タイ:取引競争法に基づく最近の摘発事例②
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 佐々木 将 平
前回に続き、タイの取引競争法に関する最近の摘発例を紹介する。
果物販売業者による違反事例(優越的地位の濫用)
取引競争委員会は、2018年7月10日、チャンタブリ県における有力な果物販売業者に対して、取引競争法54条及び57条(2)の違反を認定し、排除措置命令を行った。
同業者は、ロンガンの売買において、ロンガンのサプライヤーとの間で以下の行為を行っていた。
- ・ サプライヤーからの購入価格を非常に安い価格に設定。
- ・ サプライヤーに対して、他の購入者との接触を禁止するとともに、接触した場合にはデポジットの3倍の額のペナルティが課していた。
- ・ サプライヤーがデポジットの返還を求めることのできる日や解約権について明記せず。
取引競争委員会は、当該販売業者がサプライヤーからの購入を行わず又は遅延させる場合には、サプライヤーは価格をさらに下げるプレッシャーが生じる状況にあることを認定し、当該販売業者がサプライヤーに対して優越的な地位を濫用していると結論づけた。本件については、上記命令を受けた販売業者は、上記命令に従い違反行為を取りやめたため、罰金の制裁は科されなかった。
農作物販売業者による違反事例(不公正な取引条件の設定)
メーホーンソーン県及びチェンマイ県におけるカボチャの卸売業者が、2017年9月から10月頃にかけて、農家から商品を廉価で購入するとともに、他の地域の卸売業者が農家から購入することを妨げたことに関して、取引競争法57条(3)に違反(他の事業者の事業を制限又は妨げる不公正な取引条件の設定)するとされた。
当該違反行為は、年間売上げの10%以下の行政罰の対象となるものであるが、取引競争委員会は違反者が調査に協力したことを考慮して、売上げに基づき計算された上限額の半額(25,000バーツ)の行政罰を科した。
以上で紹介したような各事例は従前の競争法執行実務からすれば摘発の対象にならなかった可能性があるが、今後は執行が活発化していく傾向にあると思われるため、注意が必要である。
以上