企業法務フロンティア
契約英語の基礎(3)
日比谷パーク法律事務所
弁護士 原 秋 彦
6. 権利・義務の表現
6. 1. 権利(right; entitlement)の表現
- shall have the right to do something, except as otherwise expressly provided herein(本書において明示的に別段の規定がある場合を除いて、何かをする権利を有するものとする)
契約書における助動詞「shall」の用例は<義務的なニュアンス>を出すものと説明されることが多いようであるが、このように権利があることを示す条項においても用いられることから分るように、権利・義務について命令的、定言的に表示する用例であって、和訳語としての「……ものとする」は、そうしたニュアンスを表出しようとする和訳。
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shall be entitled to do something, notwithstanding anything to the contrary as set forth herein(本書において規定されたいかなる別段の定めにも関わらず、何かをする権利を有するものとする)
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may [shall be permitted to; allowed to] do something (何かをすることが許容される)
6. 2. 義務(duty; obligation)の表現
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shall do something, subject to the requirements specifically set forth herein(本書に具体的に規定された要求事項に従うことを条件として、何かをするものとする)
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shall not do something, unless otherwise explicitly dictated elsewhere in this Agreement or in any writing separately agreed upon between the parties hereto(本契約書の別の箇所において又は本書当事者らが別途合意する書面において明示的に別段の指示がない限り、何かをしないものとする)
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shall be obliged [obligated] to do something on a case-by-case basis, without limiting the generality of the foregoing provisions(前述の規定の一般性を制限することなく、1件1件ごとに何かをする義務を有するものとする)
- shall have the duty [obligation] to provide certain services(一定の役務を提供する義務を有するものとする)
なお、一般的には「duty」は一定の地位に付随する「職責・責務」というような文脈で用いられることが多い(例として、「fiduciary duty of a Director」(取締役の信認関係上の義務))。
- shall be precluded [prohibited; barred; banned] from doing something(何かをすることを妨げられる〔禁じられる〕ものとする)
7. 英米法独特の用語・概念の例
- consideration (約因):
「enter into an agreement in consideration of good and valuable promises and covenants as set forth herein」(本書において規定された良好にして価値のある約束事項及び誓約事項を約因として契約を締結する)
「consideration」というのは、「報酬」や「考慮事由」という意味合いもあるが、契約書の頭書において記載されるこの文言は、取引上の一定の対価関係の存在を意味する言葉で、それを欠いている場合には契約としての強制執行性がないという、英米法(コモンロー)独得の法概念。その意味では、契約準拠法を明らかに日本法として指定しているような契約文書において上記の文言を入れるのは実質的に意味がない。
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law/ legal(コモンロー/コモンロー上の) v. equity/ equitable(衡平法/衡平法上の)
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legal remedies/ remedies at law/ monetary relief(コモンロー上の救済措置/金銭的な救済手段)
- equitable remedies/ remedies in equity/ injunctive relief 〔relief of specific performance〕(衡平法上の救済措置/作為・不作為(具体的な為す債務(特定履行)による救済手段)
ここにいう「legal」と「equitable」の違いは、中世イギリスの封建社会での裁判制度に由来するもので、封建諸侯間での紛争は基本的に同輩によって運用される裁判所において金銭的解決をもって裁かれるものであったのに対し、領地がらみのような金銭的な解決ではケリの付けにくい紛争は王室裁判所が作為命令や不作為命令をもって裁いていたという伝統に由来する。したがって、「legal or equitable remedies」という英語を「法的な又は公正な救済策」と訳していたのでは全く意味をなさない。「(common) law/ legal/ monetary relief/ jury trial(陪審による証拠調べ)」と「equity/ equitable/ non-monetary relief/ non-jury trial(非陪審の証拠調べ)」とでは対置関係にあると理解しておくべきである。