◇SH2179◇最一小判(池上政幸裁判長)各損害賠償請求事件(平成30年10月11日) 徳丸大輔(2018/11/06)

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最一小判(池上政幸裁判長)各損害賠償請求事件(平成30年10月11日)

岩田合同法律事務所

弁護士 徳 丸 大 輔

 

 最高裁判所第一小法廷(池上政幸裁判長)は、平成30年10月11日、金融商品取引法(以下「金商法」という。)18条1項に基づく有価証券届出書等の虚偽記載によって損害を被った請求権者による損害賠償請求訴訟において、同法19条2項により賠償責任の範囲外とされる損害の額の認定に関し、民事訴訟法(以下「民訴法」という)248条の類推適用を認める判断を示した。これにより、裁判所は、同法19条2項により賠償責任の範囲外とされる損害について、その額を立証することが極めて困難な場合においては、当該損害の額として相当な額を認定することができることになる。

 本判決に係る事案は、東京証券取引所に上場されていた株式会社(被上告人)における不適切な会計処理(売上の過大計上等)により、過年度決算の訂正と業績見通しの下方修正を行ったことに関して、投資者ら(上告人ら)が、過大計上という有価証券届出書等の虚偽記載があったとして、届出会社である上記株式会社に対し、金商法18条1項に基づく損害賠償請求等を求めて提訴したというものである。本判決の原審における争点は多岐にわたっているが、最高裁第一小法廷は、上記判示事項に係る投資者ら(募集に応じて株式を取得した投資者ら)の上告受理申立てのみを受理し判断を示した。

 なお、本判決の第一審判決[1]は、金商法18条1項の責任を肯定した初の公刊裁判例とのことである[2]

 金商法18条1項は有価証券届出書等の虚偽記載があった場合、発行市場において当該有価証券を募集又は売り出しに応じて取得した者が、届出会社に対し、原則として取得について支払った額から損害賠償請求する時における市場価額分を控除した額について(同法19条1項1号参照)、損害賠償責任を追及することができる旨規定したものである。なお、有価証券報告書等に虚偽記載があった場合の流通市場における提出会社の損害賠償責任は、同法21条の2第1項に規定されている。

 この点、流通市場における提出会社の損害賠償責任については、虚偽記載等によって生じた当該有価証券の値下がり以外の事情により生じたこと(以下「他事情値下がり」という。)を証明したときは損害賠償責任が減免され(金商法21条の2第5項[3]、以下「減免の抗弁」という。)、他事情値下がりが認められ、かつ、当該他事情により生じた損害の性質上その額を証明することが極めて困難なときは、裁判所が減免額について証拠等に基づき相当な額を認定することができる旨規定されている(同条6項)。これに対し、発行市場における届出会社の損害賠償責任については、減免の抗弁は明示されている(金商法19条2項)ものの、裁判所が減免額について証拠等に基づき相当な額を認定することができる旨の規定は存在しないため、この責任については届出会社において具体的な額を立証しなければ減免の抗弁が成立しないとも解し得る。

 本判決は、この問題について、民訴法248条の類推適用を認める判断を示した。この点に関して、深山裁判官は、流通市場における提出会社の損害賠償責任について、民法248条の類推適用がされたのと同様の取扱いがされることを明らかにするために金商法21条の2第6項が設けられたものと考えられ、同法19条に同法21条の2第6項のような規定が置かれていないことは、同法19条2項の減免額の認定について民訴法248条の類推適用を認める解釈の妨げになるものではない旨の補足意見を述べている。

 なお、届出会社としては、減免の抗弁を主張する上では、他事情値下がりを立証する必要があるところ、本件控訴審判決では、他事情値下がりについて以下の判断を示していた。

事情[4] 判示事項の概略
虚偽記載等の公表日前の値下がり
【肯定】
一般に、虚偽記載等が公表されていない間には、それ以前に正規の情報提供以外のルートを通じて虚偽記載等に係る事情が流布していたなどの特段の事情がない限り、これが市場価額に影響を与えることはないと考えられる。
暫定的な開示(市場における業績悪化リスクの認識)による値下がり
【否定】
当該事情は業績予想の下方修正(注:後記)についての市場における受け止め方をいうものであり、両者は業績悪化を原因とする点で共通するものであるから、業績予想の下方修正とは無関係な独立の値下がり要因とみるのは相当ではない。
業績予想の下方修正による値下がり
【肯定】
業績の悪化は、虚偽記載の原因となる不適切な会計処理の見直しの結果生じるものであり、虚偽記載自体やそのことの公表によって業績悪化や業績予想の下方修正がもたらされたわけではなく、虚偽記載がなければ業績予想の下方修正が行われなかったという関係があるわけでもない。

 本判決は、他事情値下がりに関する本件控訴審判決には何ら変更するものではなく、他事情値下がりの存否に関する立証においても参考となると思われる。

以 上

 


[1] 東京地判平成26年11月27日判例秘書搭載

[2] 藤林大地「有価証券報告書等の虚偽記載と発行会社の損害賠償責任」金商1521号2頁(本判決の第一審判決に係る判例評釈)。

[3] ただし、平成26年法律第44号による改正後のもの。以下、条文は改正後のものを摘示する。

[4] 届出会社は、このほか、①市場要因又は業界要因による値下がり、②公表日前後平均下落額と想定値下がりとの誤差が他事情値下がりに該当すると主張したが、いずれも値下がりの存在自体を認定できないとして排斥されている。

 

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