◇SH1781◇中国:改正「不正競争防止法」(3・完) 虚偽宣伝・営業秘密侵害等 川合正倫(2018/04/19)

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中国:改正「不正競争防止法」(3・完)

虚偽宣伝・営業秘密侵害等

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 川 合 正 倫

 

 中国の改正「不正競争防止法」が2018年1月1日から施行された。前稿までに不正競争行為、混同行為、商業賄賂について紹介した。最終回となる本稿では、虚偽宣伝・営業秘密侵害、行政責任・民事責任に関する改正点ついて紹介する。

 

4. 虚偽宣伝行為(改正法第8条)

 改正法においては、商品の性能、機能、品質、販売状況、ユーザー評価、受賞歴等について誤認させる虚偽宣伝を通じた欺罔行為又は消費者誤導行為を規制するとともに、他の経営者による虚偽宣伝行為への幇助行為も規制している。

 ネットワーク上の口コミ等の重要性の高まりを受け、これらを捏造する行為が問題視されており、ユーザー評価や受賞歴を偽る行為が規制対象として明示された。なお、広告法の規制対象行為である虚偽広告に関する旧法の規定は重複解消の観点から削除されている。

 虚偽宣伝にかかる行政処罰についても厳罰化が図られており、旧法において違法行為の停止、1万元以上20万元以下の過料とされていたが、改正法においては過料額が20万元以上200万元以下まで引き上げられるとともに、重大な事案においては営業許可証の取消しの対象とされた。

 

5. 営業秘密侵害行為(改正法第9条)

 営業秘密侵害行為の行為類型に関しては大きな変更はないが、営業秘密の構成要素のうち旧法において「権利者に対し経済的利益をもたらす」とされていた点が、「商業価値を有する」と変更されており、保護範囲の拡大が図られている。また、改正法においては、営業秘密の権利者の従業員及び元の従業員による行為が規制対象となることも明確化された。また、違反時の過料額の上下限ともに引き上げられた結果、10万元以上300万元以下とされている。

 

6. 行政責任に関する規定

(1) 行政責任の厳罰化

 上述のとおり、改正法においては、各種不正競争違反行為にかかる行政責任の厳罰化が図られている。また、改正法に違反して行政処分を受けた場合には、監督機関が信用記録をとるとともに、関連法規に基づき公示されることとされており(改正法第26条)、レピュテーションリスクとの関係においても注意が必要となる。

(2) 減免規定の新設

 行政責任の厳罰化が図られる一方で、違法行為による危害結果の自主的な消除又は軽減を行政処分の軽減事由として規定するとともに、違法行為が軽微で速やかに是正して危害結果が生じなかった場合には行政処分が課されない旨が規定されている(改正法第25条)。

(3) 行政権限の強化

 改正法においては、旧法における行政調査権限(質問及び資料提出請求権、資料の照会複製権)に加えて、立入検査権、封印差押権、口座照会権が認められており(第13条)、行政機関の権限強化も図られている。

 

7. 民事責任に関する規定

 不正競争行為による民事責任追及においては損害の立証が困難であることが指摘されていた。これを受け、改正法においては民事賠償に関する規定の充実化が図られている(改正法第17条)。

  1. 民事賠償額に関する規定
  2.  •  権利侵害により実際に被った損害額に基づき賠償額を確定する
  3.  •  実際の損害の計算が困難な場合、侵害者が侵害期間に得た利益を基準に確定する
  4.  •  賠償額には、侵害行為を制止するために支出した合理的費用も含まれる
  5.  •  混同行為又は営業秘密侵害行為に基づき権利侵害があった場合で、損害の確定が困難な場合、人民法院は侵害行為の状況に基づき、300万元以下の賠償を命じる

 また、旧法において、侵害者は「損害賠償責任」を負うとされていたが、新法においてはより広範な意味を有する「民事責任」を負うこととされ、損害賠償責任に限定されることなく侵害行為の停止や妨害の排除等の追及も明文で認められた点も注目に値する。

 

8. その他

 上記の商標法、広告法のほか独占禁止法と重複がみられた旧法における不当廉売行為や抱き合わせ販売の制限等の規定、入札法と重複がみられた入札談合に関する規定が削除され、法律の適用関係の明確化が図られた。

 

9. 総括

 以上のとおり、改正法は旧法制定時からの社会情勢の変化を受け不正競争行為を再定義して規制対象行為の明確化を図るとともに、違反のペナルティーを強化している。また、他の法律との矛盾重複についても解消を図るなど実務における懸念の解消に寄与する内容となっている点が評価できる。一方で、改正法の適用範囲については今後の実務累積を待つ必要がある点も多く、中国で事業活動を行う企業にとっては継続的に情報収集することが望まれる内容となっている。

 

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