◇SH1897◇実学・企業法務(第145回)法務目線の業界探訪〔Ⅲ〕自動車 齋藤憲道(2018/06/11)

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実学・企業法務(第145回)

法務目線の業界探訪〔Ⅲ〕自動車

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

〔Ⅲ〕自動車

5. 自動車産業は、大規模ですそ野が広い総合産業

 自動車は、関連する技術・業界の分野が極めて広い、大規模な産業である。

 以下に、自動車に関係する主な産業を挙げる。それぞれの分野に有力企業が存在する。

(1) 完成車メーカー

• 自動車製造に係わる企業群の頂点に位置し、新モデルの開発・デザイン・設計を行って、完成車を製造・販売する。

  1. (参考) 車両メーカー[1]が、世界の顧客に販売する建設機械車両にGPSを搭載し、それが現地で稼働する状況等を集中管理して、補修部品確保・省燃料・保守費用低減等を実現し、顧客満足度を向上した例がある。

• 企業の規模が大きいので、部品事業者との取引において独占禁止法の「不公正な取引方法(優越的地位の濫用他)[2]」及び「下請法」に抵触しないように注意する必要がある。

 〔問題視されやすい行為の例[3]
 補給品の価格決め、型保管費用の負担、配送費用の負担、原材料価格・エネルギーコスト等の価格転嫁、一方的な原価低減率の提示、自社努力の適正評価[4]、不利な取引条件の押しつけ、取引条件の変更、受領拒否・検収遅延、長期手形の交付・有償支給原材料の早期決済、金型図面及び技術ノウハウ等の流出

(2) 部品メーカー(自動車の完成品1台あたり2~3万点の部品を使用する)

• 完成車メーカーが調達する主な部品及び機械装置を次に示す。

  1. 〔基幹素材〕鋼板、ガラス、化学樹脂(炭素繊維含む)、塗料、他
  2. 〔動力系部品〕エンジン、変速機、動力伝達装置、冷却装置、ハンドル、アクセル、ブレーキ、制御回路、他
  3. 〔他の本体部品〕座席、モータ、灯火、エアバッグ、シートベルト、自動制御機器・システム、他
  4. 〔装着部品〕バッテリー(ガソリン車用、電気自動車用等)、タイヤ、ホイール、音響機器、空調機器、カーナビ、他
  5. 〔工場の機械装置〕組立・塗装等のロボット、自動搬送機、他

• 完成車メーカーが部品メーカーに対して行う発注の方法(例)

 生産月の6ヵ月前に見込みを提示、2~3ヵ月前に修正見込みを提示、1ヵ月前に確定発注し、特に必要があれば2週間程度前に生産調整・調達微修正・在庫調整等を行う。

• 部品メーカーの「補修部品」供給義務

 特定の自動車が企画打ち切りにより生産中止となっても、部品メーカーは補修部品の供給を求められることがあるので一定量を長期保有し又は金型を保管して必要時に追加生産する等の方法で対応する。保有期間・保管方法・費用負担については当事者間で契約する。

• 自動車メーカーが行うリコールに関する部品メーカーの対応

 自動車のリコールに際して「部品に原因がある」として、部品メーカーが完成車メーカーから求償されることがある。交換部品費用や改修作業の工賃は完成車メーカーが一時的に負担する。不具合の原因が、設計・製造工程・部品の品質等のいずれにあるのかを特定し、各関係者の責任の割合に応じて、費用を分担する。

 なお、製造物責任法では、部品メーカーの完成品メーカーに対する「部品・原材料業者の抗弁」を認めている[5]

(3) 自動車販売、利用サービス提供

• ディーラー、中古車販売(近年、ネット利用が増大) 

 中古車の買取販売は「古物営業法」の対象になるので、都道府県公安委員会の「古物商許可」を取得して行う。新車販売は、原則として自由である。

  1. (注) 古物営業法の目的
     取引される中古車の中には、盗難車等が混在する可能性がある。古物営業法は、盗品等の売買の防止、被害品の早期発見により窃盗等の犯罪を防止し、被害を迅速に回復することを目的とする(同法1条)。
     自動車、自動二輪車及び原動機付き自転車、自転車類が対象になる[6]

• 近年、リース、レンタル、シェアサービスが増加している。

(4) 自動車金融 (自動車メーカーが金融子会社を持つ例もある[7]

 信販会社系と銀行系に大別され、一般に次のような特徴がある。

  1. ① 信販・クレジット系(ディーラー経由を含む)
     ディーラーや信販会社が販売する自動車の所有権を留保してローンを組み、全額返済時に所有権留保解除手続きを行う。審査は銀行系と比べて緩やかである。
  2. ② 銀行系ローン
     購入直後に自動車の購入者に所有権を移転する。審査は厳しい[8]

    (注) 金利は、一般的に、信販・クレジット系よりも銀行系ローンの方が低いとされる。



[1] コマツの「KOMTRAX」システムは、世界で約30万台稼働中のコマツの建設機械にGPSを搭載して管理する。

[2] 独占禁止法19条、2条9項1~6号。公正取引委員会告示昭和57年第15号「不公正な取引方法」は、例えば、取引拒絶、差別対価、取引条件等の差別取扱い、排他条件付取引、拘束条件付取引、競争者に対する取引妨害等の行為類型を一般指定して全事業者に適用している。

[3] 「自動車産業適正取引ガイドライン(経済産業省2017年1月改訂)」11頁より抜粋

[4] (例)自社努力によるコストダウンを図っても、逆に、コストダウン分の単価引き下げを求められる。

[5] 製造物責任法4条2号

[6] 古物営業法2条1項、古物営業法施行規則

[7] トヨタファイナンシャルサービス(株)、General Motors Acceptance Corporation等

[8] 金融機関がローンの金利の中から保証料を保証会社に支払い、その保証会社が保証する等の方法を採る。

 

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