為が法に触れるとしたら、私は責任を問われる可能性はあるのだろうか。

 

解説

 前回解説したように、業務に関与していない取締役の監視義務については、取締役会の上程事項と非上程事項で責任を肯定するための要件を区別し、取締役会非上程事項については、業務執行の内容を知り又は知ることが可能であるなどの事情があるにもかかわらず、業務執行取締役の違法行為を看過したような場合に限って責任を肯定している裁判例がある。

 この前提には、業務執行に関わらない取締役は当該業務に関わる情報を入手する機会が限られているため、業務執行取締役に比して責任発生要件を厳格にすべきであるという配慮があると考えられる。そうだとすると、この区別は、取締役会の上程事項か否かという形式的基準ではなく、当該業務に関与していない取締役にも情報共有がなされているか否かという実質に照らして判断されるべきであろうと思われる。そして、業務執行に関与しない社外取締役の監視義務についても、このような考え方は基本的には妥当すると思料される。

 したがって、この裁判例に従えば、ワタナベさんについても、本人の知らないところで取締役が違法行為等に関与した場合には、ワタナベさんが当該業務執行行為の内容を「知り又は知ることが可能であるなどの事情があるにもかかわらず、業務執行取締役の違法行為を看過したような場合」以外は、基本的には監視義務違反に問われる危険性は低いこととなる。しかしながらこの設例の場合、ワタナベさんは既に、海外腐敗行為防止法(FCPA)違反を構成する危険性のある事実の存在、すなわち、業務執行取締役が違法行為に関与しているかもしれないという情報を入手している。ワタナベさんは、当該情報を社外の非公式なルートで情報を入手したに過ぎず、しかもそのルートも、競合会社に勤務する友人という、その信憑性に疑念もあるルートではあるが、たとえ情報の入手経路等から、当該情報の信憑性等に問題があり得たとしても、実際に調査に着手すれば、当該情報の真偽やそれに対する対処が可能になり、結果的に会社の損害が回避される可能性があったのであれば、監視義務発生の端緒として、当該情報の入手経路や入手方法如何で責任を減免するという議論は説得力を持ち得ないと思われる。従って、当該業務執行行為により、実際に会社に損害が発生し、ワタナベさんが何らのアクションも採らなかった場合には、ワタナベさんが監視義務違反に問われる可能性は高いといわざるを得ない。

 ではワタナベさんはどうしたらよいのだろうか。

 ワタナベさんが最初に直面する問題は、社内の誰に相談するのが適当なのかということになろう。この問題は、視点を変えて、会社としてまず何をすべきか、という点から考えることも一助となるかもしれない。取締役が違法行為に関与している可能性があるという情報を入手した場合、会社がまずすべきことは、徹底した事実調査であろう。そうだとすると、社内の誰がそのような事実調査を開始することができるかという観点から相談すべき人物を考えてゆけば良いことになる。

 通常真っ先に浮かぶのは代表取締役であろう。代表取締役であれば、社内の総ての部門に対し、徹底した調査を命じることが可能となるはずである。それでは代表取締役に通報すれば十分なのだろうか。ここで考えるべきは監査役との協力である。監査役は、会社の業務及び財産の状況の調査権限が付与され(会社法381条2項)、逆にかかる調査権限を適切に行使しない場合には任務懈怠に問われる。また、監査役設置会社における監査役は、取締役の責任追及を行う場合には、会社を代表して訴えを提起する権限も付与されている(会社法386条1項。因みに細かい話になるが、「取締役会設置会社ではあるが、監査役設置会社ではない会社等」では、代表取締役が会社を代表することになる。)。つまり、監査役は、その職務上の権限として、取締役の業務が適切に行われているか否かについて事実調査を行うことが会社法上認められているのであり、取締役としても、自らの監視義務を十全に全うするために、この監査役の調査権限を活用することは検討されて良いと思われる。

 本設例でも、ワタナベさんとしては、代表取締役に通報して相談することは勿論検討されて然るべきであるが、それと同時に、監査役会に連絡、協議の上、具体的対応を委ねるということも検討すべきであろう。代表取締役へ自らが通報するよりも、監査役会との協議をまず行い、具体的方策は監査役会に委ねる方がむしろより適切な場合もあると思われる。

 いずれにしても、業務執行取締役が違法行為に関与した可能性のある情報を入手した以上、これを放置した場合には最終的に責任を負担することもあり得るということをワタナベさんは十分に理解し、具体的対策を採るべきである。

 

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