実学・企業法務(第136回)
法務目線の業界探訪〔Ⅱ〕医藥品、化粧品
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
〔Ⅱ〕医薬品、化粧品
〔Ⅱ-1〕医薬品
5. 副作用等による被害を報告・救済する制度
医薬品は、有効性と安全性の微妙なバランスの上に成り立っている。
国は、極めて慎重な審査プロセスを経て新薬を承認しているが、それでもまれに、実際に投与された患者において副作用等が生じることがある。
医薬品の製造販売業者(又は、外国特例承認取得者)は、材料調達と製造工程において十分な安全管理を行い、かつ、販売後に市場で副作用等の兆候が現れていないことを確認することが義務付けられている。もし、副作用や感染症の情報を得た場合は、企業報告制度に基づいて厚生労働大臣に報告しなければならない[1]。
薬局・病院・診療所等の開設者や医師・歯科医師・薬剤師等の医薬関係者にも、副作用や感染症の発生を知ったときに厚生労働大臣に報告する義務がある[2]。
これらの厚生労働大臣への報告は、緊急性・重篤性等によって15暦日以内に報告すべき事項と、30暦日以内に報告する事項に分かれる[3]。
万一、副作用等による被害が発生した場合に備えて、PMDAを運営母体とする次の公的な被害者救済制度が設けられている(医薬品医療機器総合機構法)。
① 医薬品副作用被害救済制度(1980年開始)
- ・「副作用」により入院治療が必要なほど重篤な健康被害が生じた場合に医療費等を給付する。
- ・ サリドマイド事件、スモン病事件等の副作用被害を経験して創設された。
② 生物由来製品感染等被害救済制度(2004年開始)
- ・ ワクチン・遺伝子組換え製品・動物成分抽出医薬品・血液製剤等の「感染救済給付」を行う。
- ・ ヒト免疫不全ウィルス(HIV)、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)等の感染被害を経験して創設された。
- (注) 2014年以降、再生医療等製品による被害も救済の対象になった。
①②共通の手続き(医薬品医療機器総合機構法16条~20条)
• 給付手続きの概要
- 1 まず、健康被害者本人(又は遺族)が、PMDAに給付請求する。
- 2 請求を受けたPMDAは厚生労働大臣に、判定の申し出を行い、同大臣が因果関係等を「薬事・食品衛生審議会(副作用・感染等被害判定部会)」に諮問する。
- 3 同審議会の答申を受けて、同大臣からPMDAに判定結果を通知する。
- 4 PMDAは、同大臣の通知に基づいて給付の支給の可否を決定し、被害者に通知する。
• 給付対象になるケース
- ・ 入院治療を必要とする程度の健康被害で医療を受けた場合(医療費、医療手当)
- ・ 日常生活が著しく制限される程度の障害がある場合(障害年金、障害児養育年金)
- ・ 死亡した場合(遺族年金、遺族一時金、葬祭料)