◇SH1804◇わが国におけるヘッジファンド・アクティビズムに対する法的対応と課題(5) 山田剛志/井上健(2018/04/27)

M&A・組織再編(買収防衛含む)

わが国におけるヘッジファンド・アクティビズムに対する法的対応と課題(5)

成城大学法学部
教授 山 田 剛 志

バークレイズ証券株式会社
金融法人部長・マネジング・ディレクター 井 上   健

 

4. アクティビスト・ファンドからのアプローチと問題点

 以下では、まず、アクティビスト・ファンドの一般的なアプローチ方法について整理した上で、対象企業がどのような対応をとるべきかまとめてみたい。

(1) アクティビスト・ファンドからのアプローチ

 ファンドによる対象企業へのアプローチ方法・態様は、個別事案毎に大きく異なるものの、いつくかのステップを踏んで進めることが通常である。以下では一般的なアプローチ方法・態様について概観したい。まずアクティビスト・ファンドからのアプローチを時系列順に考える。

  1. 事前準備:前述のように、アクティビスト・ファンドは対象企業の株式を取得する前に、かなり詳細かつ綿密な企業分析を行い、潜在的な株式価値に比べて割安になっている会社を探し出し、どのような経営改善策を講じれば株価を引き上げられるのか(unlock the hidden value)について入念な検討を行っている。また、自らの要求が他の株主からも支持されるか否か確認するため、他の機関投資家と非公式な接触をしているケースもある。
     アクティビスト・ファンドは十分勝算が得られると判断した場合、株式取得を水面下で進める。この段階では株式保有が秘密裏に行われることが重要であり、大量保有報告書の規制(例:日米では5%以上の議決権)にかからないように、現物株式の取得のみならず、デリバティブ取引を絡め株式保有名義が外部に出ないようにしながら買い進めることも多い。
     
  2. 対象企業への接触:対象企業との接触方法は様々な態様があるが、一般的には、アクティビスト・ファンドが一定数の株式を取得した上で、対象企業の経営陣に対し非公式な面談を申し入れる。経営陣との面談においては、アクティビスト・ファンドは、株主の立場で、対象企業に関する事業・財務における問題点を指摘し、経営改善を要求することになる。面談は複数回に及ぶことが多く、また、米国の場合は、経営の監督と執行が分離していることから、経営陣だけでなく取締役会メンバー(社外取締役など)に対する面談を要請することもある。前述のように、対象企業への要求事項は個別事案毎に異なり多岐にわたるが、経営陣との面談時に、何らかの書面(書簡やプレゼンテーション資料)があわせて提示されるケースが一般的である。
     
  3. マスコミ等への公開によるキャンペーン展開:アクティビスト・ファンドの要求は、対象企業に対する非公式の水面下でのアプローチだけでは、受け入れられるケースは少ないことから、往々にして、アクティビスト・ファンドは対象企業に対する要求内容を公開し、資本市場やマスメディアを巻き込んで、対象企業の問題点を指摘し、経営陣に対する圧力、批判を強めていく。アクティビスト・ファンドは、自らの正当性を訴えるため、対象企業に関する分析結果や経営改善策を記した書面やプレゼンテーション資料を公表する。前述のとおり、ホワイト・ペーパーと言われる数十ページに及ぶ詳細な分析資料が公表されることもある。
     この段階で、衆人環視の下、「劇場型」の攻防戦になることから、アクティビスト・ファンドによる要求もエスカレートする傾向にあり、「CEOの更迭」、「会社の身売り」等のより踏み込んだ要求をするケースが多い。さらに、経営陣の高額報酬や不祥事等を指摘し攻撃を強めてくることもあり、場合によっては、何らかの理由に基づき訴訟を提起することもある。
     
  4. 株主総会における議決権争奪戦:さらに要求が受け入れられない場合、株主総会の開催を要求し、議決権争奪戦を仕掛けることもある。最も多いケースは、「取締役の派遣」を企図した議決権争奪戦であり、アクティビスト・ファンドの関係者またはファンドが指名する者を取締役として投資先企業に送り込み、経営改善事項の実現を目指すものである。

 

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