実学・企業法務(第139回)
法務目線の業界探訪〔Ⅱ〕医藥品、化粧品
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
〔Ⅱ〕医薬品、化粧品
〔Ⅱ-2〕化粧品
1. 業界の特徴
- ・ 日本の化粧品業界[1]の規模は2兆円強で、業界特有の流通システムが存在する。
- ・ 近年、訪日外国人旅行者の増加に伴って、インバウンド需要が拡大している。
- ・ 肌に健康被害が生じる可能性があり、製造販売が医薬品医療機器等法で規制されている。
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・ 企業の法律業務では、マーケティング関係のウェイトが比較的大きい。
景品表示法、独占禁止法、下請法、商標法、意匠法、著作権法、肖像権処理(キャンペーン等) -
・ 販売では、ブランド・イメージが重視される。
広告・宣伝が活発である。
百貨店・空港免税店等の化粧品売り場に複数の著名ブランドが並び、各社がイメージを競う。
メーカーが、展示棚、陳列方法、看板、冊子、ポスター、商品説明・実演方法等を主導する。 - ・ 新商品のPRでは、サンプル(試供品)を配付することが多い。
2. 販売チャンネル
消費者に美容・安全・価格(安価)等を訴求するために、さまざまな流通チャンネルが形成されている。特定の流通チャンネルに特化する企業もある。
- ① 制度品流通
- 大手化粧品メーカーや有名ブランドと、百貨店・化粧品専門店等の小売業者が直接契約する。店頭で、メーカーから派遣された美容部員が顧客に実演等する対面販売を行い、高価格帯の商品が対象とされる。陳列棚・販促物等はメーカーが小売業者に提供する(無償の場合と有償の場合がある)。
- 化粧品全体の販売の約35%を占める。
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以前は大きなチャンネルだったが、近年、一部が「一般品流通」「通信販売」に代わりつつある。
- ② 一般品流通
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化粧品の約30%が、「メーカー→一般卸売→小売業者(量販店、ドラッグストア、コンビニ等)→消費者」の一般品流通経路で販売される。中・低価格帯の商品が多いというイメージがあったが、最近では、高級品も販売される。消費者は、雑誌・インターネット・店頭展示等で情報を入手し、自分の眼で選択する。
- ③ 訪問販売品流通[2]
- メーカーが販売員を消費者の家庭や職場等に派遣して直接販売する。ディストリビューターが販売する例もある。女性の社会進出に伴って販売対象になる在宅者が減少し、訪問販売チャンネルは縮小傾向にある。
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訪問販売はクーリング・オフ[3]の対象となる点に注意しなければならない。
- ④ 通信販売流通
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消費者がメーカー又は通販業者に商品を注文し、商品が直接消費者の手元に届けられる。注文にあたっては、特定の個人が多人数の分を「まとめ」注文して自分の周囲の者に分配し、ポイントや数量キャンペーンのメリットを集中して受ける例がある。
- ⑤ 業務用品流通
- 美容院やエステサロン等の業務用の販売規模は大きくないが、安定したチャンネルとされる。
[1] 世界の化粧品メーカー(ビューティー部門)の大手:ロレアル、ユニリーバ、P&G、エスティ・ローダー、資生堂、エイボン、バイヤスドルフ、ジョンソン&ジョンソン、シャネル、花王(カネボウ含む)。
[2] 日本訪問販売協会の訪問販売高データ(2015年度、正会員企業の集計値〈小売ベース〉)によれば、1位:化粧品(3,681億円)、2位:健康食品(2,753億円)、3位:清掃用具(1,349億円)で、この順位は過去10年間変わらない。このデータによれば、1997年度の化粧品の訪問販売高は7,116億円(2015年度はこの48%減)である。
[3] 特定商取引法2条1項、9条