◇SH1995◇チェックアンドバランスが機能するコーポレートガバナンス(12・完) 饗庭靖之(2018/07/26)

未分類

チェックアンドバランスが機能するコーポレートガバナンス(12・完)

首都東京法律事務所

弁護士 饗 庭 靖 之

 

13 監査等委員会設置会社における取締役会のあり方

 (1) 監査等委員会の職務内容

 株式会社に社外取締役を置くことが強く勧奨されていることから、平成26年の会社法改正により、監査等委員会設置会社の制度が創設された[1]

 監査等委員会設置会社は、業務執行者に対する監督機能を強化するために、監査の権限を監査役から、業務執行者を任免する権限を持つ取締役会に移し、これを社外取締役が過半数となる監査等委員会に担当させ、かつ監査等委員会の権限を自治的に拡大することを認め、社外取締役の影響力が増大することが可能なように設計されている。

 具体的には、取締役で構成される監査等委員会は、指名委員会等設置会社の監査委員会と同様に会議体であり、組織的な監査を行う点で、独任制の機関である監査役と異なっている。

 そして監査等委員会は、取締役の職務の執行の監査(会社法399条の2第3項第1号)を行うが、監査等委員は、業務執行者でないことが必要であり(会社法331条3項)、その過半数は、社外取締役でなければならない。(会社法331条6項)

 監査等委員会は、指名委員会等設置会社の監査委員会の権限に加え、ほかの取締役の選任等および報酬につき、総会への意見陳述権を持つ。

 組織に対する規制が柔軟であり、監査役会を委員会に置き換えただけのものから、取締役の中で社外取締役が過半数を占めるとき等は、業務執行権を大幅に委譲したモニタリングモデルとなることまで可能である(会社法399条の13第5項・第6項))。

 (2) 監査等委員会設置会社における取締役会の経営機能と監督機能

 監査等委員会設置会社は、監査役設置会社の監査役で構成される監査役会が、取締役で構成される監査等委員会に置き代わることを基礎的な骨格としているが、この構造が監査役設置会社と類似しているため、監査等委員会設置会社は、指名委員会等設置会社に比べると、取締役会による業務執行者に対する監督機能が強くない。

 このため、監査等委員会設置会社においても業務執行者に対する監督機能の強化が図られる必要があり、社内出身の取締役が取締役会において代表取締役の意向に拘束されることなく発言することによって、取締役会において慎重な合議による経営判断が行われるようにしていく必要がある。このため、代表取締役の意向に左右されて社内出身の取締役の行動が影響を受ける可能性を排除するため、次期代表取締役候補者を含めた業務執行取締役の選定方針と育成計画について取締役会が監督する後継者計画を行う必要があろう。

 

14 指名委員会等設置会社における取締役会のあり方

 (1) 指名委員会等の職務内容

 取締役会は、業務執行の決定を大幅に執行役に委任することができる。

 取締役会が執行役に委任できない事項は、経営の基本方針の決定、執行役の選任解任、内部統制システム、市場取引による自己株式の取得、株主総会の招集、利益相反の承認権限等である。

 執行役は取締役と兼務することが認められているので、取締役会構成員になることができ、このため、取締役会は、社外取締役と業務執行を行う執行役によって構成されることとなり、取締役会が業務執行者に対する監督機能を持つこととなり、「単層構造」の取締役会となる。

 取締役会は、業務執行者である執行役を実効的に監督するため、社外取締役が過半数を占める三委員会(指名委員会(株主総会への取締役の選任解任議案の内容を決定する)、報酬委員会(執行役・取締役の個人別の報酬を決定する)、監査委員会)が置かれる。

 (2) 指名委員会等設置会社における取締役会の経営機能と監督機能

 指名委員会等設置会社は、社外取締役の業務執行者に対するモニタリング機能が前面に出る制度である。

 業務執行の決定などの経営機能は、執行役に委任することが予定されているため、取締役会の本来的機能である「慎重な合議により、企業活動全体を合目的的に統一して行うよう経営判断していく」という経営機能が、監査役設置会社よりも弱くなるおそれがある。

 慎重な合議により経営判断していく経営機能を強化するためには、経営判断において、社内出身の執行役による慎重な協議が行われるように、社内出身の執行役が代表執行役に従属しない関係性の構築が必要である。このため、次期代表執行役候補者やそのほかの執行役など会社の枢要な業務執行者が、代表執行役の意向に左右されて行動に影響を受ける可能性を排除するために、次期代表執行役候補者を含めた執行役の選定方針と育成計画について取締役会が監督していく必要があろう。



[1] 「業務執行者に対する監督機能を強化することを目的として、監査をする者が業務執行者の任免を含む取締役会の決議における議決権を有することとするとともに、重複感・負担感をできるだけ避けつつ社外取締役の機能を活用しやすくするための方策として、(中略)監査等委員会設置会社制度を創設することとしています。」(坂本三郎編著『一問一答 平成26年改正会社法〔第2版〕』(商事法務、2015)18頁)

 

タイトルとURLをコピーしました