実学・企業法務(第140回)
法務目線の業界探訪〔Ⅱ〕医藥品、化粧品
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
〔Ⅱ〕医薬品、化粧品
〔Ⅱ-2〕化粧品
3. 事故・事件の例
(例1)資生堂東京販売事件(対面販売の是非)最高裁判決 1998年(平成10年)12月18日
化粧品を百貨店等の売場で来客に実演等して販売する対面販売(本件では「カウンセリング販売」という。)を行うように一定の義務を課した取引契約の条項が、独占禁止法に違反するか否かが争われ、有効とされた。
- 〔参考にしたい教訓〕
- ・ 市場で顧客の満足を得る取引を、自信を持って実践すること。
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・ 法律問題になる可能性がある取引は、十分に訴訟の準備をして行うこと。
契約の条文に問題がないこと。
社内ルールを確立し、サービス提供の現場で、それを忠実に実践すること。
〔事案の概要と結論〕
資生堂東京販売(以下、「販売会社」という。)は、小売販売の特約店契約で、顧客に化粧品の使用方法等を説明し、顧客の相談に応じて積極的に推奨販売することを義務付け、販売会社から購入した商品を販売会社と特約店契約を結んでいない他の小売店等に卸売販売することを禁じている。
ところが特約店Xは、販売会社に告げずに、通信販売に近い(顧客と対面して説明・相談すること等が全く予定されていない)小売業者に卸売販売した。
販売会社が、特約店契約の解約条項に基づいて、特約店Xに対する出荷を停止したところ、特約店Xは、「カウンセリング販売を義務付ける約定」及び「これに伴う卸売販売禁止の約定」は、独占禁止法19条(2条9項4号に基づく指定)が禁じている「再販売価格の拘束」及び「拘束条件付取引」に該当するので無効だと主張した。
最高裁は、以下の通り、販売会社が行っている「カウンセリング販売」には違法性がないとした。
この判決は、「対面販売」の是非が争われた事例として説明されることが多い。
- ⑴ カウンセリング販売には合理性がある
- 特約店契約において、特約店Xに義務付けられた「カウンセリング販売」は、化粧品の説明を行ったり、その選択や使用方法について顧客の相談に応ずる(少なくとも常に顧客の求めにより説明・相談に応じ得る態勢を整えておく)という付加価値を付けて化粧品を販売する方法である。販売会社がこの販売方法を採る理由は、これによって、最適な条件で化粧品を使用して美容効果を高めたいとの顧客の要求に応え、あるいは肌荒れ等の皮膚のトラブルを防ぐ配慮をして顧客に満足感を与え、他の商品とは区別された資生堂化粧品(以下、「商品」という。)に対する顧客の信頼(いわゆるブランドイメージ)を保持しようとするところにある。
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化粧品という商品の特性に鑑みれば、顧客の信頼を保持することが市場競争力に影響することは自明で、販売会社が「カウンセリング販売」を採ることには合理性がある。
- ⑵ 不当な「拘束条件付き取引」ではない
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販売会社は、他の取引先との間においても本件特約店契約と同一の約定を結んでおり、実際にも相当多数の商品が「カウンセリング販売」により販売されていることからすれば、販売会社に対してこれを義務付けることは、相手方の事業活動を「不当に」拘束する条件を付けた取引に当たるものということはできない。
- ⑶「再販売価格の拘束」ではない
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販売方法に関する制限を課した場合、販売経費の増大を招くこと等から多かれ少なかれ小売価格が安定する効果が生ずる。しかし、そのような効果が生ずるというだけで、直ちに販売価格の自由な決定を拘束しているということはできない。販売会社が「カウンセリング販売」を手段として再販売価格の拘束を行っているとは認められない。
- ⑷ カウンセリング販売の義務を負わない小売店等への卸売販売を禁止する契約は、違法ではない
- 販売会社と特約店契約を締結しておらず「カウンセリング販売」の義務を負わない小売店等に商品が売却されてしまうと、特約店契約を締結して販売方法を制限し、商品に対する顧客の信頼(いわゆるブランドイメージ)を保持しようとした特約店契約の目的を達することができなくなる。
- 販売会社と特約店契約を締結していない小売店等に対する卸売販売の禁止は、「カウンセリング販売」の義務に必然的に伴う義務というべきであり、「カウンセリング販売」を義務付けた約定は独占禁止法に違反しない。