SH3046 企業法務フロンティア「第三者委員会調査報告書と文書提出命令」 野宮 拓(2020/03/09)

取引法務企業紛争・民事手続

企業法務フロンティア
第三者委員会調査報告書と文書提出命令

日比谷パーク法律事務所

弁護士 野 宮   拓

 

1 大手住宅メーカーの調査対策委員会の調査報告書と「自己利用文書」該当性

 大手住宅メーカーが地面師グループとの架空の土地売買取引で約55億円もの詐欺被害にあったことについて取締役の責任を追及する株主代表訴訟に関連して、同社が設置した同社の社外取締役2名及び社外監査役2名から構成される調査対策委員会(以下「本件委員会」という)の調査報告書(以下「本件調査報告書」という)について、大阪地裁が文書提出命令を出し、抗告審である大阪高裁もこれを支持した(大阪高決令和元・7・3判タ1466号96頁。以下「本件決定」という)。会社側は、調査報告書は「自己利用文書」(民事訴訟法220条4号ニ)に該当するため文書提出義務はない旨主張したが、裁判所はこれを退けたのである。

 周知のとおり、最高裁は、銀行の貸出稟議書が自己利用文書に該当するかが争われた事案において、「ある文書が、その作成目的、記載内容、これを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯、その他の事情から判断して、専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されていない文書であって、開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど、開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には、特段の事情がない限り、当該文書は民訴法220条4号ハ所定の『専ら文書の所持者の利用に供するための文書』に当たると解するのが相当である」と判示している(最二決平成11・11・12民集53巻8号1787頁)。

 本件決定は、上記最決を引用した上で、インカメラ手続により裁判所のみに提示された本件調査報告書の内容を検討し、①本件委員会の目的が、公平公正な視点で事実経緯を明確にし、発生原因を究明し、会社としてどのようにすれば詐欺被害を防げたのかを明らかにし、よりよい業務体制を構築するためにはどうすべきかを取締役会に答申することであること、②関係者個人の責任に言及する類の記載はなく(あっても抽象的な一般論の形に留まっている)、本件調査報告書は関係者の発言あるいは論争を赤裸々に記録した文書ではなく、会社の組織としての意思決定や行動のあり方の問題点を客観的に指摘するものであって、まさに本件委員会の目的に適った内容になっていることを認定した上で、本件調査報告書の内容がそのようなものであることや会社の代表取締役会長が本件調査報告書の概要を公表した事実からすれば、本件調査報告書が外部の者に開示することがおよそ予定されていなかった文書であると断定することは困難であるとした。また、本件調査報告書が開示されても個人のプライバシーが侵害され、あるいは関係者個人の自由な意思形成や会社の団体としての自由な意思形成が阻害されるなどの不利益も生ずるおそれがあるとは認められないとして、本件調査報告書は自己利用文書には該当しないと結論づけた。

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