SH1790 企業法務フロンティア「株主提案権をめぐる改正動向――定款変更に関する議案の数の数え方についての私見」 松山 遙(2018/04/23)

組織法務株主総会

企業法務フロンティア
株主提案権をめぐる改正動向
~定款変更に関する議案の数の数え方についての私見~

日比谷パーク法律事務所

弁護士 松 山   遙

 

 多くの日本企業では、4月より新しい事業年度を迎え、6月の株主総会に向けた準備に取りかかっている。6月総会の企業にとって、本コラムが掲載される4月下旬は、ちょうど株主提案権の行使期限が到来するタイミングである。

 株主提案の件数は増加傾向にあり、2017年版株主総会白書(旬刊商事法務2151号)によれば、昨年度(平成28年7月~平成29年6月)における株主提案行使事例は52社、59件(提案株主別の件数)に上り、うち2件は可決されたとのことである。昨年度の特徴として、可決された株主提案の数は対前年比で減少しているものの、機関投資家等から相応の賛成票を得ている提案が見られること、特定の株主が複数の会社に類似の提案を行っていることなどが指摘されている。

 株主提案権制度は、株主総会の活性化を図るために昭和56年商法改正により導入されたものであり、株主に対して自らの意思を株主総会に訴えることができる権利を保障することにより、経営者と株主との間又は株主相互間のコミュニケーションを図り、開かれた株式会社を実現しようとするものである。実際、この制度をうまく活用すれば、経営者と株主の間で一定の緊張感を保ちつつ建設的な対話を実現することも可能であろう。

 しかし近年では、1人の株主により100を超える膨大な数の株主提案が提出されたり、会社を困惑させる目的で提出されたとしか考えられない株主提案が繰り返されるなど、濫用的な行使事例が散見される。そのため、株主提案権の行使が権利濫用として許されない場合があるとの判断を示した裁判例(東京高判平成27年5月19日)も出されていたが、さらに2018年2月に公表された「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案」(以下「中間試案」という。)では、(1) 提案することができる議案の数、(2) 提案の内容という観点から、株主提案を制限する規定を新設することが議論されている。

 これらのうち、(2) 提案内容で制限するという点に関しては、①株主が専ら人の名誉を侵害し、又は人を侮辱する目的で株主提案を行ったとき、②株主が専ら人を困惑させる目的で株主提案を行ったとき、③株主が専ら当該株主又は第三者の不正な利益を図る目的で株主提案を行ったとき、④株主提案により株主総会の適切な運営が妨げられ、株主の共同の利益が著しく害されるおそれがあるときには、株主提案を拒絶できるようにすることが提案されている。もっとも、これらの各拒絶事由には「専ら」「著しく」という要件が付されているため、実際に拒絶できる場面はかなり限定されてしまうのではないかと考えられる。これらの要件については、厳格に過ぎるのではないかという指摘がある一方で、これらの要件を削除してしまうと株主提案を過度に制限してしまう懸念があり、中間試案では「専ら」「著しく」という要件を用いているとのことである。

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